テラーノベル
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ホテルの最上階へ続く階段。
ミナミの息は荒く、ハルカの手は震えていた。
でも、それでも二人は登る。
「Kって、きっとさ……前にここに来た誰かなんだよ。
もしかしたら、例のアキって人のチャンネルを“乗っ取った”のかも」
「それとも、“今の私たち”がKになってる未来が……あるとか……?」
そんな話をしているうちに──屋上の扉にたどり着いた。
ギィィィ……
開いた先は、月明かりに照らされた広いコンクリートの空間。
柵のないその場所のど真ん中に、1台のカメラが、ぽつんと置かれていた。
そのカメラには、メモがテープで貼り付けられている。
「これが“最終カット”。
どちらかがカメラの前に立ち、終わりを告げてください。
それが、映像に“オチ”をつける方法です」
「……選ばせる気だ。どっちかが、“最後の言葉”を言うってこと……?」
「どっちが残って、どっちが映されるか……ってことだよね」
ハルカとミナミは無言で顔を見合わせた。
──風が吹いた。
遠くから、ホテルの中で見てきたような“ノイズ混じりの映像音”が聞こえる。
あの第三のカメラの音。過去か未来か、判別不能の世界の音。
ミナミが、ぽつりと呟いた。
「私、思うんだ。
青春って、なんか記録するのが怖くなるときがあるんだよ。
それが終わりの証明みたいでさ」
「……うん、わかる。
でもさ、“記録したくない”って気持ちも含めて、
ちゃんと残せたら、強いと思う」
ミナミはそっと、カメラの録画ボタンを押した。
「……これが、はるみなTV、最後の動画になります。
ここまで見てくれたみんな、本当にありがとう。
でもこれは、バズ狙いじゃない。
これは、“私たちが見た世界”の記録です。
天鳴館は、記録を求める。
映像を、終わりを、涙を、恐怖を……。
だけど私たちは、それでも“自分で選ぶ”って決めました。
だから、カメラを止めます。
そして、もう一度、自分たちで再生ボタンを押すために。
……ばいばい。」
ミナミは録画を停止し、ハルカに向かって笑った。
……何も起きなかった。
爆発も、亡霊も、呪いも、なかった。
ただ、静かに、ホテルの全ての電気が落ちた。
その夜──誰かが編集したような動画が、YouTubeに1本だけアップされた。
タイトルは、こうだった。
「青春って、バズより深い」
――投稿者:K
視聴数:4(非公開)
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