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Side by Side

12 - ・(最終話)

♥

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2023年11月19日

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Side 赤


「あ、おはよう」

ふと様子を見れば目を覚ましていた大我に、本日2度目の朝の挨拶をする。

「どう? ちょっと楽になった?」

大我はこくんと首を振る。「まあ…たぶん」

そう言って起き上がる。

「最近忙しかったんでしょ?」

俺が問うと、またうなずく。「…ミュージカルとかレコーディングとか重なってて」

みんなも一緒だよね、とそのあと重ねる。「ダメだよ…こんぐらいで弱ってたら」

コホンと咳をした。

「そんなこと言うほうがダメだろ?」

俺は立ち上がってベッドのふちに座り、大我の頭をぽんぽんと軽く叩く。

「人間は頑張ったら疲れるんだから。大我もこれでいいの」

これでいい、と小さくつぶやく。

「そう。今日は休んでていいんだよ」

そっか、と大我は蕾がほころぶように笑った。

そういえばもうすぐ朝食の時間だけど、さすがに食べられないだろう。

「大我、朝ごはん食べられそ?」

訊くと、小さく首を振った。

「まだいらない」

あとで胃に優しそうなものを買ってこようかなと考えていると、

「ジェシーはさ……いっつも俺らのために動いてくれてるよね。そっちこそ休めてる?」

「大丈夫」と俺は言い聞かせるように口にする。「だって俺がやらないと、みんなの人生が懸かってるんだから。でもみんながついてきてくれるから、できるんだよ。頑張ろうって思える」

身体を起こしたままの大我に、「横になってていいよ」と声をかける。毛布をそっと整えた。

「それはね、横を見たら並んで歌ってるみんながいるから。隣にはハモってくれてる大我がいるから。だからやってこれてる」

大我はぱちぱちと瞬きをして、恥ずかしげに目を伏せた。

その小さな微笑を見て、俺は立ち上がる。

「朝ごはんのルームサービス注文しよ。…みんなにも伝えとくから」

「いや、いい」

え、と振り返る。大我は首を左右に動かした。

「心配かけたくないから。他のメンバーには伝えないで」

俺は少し考えて、「わかった」と答えた。そう言うんなら、しょうがない。

「じゃあ俺だけの秘密ね」


ホテルマンさんが食事を一人分だけ運んできてくれて、大我のベッドの横で遅めの朝食をとる。

「フルーツ美味しそうだよ。ほら、ちょっと食べてみない?」

そう言うと、大我はゆっくりと起き上がって向かいの椅子に座る。デザートの果物に手を伸ばすかと思いきや、ひょいっとつまみ上げて口に入れたのはミニトマトだった。サラダの隣にちょこんといたやつ。

「あーっ、取られた」

大我はいたずらっぽく笑う。

「うん。美味しい。これももらうね」

オレンジを手に取って頬張る。

少しでも食べられたのなら安心だ。

「お昼前くらいにチェックアウトするって。ゆっくりしてればいいってスタッフさんが言ってた」

うんとうなずいて、結局俺のデザートの半分を食べた。薄紅色に染まっていた頬も、元の白さを取り戻しつつある。


束の間だけど 2人でまた二度寝をして、スタッフさんの電話で起こされた。仕事を忘れてくつろげた時間だった。

「よし、帰るか」

身支度を済ませて、部屋を出る。大我の歩調に合わせて、肩を並べる。

「ありがとね、ジェシー」

ロケ車に乗り込むと、大我が口角を上げる。

「個人の仕事だったら心細かった。メンバーがいてよかったよ」

「俺は何にもしてないって」

そんなことない、と首を振る。

「ジェシーはそういうやつなんだから」

大我は含み笑いを漏らす。

俺は何もしていない。ただ、そばにいただけだ。

帰りも、隣の席。

いつも歌うときだって、左隣にいてくれる。

メンバー兼友達だからいつだってそばにいたい、ただそれだけ。


そして、見事に大我に風邪をうつされ、なぜかマネージャーさんに「くっつきすぎ」とちょっと理不尽に叱られたのはまた後の話。


終わり


完結

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