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ごきげんよう、シャーリィ=アーキハクトです。セレスティンに港湾調査を命じて三日が経ちました。セレスティンにしては時間が掛かっていますが、無理をせずゆっくりと追加で指示を出したのでこんなものなのかな。
さて、本日は定期的なターラン商会への農作物納品日です。既に必要量は収穫して複数の馬車に積み込んでいます。後は引き取りを待つだけなのですが。
「おーいっ!シャーリィ!」
この声は、ルイですか。
「ほら、来たぜお嬢」
「分かっていますよ」
ベルの言葉に答えて私は駆けてくる少年を出迎えます。
「よっ!シャーリィ。今日も無愛想だな?」
「貴方は相変わらずうるさいですね」
鮮やかなエメラルドの髪を肩口で揃え、幼さを残しつつも逞しい顔付きは将来美男になることを予測させ、それでいて背が高く鍛えられた体つきはしっかりとしている。この少年の名はルイス。愛称はルイ。
ターラン商会の構成員で、私とは同い年。二年前から我が農園に顔を出すようになった男の子。性格は快活で表情豊か。どこかルミを連想させる彼が私は苦手でした。今はそうでもありませんけど。
……彼との出会いなどはまたの機会に。
「シャーリィが静かすぎるから、俺がその分賑やかにしねぇと葬式みたいになっちまうぞ?」
「葬式とは失礼な。それに、何度も言いますが私は農園の持ち主です。つまりターラン商会の取引相手。言葉遣いには気をつけてください」
「シャーリィはシャーリィだろ?同い年だし、二年の付き合いだぜ?今更敬語なんか使うかよ」
「はぁ」
この能天気な男を相手にしていると頭が痛くなりますね。全く、私の気も知らないで。
「夫婦漫才は終わったか?お嬢」
「違います」
まだ覚悟ができていないんですよね。いや、嫌いではないのですが…。
「うっす、ベルさん」
「よう、ルイ。今日もお使いか?」
「うちの姐さん人使いが荒くてさぁ。今日は納品ついでに伝言を頼まれてんだ」
「それを先に言いなさい」
「シャーリィが余計な話をしたからだろ?」
「していません、したのは貴方です!」
ああ、頭が痛い。
「はははっ、仲がいいな?」
「良くない!」
「だろ?」
こいつぅ…!
「で、ルイ。伝言ってのは?」
「ああ、たまには本店に顔を出せってさ。良い話もあるみたいだぜ?」
「ほう、いい話か。お嬢」
「マーサさんのお誘いを断る理由がありません。出きるだけ早く伺うと伝えてください」
「あいよ。ちゃんと来いよ?シャーリィ。俺が怒られるんだからな?」
「貴方ではないので、すっぽかしたりしません」
「前寝坊したよな?」
「あれは貴方が水と称してお酒を飲ませたからです!」
一生の不覚です!酔い潰されて醜態を晒したのですから!
「はははっ、仲良いなぁ」
「良くありません!」
「だろ?」
このっ!
いや、いけません。淑女たるもの常に余裕と気品をもって笑顔で受け流して。
「なんだ、シャーリィ。いきなりニヤニヤして。気持ち悪いぞ?」
この男ぉっ!
荷台に積まれていたスイカを顔面に投げつけた私に非はない筈です、うん。
と言うか、気持ち悪いって。もう少し笑顔の練習をしないと。
よう、ベルモンドだ。今俺はお嬢のお供として、ターラン商会を目指して歩いてる。ルイスの奴から伝言を受け取った次の日だな。あいつには感謝してる。二年前、友達を失って何処か元気がなかったお嬢を本調子にしてくれたんだ。色々あったがな。本人に自覚はないみたいだが、ありゃ間違いなくお嬢に気があるな。
お嬢も満更でもなさそうでな、個人的には復讐なんかより普通の幸せな暮らしをして欲しいって思ってる。
命の恩人だが、何よりまだ十四歳だ。人生復讐に費やすには早すぎる。セレスティンの旦那やロウの旦那、シスターも同じ思いだ。
まっ、頑固なお嬢には無理な話だろう。なら、さっさと復讐を果たさせてやって自由を満喫させてやらなきゃな。
全く、不思議なもんだよ。一匹狼のベルモンドが腑抜けたもんだと言われそうだが、構わねぇ。
命を救われて、一緒に過ごすうちに親心みたいなもんが出来ちまったんだからな。
柄にもなくよ。この子の未来を見てみたいって思うんだ。俺だけじゃない、暁の皆が同じ気持ちさ。
「ベル」
「おう、着いたな」
相変わらず趣味の悪い外観だぜ。本店だけに留めた従業員達の努力の成果だな。そんな努力死んでも嫌だが。
さて、マーサの姉御はお嬢に何の用なんだろうな?
「久しぶりね、シャーリィ。最近顔を出してくれないから、寂しかったのよ?」
シャーリィです。私達は本店の貴賓室に招かれてマーサさんと会談しています。
流石に貴賓室は自重したのか、ピンクがどこにもありません。見るからに高そうな調度品ばかりで、何だが落ち着きませんね。うちは質素倹約を旨としていましたし。
「申し訳ありません、何かと多忙でして」
「まあ、お互い忙しいのは良いことね。それより、イメチェンした?似合ってるわよ」
「ありがとうございます。それと、つい先日新しく暁と言う組織を立ち上げました。今後ともよろしくお願いします」
「あら、そうなの?それはそれは。野望の第一歩かしら?」
「はい、ターラン商会とはより良い関係を維持していきたいと思っています」
「もちろんよ、お互い稼ぎましょうね。それで、新しいシノギを探してるって所かしら?」
「分かりますか?」
「農園やウチとの取引だけじゃ限界があるもの。で、何を始めるつもり?」
「マーサさんと揉めるつもりはありませんから、海運に手を出そうかと」
「いきなり大きく出たわね。港は魔境よ?知らない訳じゃないでしょう」
「もちろん。ですが、それ故に対立構造を上手く利用すれば新規参入も可能だと判断しました」
「うーん…確かに貴女が一隻でも船を持ってくれたら私達としても助かるわね」
「その時はサービスしますよ」
「よろしくね。じゃあ……そうね、いざとなったらうちの若いのを…ルイスを使わせてあげる」
「ルイですか…」
頼りにはなるのですが、彼は考えるのが苦手なんですよねぇ。
「ふふっ、悪い子じゃないわよ。それに腕も立つ。知ってるわよね?荒事には向いてるから、好きに使いなさい。武器弾薬は必要な分を揃えてあげる。特別価格でね」
「感謝します」
「まあ、港に首を突っ込みたいなら先ずは『海運王』に話を付けなさい」
「海運王?」
強そうですね。
「シェルドハーフェンの海運の四割を独占してる奴よ。海運王に話を付けなきゃ仕事は出来ないわ」
「なるほど…情報感謝します」
「良いのよ。期待しているわよ」
おもわぬ情報が得られました。セレスティンが帰り次第対策会議ですね。マーサさんには感謝です。暁が大きくなれば儲けも増えるから当たり前かもしれませんが、個人的な信頼関係も信じてみたいものです。
まだ見ぬ新しい世界に気分を高揚させるシャーリィであった。