テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
分かり合えないぐらいがちょうどいい「……どうして、笑ってるの」
コトちゃんの声は冷たくて、刃みたいに鋭かった。部屋の白い壁に反響して、僕の耳に突き刺さる。
顔を上げると、コトちゃんが目の前に立っていた。手には金属製の警棒。彼女が“赦された者”として与えられた制裁の権利。
ああ、これが現実なんだ。
「コトちゃんに会えて、よかったって思ってたんだ」
「……ふざけないで」
警棒が振り下ろされる音は、何度聞いても慣れない。でも、それでも、怖くなかった。
いや、正確には――コトちゃんの手でなら、壊れてもいいと思った。馴染むことの無いものに対して、興味を惹かれ何度もしようとしてしまう、人間の欲求に当てはまっているのか。そんな事どうでもいいけど。
「コトちゃん、きれいだよ」
「赦された姿も、怒ってる顔も、全部」
「やめろ!!!」
警棒が僕の肩を撃ち抜くように叩いた。骨が軋む。でも、痛みよりも、コトちゃんの叫びのほうが心に響いた。
「僕が赦されなかったのは、きっと僕が悪かったからだよ。分かんないけど。でも――それでも、僕はコトちゃんを……好きでよかったって、思ってるんだ」
コトちゃんの強がりな目が、わずかに揺れていた。
「私は赦されたの。私は正しいって、言われたの。だから、あんたみたいなクズを消さなきゃいけない」
「うん、そうだね。僕は赦されなかったんだから、罰を受けるべきなんだと思う」
床に膝をついたまま、僕は静かに言った。
「でも……僕が間違ってても、コトちゃんのことを想う気持ちは、本当だった。そこだけは、赦されなくても、大切にしたいんだ」
しばらく、コトちゃんは何も言わなかった。警棒を持つ手が震えているのが、遠くの光の中で揺れて見えた。
「気持ち悪い」
ぽつりと呟かれた声は、僕の心を容赦なく抉り、傷つける。絶えず血液が流れ出し、止まることはない。だが、そんな液体でさえ、彼女が傷つけた傷から流れ出ているとなると、勿体なくなってしまう。
「……ごめんね、コトちゃん。僕、君の痛みも、怒りも、全部受け止めたいんだ」
「最低」
「うん。……最低な僕を、見捨てないでくれて、ありがとう」
涙なんて、もうずっと流れなかったのに、今は少しだけ、目の奥が熱い。
コトちゃんは黙って、警棒を下ろした。振り上げることも、手放すこともせずに、ただ――立ち尽くしていた。
やがて彼女は、目を逸らしながらぽつりと言った。
「ハッ、私のことが好き…ね。なら、私の為に死んでくれていいのよ」
「そっか……コトちゃん」
彼女の答えは冷たくて、ただ僕を突き放す。だけれど、話すら聞いてくれなかった以前に比べれば、断然良い。
僕ら、いや、僕は、分かり合おうとしたけど、結局、なんにも理解できなかったね。君を追っていたつもりだったのに、見つめて、追いかけていたのはただの君の影で、なんにも分からなかった。
ねぇ、コトちゃん。一審の、初めて会った時、覚えてる?コトちゃんのミステリアス?な雰囲気に僕ビビっちゃってさ、ぶっちゃけ、君が人殺しは有り得るなーって思ったんだ。
君の第一印象、結構怖い人って感じてたかも。……それからさ、沢山話すようになって、というか、僕が一方的にしつこく沢山話しかけちゃっただけだけど、コトちゃん毎回何かしら答えてくれて、嬉しかったんだ。
コトコトコンビ、めっちゃ名案だと思ったんだけど、やっぱりお気に召さなかったかな。
最初は怖かったけど、だんだん君に好かれて、これが恋って自覚したのは、既に君に嫌われて取り返しがつかない頃だった。
もう、どうしようもないよね。
……コトちゃんはぼくの想いを聞いて、拒絶して、切り裂いた。けれど、告白に対してはNOという答えを返してくれた。僕はそれだけで、今日まで生きていてよかったと、今こんなに幸せなら、たとえ、このままコトちゃんに殺されても良いと思えた。
彼女の足が振り下ろされる。
目の前が赤く染まり──