Side 赤
「あ、おはよう」
ふと様子を見れば目を覚ましていた大我に、本日2度目の朝の挨拶をする。
「どう? ちょっと楽になった?」
大我はこくんと首を振る。「まあ…たぶん」
そう言って起き上がる。
「最近忙しかったんでしょ?」
俺が問うと、またうなずく。「…ミュージカルとかレコーディングとか重なってて」
みんなも一緒だよね、とそのあと重ねる。「ダメだよ…こんぐらいで弱ってたら」
コホンと咳をした。
「そんなこと言うほうがダメだろ?」
俺は立ち上がってベッドのふちに座り、大我の頭をぽんぽんと軽く叩く。
「人間は頑張ったら疲れるんだから。大我もこれでいいの」
これでいい、と小さくつぶやく。
「そう。今日は休んでていいんだよ」
そっか、と大我は蕾がほころぶように笑った。
そういえばもうすぐ朝食の時間だけど、さすがに食べられないだろう。
「大我、朝ごはん食べられそ?」
訊くと、小さく首を振った。
「まだいらない」
あとで胃に優しそうなものを買ってこようかなと考えていると、
「ジェシーはさ……いっつも俺らのために動いてくれてるよね。そっちこそ休めてる?」
「大丈夫」と俺は言い聞かせるように口にする。「だって俺がやらないと、みんなの人生が懸かってるんだから。でもみんながついてきてくれるから、できるんだよ。頑張ろうって思える」
身体を起こしたままの大我に、「横になってていいよ」と声をかける。毛布をそっと整えた。
「それはね、横を見たら並んで歌ってるみんながいるから。隣にはハモってくれてる大我がいるから。だからやってこれてる」
大我はぱちぱちと瞬きをして、恥ずかしげに目を伏せた。
その小さな微笑を見て、俺は立ち上がる。
「朝ごはんのルームサービス注文しよ。…みんなにも伝えとくから」
「いや、いい」
え、と振り返る。大我は首を左右に動かした。
「心配かけたくないから。他のメンバーには伝えないで」
俺は少し考えて、「わかった」と答えた。そう言うんなら、しょうがない。
「じゃあ俺だけの秘密ね」
ホテルマンさんが食事を一人分だけ運んできてくれて、大我のベッドの横で遅めの朝食をとる。
「フルーツ美味しそうだよ。ほら、ちょっと食べてみない?」
そう言うと、大我はゆっくりと起き上がって向かいの椅子に座る。デザートの果物に手を伸ばすかと思いきや、ひょいっとつまみ上げて口に入れたのはミニトマトだった。サラダの隣にちょこんといたやつ。
「あーっ、取られた」
大我はいたずらっぽく笑う。
「うん。美味しい。これももらうね」
オレンジを手に取って頬張る。
少しでも食べられたのなら安心だ。
「お昼前くらいにチェックアウトするって。ゆっくりしてればいいってスタッフさんが言ってた」
うんとうなずいて、結局俺のデザートの半分を食べた。薄紅色に染まっていた頬も、元の白さを取り戻しつつある。
束の間だけど 2人でまた二度寝をして、スタッフさんの電話で起こされた。仕事を忘れてくつろげた時間だった。
「よし、帰るか」
身支度を済ませて、部屋を出る。大我の歩調に合わせて、肩を並べる。
「ありがとね、ジェシー」
ロケ車に乗り込むと、大我が口角を上げる。
「個人の仕事だったら心細かった。メンバーがいてよかったよ」
「俺は何にもしてないって」
そんなことない、と首を振る。
「ジェシーはそういうやつなんだから」
大我は含み笑いを漏らす。
俺は何もしていない。ただ、そばにいただけだ。
帰りも、隣の席。
いつも歌うときだって、左隣にいてくれる。
メンバー兼友達だからいつだってそばにいたい、ただそれだけ。
そして、見事に大我に風邪をうつされ、なぜかマネージャーさんに「くっつきすぎ」とちょっと理不尽に叱られたのはまた後の話。
終わり
完結
コメント
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伸びろ伸びろ伸びろ伸びろ伸びろ伸びろ伸びろ伸びろ伸びろ伸びろ…!! こんなん泣くやん!!