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仕切られたカーテンの向こう側から、スタッフの笑い声が微かに届く。軽い足音に柔らかい声。それだけで向こう側が、私いるここよりも明るい場所だと不本意に分かってしまう。___この薄暗いカーテンの中で、影を帯びた顔でアスナが言った。
「こっちゃん、ほら見て、トモハルちゃんだよ。」
「トモハル⋯?」
頭の中ですぐ顔が出てこなかったから、思わず聞き返す。心做しか、少し重くのしかかるこの空気に、私は自然と力んでしまう。
「前雑誌の表紙になってたときに二人でみたじゃん、日本だけじゃなくて海外からも注目されてるモデルだよ。女の子だけどかっこいい顔してるなって思ってたら、日米ハーフなんだって。かっこいいね。」
そう口角を緩めてアスナが言う。それに私は、あからさまに唇を尖らせる。⋯悪かったわね、私はアジアらしい凹凸のない丸っこいつまらない顔で。視線をこちらに戻したアスナが、私の心境を察したのか、当惑そうに口を開いた。
「もう、そんな顔しないで、こっちゃん。世界で一番可愛いのはこっちゃんだよ。」
「⋯」
私はアスナと視線を合わせず、適当に爪を弄る。居心地が悪くなったのか、アスナは短く息を吐いた。
「こっちゃん、挨拶してきなよ。」
「は?」
思いがけない言葉に呆気にとられる。私より礼儀正しいアスナと言えど、挨拶するように私に諭したことなんて一度もない。というか、基本的には向こうから先にしてくるから私から挨拶すること自体珍しいけど⋯。まあ今回、向こうはカーテンに隠れた私達がよく見えていないみたいだから仕方のないことなのかもしれないけれど__なんで私が?
普段そんなことを言わないアスナが言うのが、尚更私のプライドを逆撫でした。
___アスナは視線を落とし、それ以上何も言わなかった。それが私に委ねた合図だと分かってしまうのが嫌だ。
「⋯分かったわよ。」
まあ、たまには私から声を掛けて、舐められないよう威厳を見せつけることも大切よね。ちゃんと牽制しなくっちゃ。少しずつ私にはやる気が湧いていたが、どうやら断わられると思っていたらしい。私の返答に、アスナは目も口もだらしなく開いたまま動かなかった。__そんなアスナをよそに、私はカーテンの縁に指をかける。なんだかさっきの暖かい空気がフラッシュバックして、踏み出す足がすくんだ気がしたけど⋯⋯隙間から差し込む明るい光を受けながら__私は顎を上げて向こう側へ乗り出した。