nmmnとなりますのでひっそりと楽しんでいただけると幸いです
ふんわりマフィアパロです
smが薬物を使用または依存している表現があります
knsmkn
手を取るまで
薬はよくないと知っていた。
何人もおかしくなったやつを見てきたし、やり過ぎると大概依存するともわかっていた。
でも手を出した。
だって少しだけ幸せになれるから。
薬売りに無理を言って薬を貰った。
あなたのような方に差し上げるものではないのですが。と言われた。
たしかにそこらへんのガキに売るような薬だけど、それで良かった。
人を殺した。
やっぱり気持ち悪くて、苦しくて、不安で。
どうしようもなく叫びたくなって、人が来るからやめて。
鍵付きの引き出しにしまってあった薬を手に取った。
そこからは早かった。
ためらうことなくそれを口に含んだ。
でも心臓は緊張していて、バクバクと鼓動が煩い。
飲んでしまった。
ベッドに伏せてからしばらくすると思考が覚束なくなってきた。
ふわふわして、ここちいい。
何になやんでいたっけ、なんだっけ。
もういいや。
しらない。
身体への悪影響はそこそこだった。
目覚めたあとに不安が押し寄せてきたけど、そんなの薬を飲まなくたって一緒だ。
そんなことより良いことがあった。
悪夢を見なかった。
人を殺した夜はどうしても満足に眠れなかったのに、それでも寝られた。
睡眠薬ではどうしようもない悪夢から薬は救ってくれた。
貰った薬は、人を殺した日にだけ飲もうと決めた。
一週間ぶりに人を殺した。
俺の組んだ作戦で身内が死んだ。
人はみんな完璧なんてないというが、仲間の命は守らなければならなかっただろう。
苦しい。
申し訳ない。
許してほしい。
このやるせなさを薬で暈す俺を、許してほしい。
薬を飲んでから30分ほどたった頃、きんときが部屋に来た。
彼は何故か俺が凹む時にだけたまに部屋に来て作業をして、それが片付いたら帰っていく。
彼が帰る時には俺は大体寝ている。
薬のことがバレたら終わると思った。
いけないことだということを理解していたから少し怖かった。
結果的に言えばバレなかった。
俺がすぐ寝てしまったから。
薬は興奮状態になるやつもあるらしいけど、俺が飲んでいるのはそうではないらしい。
寝付きが良いのは気持ちがよかった。
2週間ぶりに人を殺した。
裏切り者だったらしい。
実態は知らない。
”絶対に”殺せとは言われなかったのに、俺の意志で逃がすことだってできたのに、殺した。
俺が、殺した。
部屋に戻ってすぐ薬を手に取った。
依存しているなぁと客観的に思うことも増えてきた。
だってしょうがない。
夜が怖い。
朝が辛い。
毎日が苦しい。
しょうがない。
人を殺したときしか飲んでいない。
俺はまだ普通なはず。
飲もうとした瞬間に部屋の外に気配がして、ノックが耳に入った。
音でわかった。
きんときのノックだった。
急いで薬を音を立てずに引き出しに戻して、ドアを開けた。
いつも通り、作業がしたいと言った。
正直帰ってほしかった。
でも薬を飲みたい以外に帰らせる理由がなかった。
理由なんて言わなくともきんときはきっと気にしないが、その理由は何故か俺が嫌だった。
結局部屋に上げた。
俺はいつもどおりベッドに潜り込んだ。
きんときは作業中にたまに俺に話しかけてくる。
今日もそれは同様で、しょうもない話を聞いていた。
…違うところは俺の精神が不安定なところ。
前ならこれが当たり前だった。
でも最近はふわふわとした気持ちで話を聞いていたので相槌もほどほどに打っていたけど、今日は苦しくてあまり答えられなかった。
きんときがふと、薬の話を口にした。
心臓が飛び出るかと思った。
あまりに突然俺の隠し事にピンポイントの話題を出すので焦った。
黙って聞いていたら、売上と在庫の数が合わないらしい。
俺じゃん。それの原因俺だよ。分かってカマかけてるの?
きんときがそういう雑用的な管理を自ら進んでしているのは知っていたけど、まさかそんなに細かく把握しているとは思わなかった。
完全に想定外だった。
何か知ってる?と問われた
俺は嘘が下手だった
今日、体調悪い?と問われた
俺は正直に答えた
きんときはゆっくり休めよ。と言った。
終わった。
嘘と本当を言わされた。
嘘が嘘だときっとバレた。
多分これから嗅ぎ回られる。
きんときは事実を突き止めるために動く。
そして俺が本当に薬をやっていると知れば、きんときはどう思う。
俺に失望するのか。
なぜか仕事がまわってこなくてただただ暇な一ヶ月だった。
時々きりやんと話したりぶるーくと外をぶらついたり、昔よく見たドラマなんかをシャークんともう一度ゆっくり見たりして過ごした。
平和だった。
俺だけ。
実際には俺が動かないことで死ぬ人が何人もいたし俺の知らないところで苦しんで死んでいる奴もいたはずだ。
なにを日常に浸っている?
こんなのダメだ。
幹部としてダメだ。
何で仕事が来ない。
動きたい。
俺ができるなら、動けたなら。
…俺が動けて何ができる?
気づいたら薬を手に取っていた。
最近は人を殺さないおかげかまったく飲んでいなかった。
人を殺した日にだけ飲むと決めたのに、辛くて、苦しくて、楽になりたくて、今日も夢見は悪いはずで、それをなくすために俺はコレを飲むのであって、決して自分の弱さを受け入れられないなんてことない、そんなはずない、逃げてなんかない。
戦えるのに、ナカムは俺を使わないでいる。
俺は逃げてない、いつだって
飲もうとした時に、ノックなくドアが開いた。
きんときだった。
なぜノックをしなかったのかは分からない。
いや、分かる。
きんときはきっと怒っているんだ。
きっと俺が薬を飲んでいるという仮説を事実にする尻尾を掴んだんだ。
カメラでも仕掛けられていたのか。
それともただの不運か。
タイミングは最悪だった。
なんせ飲もうとした瞬間なのだから、手のひらには証拠が握りしめられているわけで。
言い逃れも何もなく、俺はきんときに思い切り打たれた。
「お前までそんなんになっちまったら俺は…!」
ちがう、こんな顔させたいんじゃないのに、ただ俺は楽になりたいだけなのに、違うのに、ごめんなさい、俺普通だよね大丈夫だよね普通じゃない?おかしい?謝ればいいの、なにすればきんときは笑ってくれるの、俺はどうしたらよかったの、最初から全部間違ってた?俺は、俺は…………
逃げた。
崩れ落ちたきんときを置いて部屋を抜け出して、街へ逃げ出した。
自分を守るために逃げて、本当に大切なものを傷つけた。
俺は逃げていた。
ずっと、ずっと前から逃げていた。
街の薄暗いところで座り込んだ。
一般人の目につかないところに居たかったから。
きんときの顔が、声が頭から消えない。ずっと、残って、まるで悪夢みたいに俺を苦しめる。
でもこれは現実。
俺の弱さが招いた現実。
気がついたら部下が俺の顔を覗き込んでいた。
全く気づかなかった。
顔を見ると、ここらの見張りを任されている奴だった。
「悪い、邪魔した」
「いえ…どうかなさったんですか」
「…ちょっと色々あってな」
ふらりと立ち上がってその場を去った。
息が詰まっていた。
無理矢理でも薬を飲んでこればよかった。
不安で、苦しくて、辛くて、しんどくて、助けてほしくて、助けなんかなくて、絶望して、絶望させて。
ごめんなさい。
謝りたい。
でも謝ったあとに俺は薬を辞めることができるか?
辞める事ができたとしても、俺は生きていけるのか。
薬という逃げ道がなくなったら俺はきっと死ぬ。
今だって俺はきんときに謝ったらすぐに死にたい。
失望させてごめん、隠しててごめん、普通じゃなくなってごめん、…謝りたい。
そう思いながらも脚は住処を離れて見つからない場所に行こうとする。
合わせる顔が無いんだ。
だってきんときにあんな顔をさせてしまった。
あの柔らかい微笑みを、濡らしてしまった。
程なくして雨が降ってきた。
身体が冷えて、心が重かった。
誰にも見つからないような薄暗いところを歩いていた。
時折立ち止まって、戻ろうか迷って、またどこかへ歩いた。
脚が疲れるまで歩こうと思った。
何分歩いたかわからない。
何時間か歩いていたかもしれない。
まだ疲れていなかった。
歩いている間に何回か身内とすれ違った。誰もなにも言わずに礼だけした。
俺はいつも通りそれを無視して通り過ぎた。
疲れたわけでもないが気力がなくなって座り込んでいたら、小走りで近づいてくる足音がした。
雨の中でもわかるその音は焦りを含んでいる様な音だった。
何となく音のする方向を見ると、曲がり角からきんときが顔を出した。
「…!」
「いた…。っおい、スマイル!!」
気づいた時には走っていた。
突き動かされるように、謝りたいという意思に反して身体がいうことを聞かない。
雨のせいで視界が悪くて転けかけて、水たまりを踏んで、それでも走った。
きんときが後ろをついてきているのが足音でわかる、いやだ、来ないで。
ごめんなさい、逃げてごめんなさい、嘘ついてごめんなさい
消えるから、謝ったら、俺はそれでおしまいだから、ごめんなさい、謝りたい、謝りたいのに、謝りたいのに逃げている
どうしよう、また俺きんときに酷い顔させる
どうしよう、謝っておしまいにしたいのに
どうしよう、どうしたらいいの、どうすれば
『お前までそんなんになっちまったら俺は…!』
「…!」
あれ、息、いきできない、なんで、苦しい、くるしい、なにこれ、どうしたら、どうすれば息できる、吸えない、視界、ぼやけてきた、こわい、こわい、ごめんなさい、ごめんなさいおれ、俺が悪いから、許してください
腕を掴まれた。
捕まった。
きんときの顔が見れない。
息ができなくて苦しくて、ふらついて濡れた地面に座り込んだ。
背中を撫でられて、口元にハンカチを当てられた。
苦しいのにそんなことされたから、怖くて涙が出てきた。
「息吐いて。吸ってばっかじゃ息できないよ。」
耳元で話されてようやくきんときが今まで何かを話していたんだと気がついた。
ずっとぼんやりと靄がかかって聞こえていなかったきんときの声は、心配そうな声だった。
「はっ…、は…ひゅ……は、…」
「…大丈夫、大丈夫だから」
大丈夫と言われると、本当に大丈夫な気がした。
ゆっくり息を吐くと、喉がおかしくなったのか時々乾いた咳が出て、その度にきんときが声をかけてくれた。
きんときに会ったらすぐに怒られると思っていた。
そもそも追いかけてきてくれるなんて思っていなかった。
捨てられると思っていたから、嬉しくて、安心して、情けなく泣いてしまった。
「…ごめ、なさ、…俺、くるしくて」
「うん」
「つらいの、耐えれなくて、」
「…うん」
「隠してて…ごめん…。」
「いや…俺も気がつかなくてごめん。でも、薬は本当に危なくて、…これからはもう絶対駄目だよ。」
きんときは優しい。
全部俺のせいなのに、優しいから謝ってくれる。
「…薬、もう…しない。」
「約束だからね。」
約束、と言われると、なぜか返事ができなかった。
薬を飲まない、それだけなのに、今までそれに縋って生きていたせいでどうすれば苦しさをなくせるかがわからなくて、頷くことができない。
きんときが怖い顔になった。
俺が返事をしないから。
止まりかけた涙がまた溢れてくる。
いい加減泣くのをやめろと頭は言っているのに何かが苦しくて泣いてしまう。
俺が泣くときんときは困ったような顔になった。
困らせてごめん、思えば俺はいつもきんときを困らせていた。
「…ごめん。」
「それは…、なにに対する謝罪?」
「ぜんぶ。」
「全部って?」
「………わかんない。」
とにかく苦しかった。
どうすればこの苦しい気持ちがなくなるかがわからなくて、とりあえずきんときに謝りたくて、謝ったら楽になれるかなって思って。
それでもきんときは的外れな謝罪には答えてもくれないから楽になれなくて、俺は…
「助けて…」
はっと息を飲んだ。
自分で言ってようやく気づいた。
俺はこの苦しみから抜け出したいのだ。
「…うん。俺が助けられることならもちろん助ける。
だから、今まで辛かったことを一から全部聞かせて?…それで、それに気づけなかった俺を一発ぶん殴って。それでおあいこにしよう。」
きんときは大真面目な顔をして意味のわからないことを言った。
雨で崩れた俺の髪をそっと耳にかけてくれたきんときは、なんでも言って?と優しく俺に囁いた。
やっぱり優しくて、そこが好きだと思った。
…全部言いたかったけど、でも、それよりきんときを殴ることに疑問を感じて、思わず俺の濡れた頬に添えられた手を握った。
「何で殴らなきゃいけないんだ、きんときは悪くない、俺が全部悪いのに。」
「…大切な人が追い込まれてて、ずっとそばに居たのに、分かってたのに支えられなくて、それで俺が悪くないなんて、俺は認められない。」
まっすぐ俺を見つめる瞳に射抜かれそうになった。
俺が大切だと思われていることが嬉しかった。
俺のせいできんときが悲しい思いをしているのが許せなかった。
「俺のこと、叱って」
「…うん?」
「俺も、きんときを悲しい気持ちにさせたから」
「それは、そうかも…?」
「そうだから。怒って。」
握っていた手を離すと、きんときと目が合った。
「怖かった…!!」
「…」
今まで優しく微笑んでくれていたきんときが突然泣き出した。
彼がそういう感情を表に出すなんて珍しくて、自分から言った割にどうすればいいかわからなくて困る。
「お前が、お前が壊れていくのが、怖くて、お前が居なくなったら俺、生きていけないし…!
薬やってるかもって思ったけど信じたくなかった、でも…、っ…」
凭れられるような体制で何度も胸を叩かれて痛いけど、その痛みは受け入れなくてはいけない痛みだとわかっていた。
きんときはずっと俺を大切に思ってくれていて、それを裏切ったのは俺で、裏切られたときの痛みはこれよりもっと大きかったはずで。
「…これからは…全部、言うから。」
「っ、何も隠さないで、嘘をつかないで、俺、お前のこと疑いたくない。」
「……ごめん。」
「…いいよ。俺もごめんね。」
ほら殴って、と頬を向けられるけど今のきんときを殴る気にはなれなくて、そっとキスをした。
「なっ…!?」
「殴るのはちょっと…、俺が嫌だから、その…。」
「だからって、っき、キス…。」
「……嫌だった?」
「嫌じゃないけど…!!!」
腕で真っ赤にした顔を隠したきんときがすくりと立ち上がる。
「もう…。帰ろう?」
「…あぁ」
差し出された手をとって、重い体をゆっくりと起こす。
苦しさは、消えていた。
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最後の不安そうなknさんが可愛いな…()これが「可哀想は可愛い」ってことか……