行灯の中でゆらゆらと揺れる灯り。光も届かぬ地下にある座敷牢の唯一の光源であるそれを、千鉱は見つめていた。
楽座市で、毘灼の統領と名乗った男との邂逅。父親の死の元凶でもある男に膨れ上がる殺意を御し、伯理との合流を優先しようとした所までは覚えている。実際にその姿も目で捉えた記憶はあるものの、そこからぷつりと記憶が途切れて、気づいた時にはここに居た。
窓も時計もないこの部屋は、時間の流れを読むこともままならない。今が昼なのか、夜なのか、外が晴れているのか、曇っているのか、はたまた雨が降っているのか──最も、天気のことなど今の千鉱にはどうでもいいことである。
千鉱が気にしている事は、あの後どうなったのかだけだ。淵天も、真打も、伯理も無事なのか。向こうには柴が居る。最悪の事態にはなっていないだろうが、それでもやはり千鉱の胸中はその事ばかりが気掛かりであった。
自分の置かれている立場も、千鉱は気にしなければいけないのだろうが、ここに訪れる者は日に2度、食事を持ってくる者が居るだけ。食事を持ってくるということは、千鉱をここに閉じ込めた人物は少なくとも千鉱を殺すと言う選択肢は無いのだろうと考えて、まだ死ぬ訳にもいかないと理由をつけて、食事は最低限摂るようにしている。
生きてさえ居れば。
千鉱の心は死んでいない。いつか絶対に、この手で父親の仇を取ると決め、千鉱は今日まで生きてきた。
しかし、ここは時間の概念がない。食事も定期的に来ているのかどうかさえあやふやなこの空間で、千鉱は今日も、復讐の炎だけを胸に抱いていた。
千鉱が居るこの座敷牢の中は、案外広い。
何のために作られた部屋なのかは分からないが、8畳程の部屋の中、そのうちの6畳ほどの広さの3方を木製の格子で囲われた牢獄。奥には唯一千鉱が開けられる扉がある。扉を開けた先は、簡素なしゃわーるーむとといれが備え付けてあった。何のためにと最初は思ったが、無いと困るものでもあるので考えないことにした。部屋の中にある物と言えば、千鉱が寝る時に使っている布団と、食事の際にてーぶる代わりに使っている文机のような物、あとは灯り用の行灯が2つ、部屋の隅に置かれている程度。電気が普及しているこの現代においてなぜ行灯が?と思ったが、いくら経っても消えない事から、蝋燭に見立てた電気の類が使われているのだろう。雰囲気作りと言ったところだろうか?なんて要らない事を考えた事もある。
食事の提供もあり、着替えも食事の配膳係りが置いていくものだから、今のところ最低限の衣食住が保証されている。
「何が目的なのかさっぱりだ」
閉じ込められてから、何度目かの食事でつい零した言葉である。
食して、体を清めて、寝る。
それが今、千鉱に出来る事だ。頼りの淵天も無い今、配膳の男を脅したところでその先千鉱が無事にここから出れる保証もない。何か手立てが見つかるまで、どうしたってここで大人しくしているしかないのだ。そうしていればいずれ、柴がここを嗅ぎつけるかもしれないという淡い期待も千鉱の中には確かに存在していた。故に、てれびもらじおも携帯もない。外界に繋がるものは何一つ存在しないこの空間で、千鉱はただ最低限の生活をしているにすぎなかった。
そんな日々が続いたある日、鍵が開く音に眠りについていた千鉱の意識を浮上させた。
食事にしては早いような、なんてまだ覚醒していない頭でぼんやり考えていた千鉱だったが、鼻に届いた香りが明らかに食事ではないそれで、千鉱は咄嗟に飛び起きた。癖で淵天を掴む動作をするが、その手は何を掴むこともなく、突如現れた侵入者の顔をただ見ることしかできなかった。
「……っ!!お前……!!」
現れたのは、あの日の男だった。
毘灼の統領と自らを称した男。その男が、目の前に居る。
千鉱の殺意が膨れ上がる。淵天も脇差もない状態で、何も出来ないと分かりつつも、千鉱は男に飛び掛かる──が、呆気なく体を拘束されて終わった。
「威勢がいいな、六平千鉱。随分と元気そうで安心した」
薄ら笑みを浮かべながら男は言う。
何を白々しいと思いながら、千鉱は男の拘束から逃れようと藻掻くがびくともしない。
「っ、何が目的でここに連れてきた」
「目的か。そうだな……六平千鉱、もっとお前のことが知りたくなった、とでも言えば満足か?」
「戯言は良い。本来の目的を言え」
「あながち間違いではないが……あそこでみすみす逃すのも惜しくなった。お前が持つ強い理性をどうしたら崩せるのか……見てみたくなってな。手始めに監禁してみたが動じる事もないからこちらが先に痺れを切らしてしまった所だ」
次々男の口から語られる目的に、千鉱は歯噛みする。結局男の言ってることが何一つ理解できない。殺したいほどに憎い男に囚われた所で、冷静さを欠くような真似をするのは得策ではないとわかっている。相手もそんな事はわかるようなものだろうと思うが──そこまで考えた所で、男の酷薄とも見える笑みに千鉱の体に自然と悪寒が走る。
何が、とはわからない。
わからないが、嫌な予感がするのだけは感じ取れて、千鉱はまた男の手から逃れようと藻掻くが、時すでに遅し。
男の妖術である植物に腕を絡め取られ、頭上で格子に一纏めに括られた。千鉱が藻掻いた所で、松の枝で格子に雁字搦めされてしまえば手も足も出ない。
「何をっ……っ!!」
本格的に男の意図が掴めない様子の千鉱に、男はくつくつと喉で笑う。まさかここまでされてもわからないとは男も思っていなかった。が、思わぬ収穫だったのだろう。愉快とばかりに笑い、千鉱の顎を掴んで顔を上向けるとぐっと顔を近づけ目線を合わせる。
「お前の周りの大人は何も教えてくれなかったのか……大人びたと思ったが、まさかまだおぼこだったとは」
僥倖、と笑い男はそのまま千鉱の唇に己のそれを重ねる。
「んんっ……!!」
恋人同士がするような甘やかな口づけ、なんてものではない。喰らいつくような激しい口づけ。無理やりこじ開け舌をねじ込む。千鉱の舌を絡め取り、吸い、唾液を交わらせる。知識では頭にあるが、自分の身に起こるなんて全く思っていなかった事に、千鉱は目を見開き固まる──これでは男の良いようにされるだけだというのに、そこまで頭が回っていない。
「ん、ぅ……っ、んく、んっ……」
呼吸が奪われ、息苦しい。男に舌を吸われ、口内を蹂躙される度千鉱の背に悪寒にも似た何かが走るが、それが何かがわからず、千鉱は身を捩らせる。このまま窒息死するのではないか、と千鉱が考えた頃、ようやく男の唇から解放された。
「っは、……なに、っ、はぁ、はっ……」
「きすの仕方もわからないか」
「意味が、わからない……お前は、何がしたい」
息苦しさから自然に浮かんだ涙が双眸の紅玉を濡らす様の艶めかしさに気付かず、千鉱は男を心底憎しみを込めて睨めつける。それが逆効果になるとも知らず。
千鉱が男への憎しみや嫌悪を募らせる度に、男はうっそりと笑うのだ。もっと、自らの手で千鉱に絶望を与えたいと。その絶望に歪む顔を見たいと。
「言っただろう?俺は、お前の理性を崩したいと。崩れた先にある、お前の絶望が見たいんだ」
だから、と言葉を区切り、千鉱の瞳を覗き込む。
何を考えているのかわからない、昏い瞳に覗き込まれる居心地の悪さに、目を逸らしたくなる。
「手始めにまず、お前を犯してみようか」
男はその昏い瞳に嗜虐の色を乗せ、千鉱の耳元で囁いた。
着ていた浴衣を剥ぎ取られ、連れて行かれたしゃわーるーむで散々洗われた。やめろ、殺すと騒いでも男は一向に止める気配はなく。抵抗の意思はあれど、初めての経験に身体が竦む。男の前で屈辱的な行為を強いられ、身体の外も中も余すことなく洗われ、千鉱は心身ともに焦燥していた。
「随分と大人しくしなったな。まさか、あれで終わりだと思ってるのか?」
身体を清められ、存外丁寧に布団まで運ばれた頃には、千鉱はくたりと体の力が抜けていた。
「終わりじゃ、ないのか……?」
あんなことまでしておいて?と千鉱は信じられない物を見る目で男を見た。その双眸に宿る色に怯えと困惑が混じっている事に、男はくつりと笑う。
「言っただろ?犯すと。あんなもの、ただの準備にすぎない」
犯す──あまりにもぴんと来ない言葉に千鉱は最初は首を傾げていた。せっくすの基本的な知識は何となく持っていても、それを経験することも見ることも無かった千鉱にとって、男同士のせっくすなんて想像する事自体が難しい。
そんな千鉱に対して、男は育てがいがありそうだと嗤う。誰の足跡もないまっさらな新雪を踏み荒らすが如く、男を教え込むのは容易いだろう。
「わからないなら、たっぷりと教えてやろう。犯されると言うのがどんな事か。その身を持って知ると良い」
横たわる千鉱に覆いかぶさり、無防備な唇を攫う。拒む隙も与えずに割り開いた口内へ舌をねじ込み、再び蹂躙する。逃げようとする舌を絡め取り、強く吸えば、千鉱の身体はびくりと震える。
「ん、く……ん、ぁぅ、ふっ……っ!!」
先程とは明らかに違う感覚が千鉱を襲う。男に舌を吸われる度に、腰から痺れるような、ぞわぞわとしたものが千鉱の身体を走る。嫌悪感とは違う感覚に、千鉱は戸惑うも、男の責めは止まらない。
「は、んっ……、ん、ゃ……」
抵抗したい意思はあれど、徐々に身体から力が抜けていく。男を押し返そうとする千鉱の手を頭上で一纏めにし、男は一度唇を離した。見せつけるように舌を出したまま離れていくそこからは、どちらともつかない糸が二人を繋いでいたが、それもすぐにぷつりと途切れる。
「若いな。きすだけで反応してる」
空いている手でゆっくりと千鉱の身体をなぞりながら、男の手は千鉱の緩く立ち上がっている性器へと這う。そっと先端を指で遊ぶように擽ると、そこは触れられた事への悦びからか千鉱の意思とは関係なしにふる、と震える。
「っ……さわ、るな……ぁ、んっ……」
「満更でもなさそうなのに、強がるな」
男は嗤いながら、先端を弄ぶ。
指の先で擦り、裏筋をつぅとなぞる。緩く立ち上がっていた性器は、僅かな刺激で先端から雫を垂らしていて、その様はまるで、もっと触れてほしいと泣いているよう。
「ん、っ……、ぁ、やめ、……っ……」
今すぐにでも殺したい程憎い男に触れられているのに、身体は否応なしに反応してしまう。
男は自分を犯すと言った。ぴんと来なくとも、れいぷという言葉や行為は聞いたことがある千鉱にとって、今の行為がそれに当てはまるのかどうかが判らない。犯すと言う割に、男の手は存外優しく千鉱に触れるからだ。労る、とはまた違う。言いようのない触れ方に、千鉱は困惑と男から与えられる刺激によって思考が鈍っていく。
「せっくすの最中に他所事を考えるのはまなー的に良くないことだと覚えておくといい」
「……、っぁあ……ん、ぁ、あっ……や、ぁっ!!」
千鉱が要らぬことを考えているのだろうと悟ったらしい男の手が、千鉱の性器を強く握ると、先程の弄んでいた時とは比べ物にならない程の性急さで扱く。自分でもあまり処理をしない千鉱にとって、他人から与えられる直接的な刺激は、自分で適当に処理をする時とは比べられない程に強かった。
男の手で育て上げあげられた性器は、強く扱かれる度に先端からだらだらと先走りをこぼし、男の手を濡らしていく。わけも分からぬまま、与えられる快楽に千鉱はただ喘ぐだけ。
「ゃ、あ、あっ……や、め……っんん──っ!!」
憎い男の手でなんて、という千鉱の思いも虚しく、呆気なく男の手の中に白濁を放ち果てる。適当にやっていた性処理が裏目にでたか、それともただ単に経験の差か。どちらにせよ、男の手で射精してしまった事実は変わらない。
「早いな、これでは先が思いやられる」
言葉とは裏腹に、男は至極楽しそうである。千鉱が射精の余韻から少し身体を震わせ、呼吸を整えるように肩で息をしているのを目にしつつも、男は待ってはくれなかった。
千鉱の精液で濡れた手を、そのまま後ろに這わせる。男の指がたどり着いた先は、千鉱ですら触れたところのない場所であり、先程男に丁寧に洗われた場所だった。
「六平千鉱、よく覚えておけ。男に犯されるとはどういう事か……今からその身にじっくりと教えてやろう」
言うが早いか、男は精液で濡れそぼった指を2本、千鉱の中へと埋めていく。
「ひ、っ……ゃ、……いやだ、っ……抜けっ……!!」
異物が入り込む不快感と圧迫感に、千鉱は足掻いて男を拒む。いつの間にか解けていた腕の拘束も無くなっていたから、全力で男をどかそうと抵抗するが、体格差からか男はびくともしなかった。
「最初だから優しくしてやろうとしてるんだ。大人しくしておいたほうが身のためだぞ?」
「うる、さいっ……お前なんかに……優しくされたって、嬉しくない」
「手酷くされるのを所望するとは……だが残念だったな。俺は嫌がられるほど燃える質なんだ。優しくされたくないと言うのなら、殊更優しく抱いてやろう」
男の言葉は千鉱にとって、死刑申告のようであった。
有限実行とばかりに、男は千鉱に口付けると、今度は甘く唇を喰む。ついばむように、何度も口づけながら、男の指は千鉱の中を拡げるように、動く。指の腹が千鉱の中を擦る度、得体の知れない感覚が千鉱を襲う。
男が唇を喰めば、甘い痺れが全身を襲い、中を擦られれば得体の知れない何かが身体を這う。
「ぁ、っ……ん、ゃ、ぁ、ん、ぅっ……」
探るような指の動きと、男から与えられるきすに、千鉱の抵抗はやがて収まり、未知の感覚に身体を震わせて幼子のように意味のない音を零している。所詮はまだせっくすのせの字も知らない18の子供だ。男のように経験もなく、性知識も乏しい千鉱には、最早きゃぱおーばーになっている。
これがまだ、暴力的で、相手のことなど何も考えていないような、千鉱が思い描いていたようなれいぷであれば、千鉱は憎しみを募らせ、ただ耐えるだけで終わったかも知れない。本当に、ただ男の言うように犯されるだけであったのなら──しかし、男が与えてくるのはそんな暴力的なものとは正反対の、愛があるのかと錯覚するような甘やかな物だ。
殊更優しく、と男が言ったように千鉱の中をこれでもかと丁寧に拡げ、徐々にその指を増やしていく。流石に千鉱が濡らしただけでは足りない潤滑も、男が文机の引き出しにあらかじめ用意されていたのだろうろーしょんを使い、千鉱の中は濡れそぼり、男が指を動かす度にぐちゅぐちゅと水音を立てている。
いつの間にか耐え難い圧迫感もなくなり、代わりに微かな快楽が生まれつつあった。
「いい顔になってきたな、千鉱」
涙で濡れる双眸は見知らぬ快楽に揺れている。そんな顔を覗き込み男は嗤い、先程まではお前だの、六平千鉱だのと言っていた男が、名を甘く耳元で囁いた。同時に、男の指が千鉱の中にある柔い部分を掠める。
「あっ……!?ゃ、あ、っ……そこ、や、ぁあっやめ、──っ!!」
今までの比ではない快楽が走る。性器を触れられた時とはまた違うそれに、千鉱は言い知れぬ恐怖に襲われて反射的に男の手から逃れようと足掻くが、男はそれを良しとしない。逃げられないようにのしかかり、千鉱が大きく反応した箇所を重点的に指の腹で押して更に刺激を与えてくる。
「いやだ、っあ、ぁあ、っそこ、さわ、るなぁっ」
怖い、知らない、嫌だ──気持ちいい。
様々な感情が一気に駆け巡り、千鉱は男に縋り、泣く。止めて、何でもするからと、口からはそんな言葉が出てくるが、男はその様に嗤うだけで、止める事もなければあまつさえ縋る千鉱を抱き寄せて、額や顔に、宥めるようなきすを繰り返す。
「随分と可愛い反応をする」
これは返すのが惜しくなってしまいそうだ、と男は考える。いずれは千鉱を柴の下へ返そうと決めていたものの、予想外な事をするものだから男の決心が揺らぐ。存外、この何も知らない子供が気に入っているようだ、と思いながら、腕の中で快楽に咽び泣く千鉱の今後を考え直す必要がありそうだと思案しながら、男はようやく千鉱の胎から指を引き抜いた。
「ぅ、あ……っ、は……」
腕に抱いた千鉱を一旦布団へと下ろし、男はすらっくすの前を寛げる。千鉱の痴態にあてられて、昂った性器を目の当たりにした千鉱からは、さっと血の気が引いた。嘘だ、と信じられないものを見る目で男の顔と性器とを見比べて、いよいよ死期でも悟ったかのような表情を浮かべる。一気に正気が戻ってきたようだ。
「むりだ、ほんとうに……そんなのっ」
「無理じゃない。存分に解してやっただろう?お前なら入るさ」
どこにそんな根拠があるのか。
千鉱が思ったのもつかの間、男が千鉱の足を割り開き、先程まで指が入っていた箇所へと昂りをひたりと当てた。
「ひっ……ゃ、やめ……っぁ、あ、ぐっ……」
男の性器が、千鉱の腹へと埋め込まれる。
指とは比べ物にならない質量。無理だと思われたそれも、太い所が入ってしまえば、千鉱の予想に反してすんなりと深くまで埋められた。
「ほら、入ったじゃないか」
「は、……ぅ、ぐっ……う、そだ……」
信じられないとばかりに、千鉱は男の顔を見るが、入っている事実は変わらない。腹に感じる圧迫感と、他人の熱。男が少し動く度に、その存在を主張していた。
男は千鉱の手を取り、そのまま腹へと誘導する。
「わかるだろう?ここに、俺が入っている事が」
腹へと誘導した手を、自身の手で覆い、さするようにしてやれば、千鉱の双眸には絶望の色が浮かぶ。
「も、う……いいだろっ……お前の目的とやらが、果たせたんだ……もう、抜けっ……はやく、……っぁ、あ……!?」
千鉱が言い終わるより早く、男が動いた。
先程見つけた柔い箇所を潰すように、男は腰を押し付けた。
「あまり可愛くないことを言うな。興が醒めるだろ」
「あ、あぁ、っ……、や、うぁっ……あ、はぁ、っ」
緩慢な動きではあるものの、千鉱の弱い所を何度も小突き、その体を揺さぶるように腰を打ち付けて、千鉱の言葉も、正気も奪っていく。
脳天を突くような強い快楽が、何もかもを奪い尽くすような快楽が怖い。
「あ゛、ぁっ……い、ぁ、あ、あっ」
緩慢な律動も、徐々に激しさを増す。柔い部分をかすめながら、男の昂りで腹の奥を突かれると、得も言われぬ快楽が襲い、千鉱は喘ぐ。
「や、ぁあ、っ……ひ、ん、くぅ、あぁ、っ!!」
たすけて──喘ぐ間に、そんな言葉が飛び出てきて、男は口端を持ち上げて、嗤う。
果たして誰の姿を思い浮かべているのか。
誰だろうが、男には関係ない。今この場で千鉱が縋れるのは、男しかいないのだから。
行き場の無い千鉱の両手に、己の手を重ねる。指先を絡めて握ってやると、千鉱は助けを求めるように握り返した。
これほどまでに快楽に弱いとは思いもよらなかったが、思わぬ収穫とでも言おうか。
「哀れだな……六平千鉱」
哀れで、どうしようもなく愛しい。
この感情を果たして愛と呼んで良いのかどうかは男にはわからないが、そんなものはどうでもいい。ただ、手放すには惜しい。
己の下で、快楽に溺れる子供をどうするか──まだ時間は十分にあると考えて、今はこの子供を余すことなく堪能しようと男は咽び泣く千鉱の無防備な首筋へと噛みついた。
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