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来たる夏祭り当日。
シシルにお断りのメッセージを入れさせた後、城本さんからのお誘いを断った旨を佐藤に伝えると、「大感謝」と土下座しているクマのスタンプが送られてきた。
それと共に「俺も夏祭りには行く」という事も伝えたので、もし遭遇しそうになっても佐藤とその他諸々が気付いて誤魔化しに回ってくれるだろう。
定期の入った財布と携帯だけ持つと「そろそろどうだ?」とシシルに問う。
時刻は5時半、そろそろ日も落ちてきて少しだけ涼しくなってくる頃だ。
「おっけ〜!シュッパツ!」
3割増で元気なシシルは、いつものがま口を首から下げて、Tシャツ、カーゴパンツに黒の
ショルダーバッグと、部屋着からは想像できないくらいきちんとコーディネート出来ている。
がま口を除いて。
一方で俺はスキニーに部屋着のヨレたTシャツ。
コイツの方が小綺麗な格好なのがなんだか癪だったので、柄シャツに着替えて、それに合わせたピアスも久しぶりに着ける。
穴の塞がり防止にずっと着けていたファーストピアスは、金メッキが剥がれてシルバーになりかけていた。
ちょっとゴツめの装飾が施されたフープピアスは、ごちゃごちゃとしたエスニック風の雑貨屋で叩き売りされていたものだが、ちょうど柄シャツなんかと合うので、結構気に入っているものだった。
「ねえ美鶴ぅ、まだ?」
部屋の外から顔を覗かせたシシルは楽しみで仕方ないらしく、体を小さく揺らしている。
わかったわかった、もう出るよ。
早くしてっていきなり着替え始めてさぁ。
うるせぇ
ブチブチ言っているシシルに一発拳骨を落として玄関に向かった。
いつもの通学に使っているバスは、地元の子供達で賑わっていた。
学校最寄りのバス停で降りる二駅前でバスの中のほとんどが降りるのと一緒に降りると、浴衣を着た家族の後ろにくっついて歩く。
バス停からの道順がいまいちだがこうしてお祭りに行くであろう人について行けば間違いはない。使えるライフハックだ。
バス停から5分ほど歩いた頃、いつもはただひたすらにただっ広く殺風景な空き地には様々な屋台や、広場の中央には知らないインディーズバンドが曲を披露している舞台が建てられている。
あんなに広い場所のはずなのに今は老若男女、様々な人で溢れかえっていて、 楽しみにしていたが人混みが好きではない俺はちょっと帰りたくなった。
「うはーーー!!!すごい人混み!!!!」
「はぁ…」
テンションは最高潮のシシルと下がり傾向な俺の差が少しおかしい。
広場の中に足を進めていくと、入り口近くには管理所や地元有志の席があり、かき氷やフランクフルト、粉物のお店などの人気店は奥の方にある。
そのさらに奥は飲食スペースらしく、簡易的なベンチがいくつも設置されている。
下がっていたテンションはこの光景を見るとやはり浮上して、ワクワクと胸が高鳴ってくる。
「ねえ美鶴…」
あっちこっちを見ながら俺の後ろをちょこちょこついてくるシシルはベビーカステラの店が気になるようで、俺の服を軽くひっぱってきた。
「買ってこいよ。俺たこ焼きの行列並ぶから、後で合流すれば良いだろ。」
「えっどうやって買えばいいの!?」
「普通に金払って買うしかないだろ。」
「な、何か食券とか必要じゃないの…?」
「オール現金だバカ」
夕飯代わりの食べ物に目星を付けた俺は、シシルを適当にあしらってさっさと長〜〜〜い行列に並びにいく。
「ちょ、ちょっと待って美鶴ぅ!!!」
「普通に買ってこい!!!」
捨てられた子犬のような声を出すシシルに怒鳴ると、スマホを取り出して来ていた通知を消化しにかかる。
こうして「もう聞かないぞ」と壁をつくればあいつは“比較的“引き下がると最近わかってきた。
「あれ?名雪くん?」
「……エット」
「城本だよ!お祭り来たんだ……」
まさか遭遇してしまうとは。佐藤やらなんやらは何してるんだ。
「そうだ!好きな人誘う予定だって言ってたよね……お邪魔しちゃったかな?」
「いや、断られた。」
ここでシシルを誘ったとは言えないだろう。
それにしても普通は聞きにくいことぶち込んでくるなこの子。それも計算のうちなのかもしれない。
「そうなんだ……ごめんね!」
「いや謝られるようなことでもないし大丈夫。」
「じゃあ今は1人かな?一緒に回らない?」
「や……佐藤たちは?」
「はぐれちゃって。」
くそくそ佐藤め。アタックしたい相手なら1秒たりとも目を離すなよ。
そんなことを考えても仕方がないので、今は断る言葉を頭をフル回転させて考える。
「ちょっと今は……」
「ここたこ焼きの列だよね!好きなの?」
「まあ好きだけど……」
断りの言葉を口にしようとすると、それに被せて問われる。
絶対に逃さないぞという強い意志、もしかしたら俺を誘うためにこっそり抜け出してきた戦略的行動なのかもしれない。
くそとか言ってごめん佐藤。
しかし俺も一緒に回らないぞという強い意志を持っている。
なるべく事を荒立てないような、突き放すような言葉を使わずに切り抜けられないものか。
「佐藤たちと連絡して合流できないかな?人多いし大変でしょ。」
一見合流すると見せかけて合流したら「じゃ、俺はこれで」と離脱する作戦で行こう。
「よう。」
「ふぉう。」
広場のすみで合流した佐藤たちは焼きそばを頬張っていた。
「じゃあ俺はこれで。」
「えっ名雪くん帰っちゃうの?」
片手間な挨拶を終えてさっさと退散しようと足の向きを変える。
「うん、ちょっとたこ焼きだけ買って帰ろうか……な。」
スーパーボールの屋台と水風船の屋台の隙間、シシルがこちらを見ていた。
「……!…!…!……!!」
何やら身振り手振りで伝えようとしているのか、ベビーカステラの袋を抱えながら飛び跳ねている。
顔を顰めていたらシシルは出口の方を指さして、それじゃあ、と手を振って歩き出した。
邪魔はしないから、先に帰ってるから。ということか。
「ごめん、やっぱちょっと急ぐから帰る。」
人混みに紛れたシシルの後を追いかけるため、城本さんを背に駆け出す。
「えっ、じゃ、じゃあね名雪くん!」
「おいなんで帰ったんだよ。」
一本先のバスに乗られたらしく追いつけずに家まで戻ってきた。
「や、邪魔したら悪いかなと思って。考えてみたらあまり俺人混み克服してないし。」
「なんだよそれ…」
気付いたら強張っていた体の力が抜けた。
「なんかごめん……?」
「うるせえ」
「うわっ!」
顔を覗き込んできたシシルの頭をむんずと掴み、左右に振る。
振れるのに合わせて「あわわわわ」と声を出すシシルの頭を雑に離すとその反動ですっ転んだ。
「痛いんだけど美鶴」
「……悪かった。」
楽しみを途中で壊されるのが俺は嫌いだ。
シシルが帰っていく背中を見た時、「自分がされて嫌なことはしちゃダメだ。」とかいう散々聞いた言葉を思い出した。
これはこんな自分が嫌だと思った自分への謝罪の言葉。決してコイツに対してじゃない。
そう心の中で思って部屋に戻った。
「そうだ!美鶴ベビーカステラ食べる!?」
「後で食う!!」
リビングから叫ぶシシルの言葉に、 たこ焼きを食べ損ねた腹がぐううと鳴った。
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リアルで色々あって書くのが遅くなってました。
でも今回初めて3000文字越せたので嬉しいヤッター
美鶴の心情や性格は私自身と重ね合わせているところが多いので、脳内を言語化した結果結構表現がわかりにくいかもなと思いつつ本日も寝ます(深夜2時)
これからもチマチマ書いていくのでよろしくお願いいたします