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「……照れてない」
悟)ほんとに?
「ほんと」
悟)じゃあ、なんで顔赤いの?
「……悟が変なこと言うからでしょ」
悟)ふーん。
悟は楽しそうに笑いながら、私の隣を歩いている。
その横顔を見ていると、昔のことが少しずつ蘇ってくる。
くだらないことで笑ったこと。
任務終わりに一緒に帰ったこと。
悟が甘いものを買ってきて、私にも一口くれたこと。
――あの頃は、何も考えずに笑えていた。
「……」
悟)ねえ、ここね。
「ん?」
悟)ここねってさ。
「なに?」
悟)昔、こんなに人の目見なかったっけ?
「……え?」
思わず悟を見る。
悟)なんかさ、ずっと俺のこと避けてるじゃん。
「避けてないよ」
悟)避けてるって。
「……気のせいでしょ」
悟)またそれ?
「だって、本当にそうなんだから」
悟は少し黙って、私の顔を見る。
その視線から逃げるように、私は前を向いた。
悟)あとさ。
「……?」
悟)昔より、笑わなくなった。
「……」
胸の奥が、きゅっと締まった。
「……人って変わるものでしょ」
できるだけ何でもないように答える。
悟)そっか。
「うん」
悟)でも、俺が知ってるここねはもっと笑ってた。
「……昔の話でしょ」
悟)そうだけど。
悟は少しだけ間を空ける。
悟)俺、あの頃のここね好きだったけどな。
「……っ」
足が止まりそうになる。
「……そういうこと、簡単に言わないほうがいいよ」
悟)なんで?
「……なんでも」
悟)変なの。
悟は笑った。
けれど、その笑顔を見ていると、どうしても昔の自分を思い出してしまう。
あの頃の私は、悟が好きだった。
悟の隣にいるだけで嬉しくて。
名前を呼ばれるだけで、胸がいっぱいになって。
だからこそ――
あの人が別の誰かに向けた笑顔を見たとき、私は勝手に傷ついた。
勝手に諦めて。
勝手に離れた。
「……」
悟)ねえ。
「……なに?」
悟)俺はさ。
悟が少しだけ声を落とす。
悟)ここねに、変わってほしくなかったけどな。
「……」
心臓が、また大きく跳ねた。
「……何それ」
悟)そのまんま。
「……昔の私を知ってるから、そう思うだけでしょ」
悟)うん。
一瞬、少しだけ安心した。
けれど――
悟)でも、昔のここねだけじゃなくて。
「……?」
悟)今のここねも、ちゃんと知りたい。
「……」
言葉が出てこなかった。
悟は何でもないことのように前を向いて歩いている。
私はその横顔を見つめながら、胸の奥に生まれた小さな期待を、必死に押し込めた。
――期待しちゃダメ。
もう、あの頃には戻れない。
そう思っているのに。
悟)……またそんな顔してる。
「え?」
悟)笑ってない顔。
「……」
悟)ほら。
悟が少しだけ私の顔を覗き込む。
悟)昔みたいに笑ってよ。
「……無理」
悟)なんで?
「……忘れたから」
悟)何を?
「……どうやって笑ってたか」
そう言った瞬間。
悟の表情から、いつもの軽い笑みが消えた。
悟)……そっか。
その声が、思っていたよりずっと優しくて。
私はまた、悟から目を逸らした。
その言葉を聞いた瞬間、私はゆっくりと俯いた。
「……」
胸の奥が、ぎゅっと締め付けられる。
――やっぱり。
悟にとって私は、昔の友人。
それ以上でも、それ以下でもない。
分かっていたはずなのに。
「今のここねも、ちゃんと知りたい」
その言葉だけが、頭の中に残って離れなかった。
……なんで、そんなこと言うの。
そんな優しいこと言われたら。
また、期待しちゃうじゃん。
私は昔からそうだった。
悟の何気ない言葉ひとつで嬉しくなって。
少し優しくされただけで、もしかしたらって思って。
そして結局、何もなかったみたいに一人で傷つく。
「……ふふ」
小さく笑って、顔を上げる。
「悟って、昔から変わらないね」
悟)そう?
「うん。そういうところ」
悟)どういうところ?
「……優しいところ」
悟)それ褒めてる?
「さあ?」
いつものように笑ってみせる。
本当は、今にも泣きそうだった。
でも、そんな顔を悟に見せるわけにはいかない。
「……じゃあ、私そろそろ行くね」
悟)え、もう?
「うん。」
悟)また会えるよね?
「……会えるよ、笑」
悟)…じゃあ、なんでそんな寂しそうな顔してんの?
「……してないよ」
悟)してるけど。
「気のせい」
また、同じ言葉。
悟は何か言いたそうに私を見る。
その視線から逃げるように、私は一歩後ろへ下がった。
「じゃあね、悟」
悟)……うん。
私は背を向ける。
一歩。
また一歩。
離れていくたびに、胸が苦しくなる。
本当は、もう少し一緒にいたかった。
もう少しだけ、悟の隣にいたかった。
昔みたいに笑いたかった。
でも――
それを望んでしまったら、また私は自分を傷つける。
だから、これでいい。
これでいいんだと、自分に言い聞かせる。
「……ばか」
誰にも聞こえない声で呟いた。
こんなに好きだったのに。
どうして私は、自分から手放したんだろう。
歩きながら、目元をそっと拭う。
泣くつもりなんてなかった。
悟の前では、絶対に泣きたくなかった。
それなのに。
「……まだ、好きなんだ」
口にした瞬間、涙が一粒だけ頬を伝った。
私はそれを拭って、何事もなかったように歩き続けた。
――悟には、見えないところまで。
まだまだ続きます~❣️
#家入硝子
#さしす組
コメント
1件
わああっ、第2話読み終わったよ〜!!🌸✨ 悟くんの「今のここねも知りたい」に胸がギュッてなった……!😭💕 昔は笑えてたのに今は笑い方忘れちゃったっていうここねの心情、めっちゃわかるよぉ…。最後に「まだ好きなんだ」ってぽろっと溢しちゃうとこ、完全にエモくて泣けた( ; ; ) 幼馴染みの距離感と切なさが可愛すぎるし、悟くんもなんか気づいてそうな雰囲気でドキドキが止まらない!!続きが気になって仕方ないよ〜次の話も楽しみにしてるね⋆♡