先週の寝つきも悪く、目覚めも悪い連続の日々とは大違いの、心も身体もスッキリとした目覚めのいい月曜の朝。 私の隣でまだぐっすりと寝ている隆ちゃんを起こさないように静かにベッドから降りて寝室を出る。一緒に住み始めて二週間が経ち大分朝ご飯の準備には慣れてきた。今日はワカメと豆腐の味噌汁とご飯、目玉焼きとウインナーを焼いた。最初の頃は煮物とか副菜たくさん出さないと! って意気込んでいたけど「朝からそんなに気負わなくていいよ」と隆ちゃんが言ってくれたお陰で手軽に食べてる簡単な物しか作らなくなった。本当にありがたいお言葉のお陰で目玉焼き、卵焼き、オムレツのローテーションで朝ご飯は回っている。
「隆ちゃん、朝ご飯の準備出来たよ」
隆ちゃんにはギリギリまで寝てもらい、朝ご飯の準備が出来てから私が彼を起こしに行く。このやり取りが新婚さんみたいで顔がニヤけそうになるのを止め……られない。つい顔が綻び口角が上がる。
「……なーにニヤけてんの?」
隆ちゃんの手が布団の中からスッと伸びてきて私の頭を優しい手つきで撫でる。
(はぁ、好き)
朝から好きだと再確認させられる。(いや確認するほどでも無く物凄く好きなんだけどね)
「隆ちゃん、朝ご飯できたよ。おはよう」
「ん、おはよ。準備してくれてありがとう」
隆ちゃんは必ず朝ご飯を準備した私に対して「ありがとう」と必ず言ってくれる。そう言った些細な気遣いが本当に嬉しい。私も隆ちゃんを見習って必ず夜ご飯を毎日作ってくれる隆ちゃんに「ありがとう」「美味しかった」と言葉にして伝えるようにしている。
(っても先週は地獄のような毎日だったけどね……カップラーメン食べたり、出前取ったり……)
「今日の朝ご飯も美味しかったよ。ご馳走様でした」
一粒も米粒を残さず綺麗に食べ終え、しっかりと両手を合わせてご馳走さまをする隆ちゃん。こういった所も好きだ。
身支度を整えて一緒に会社に向かう。せっかくモヤモヤしてた心は晴れたのに六月の梅雨入り。シトシトと雨が降り空気がじめっとした嫌な天気だ。傘をさして歩く分隆ちゃんとの距離があく。未だに隆ちゃんと二人で歩いているとジロジロ女子社員から見られたりもするが最初の頃よりはかなり減った方だ。同僚の小畑佳穂が言っていた通り隆ちゃんはかなり会社では人気上位の男性だったらしく、二次元しか興味の無かった私は全くもって隆ちゃんの存在を知らなかった。(本当にごめんなさい)そんな素敵な人と巡り会えて、お父さんには感謝だなぁ、と思いながら会社に着きピッと社員証をかざして入る。
「じゃあ今日も定時で終わると思うから連絡入れるな」
「うん、頑張ってね」
三階で私はエレベーターを降りた。私と隆ちゃんは働く会社は同じだがフロアは違うので滅多に社内で会うことはない。お昼の社食でさえ時間がずれているので会う事がないのだ。なので帰りは一階のロビーで待ち合わせして一緒に帰る。ちょっとした待ち合わせデートみたいで私は毎日ウキウキしながら退社時間が待ち遠しく何度も時計を確認してしまう癖がついた。
「なーに時計ばっか気にしちゃって、今日も高林さんと一緒に帰るの?」
「佳穂。まぁそうなんだけど、私そんなに時計見てた?」
「見てたわよ、そりゃもう愛おしげに時計に視線を送ってたわ。本当いつの間にか付き合ってたと思ったら結婚するなんて驚きを通り越して羨ましいわ!」
「本当ですよ、俺だって驚きましたよ」
後ろからたまに聞く男性の声。営業部の池澤祐也(いけざわ ゆうや)が領収書をペラリと片手にデスクに座っている私を見下ろすように後ろに立っていた。
「池澤くん……領収書?」
「そうです、これお願いします」
頬に息が当たりそうなほど顔が近い。
池澤くんの距離感にはいつも困るほど近い。けれどそれが私だけなら勘違いしそうになるがこの人は皆んなに対しても距離感が近いのでそういう性格なのだろう。営業部でもかなり成績が良いらしいので性格が功をしているんだろうな、と思わせる。見た目も隆ちゃんとは真逆の明るい茶色の髪の毛にふんわりパーマが当ててあり、二重ではっきりとした瞳に、いつもニコニコと口角が上がりっぱなしの口元。一言で池澤くんを表せば子犬だ。明るく人懐っこい性格で彼も会社では人気があるらしい。(これも佳穂情報だ)
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