「私が勝手に考えすぎたのもあるかもしれないけど・・・でも樹も大袈裟だよ。樹がモテて私が不安になることはあっても、樹がそんな心配する必要全然ない」
うん。それなら私の方が数倍心配なんですけど。
樹なんか結婚してからの方が、”逆に男に磨きがかかった”だの、”出来る男になった”だのいろいろ言われて社内の女子は相変わらず色めき立っているの気付いてないんだろうな。
社内に妻である私がいるというのに・・。
「透子こそ相変わらず無自覚で困る。実際オレあのパーティーでそういう感じのこと直接言われてるから。だからオレが耐えられなくて軽くしか挨拶させなかった。だけど、やっぱりオレがこんなに好きになった大切な女性だって、皆にも紹介したかった。なんか矛盾してるけど・・」
確かに挨拶してた時、樹は必ず私を守るようにしながら紹介してた。
一人一人紹介してくれるその言葉も支えてくれる手も、すべてで大切にしてくれてるのが伝わって来てた。
そっか。
だから私はその時、そんなこと何も感じることもなく、ただ幸せだったんだ。
なのに。
一年経って、きっと私がそれを忘れかけていたのかもしれない。
ただこの居心地のいい日々に慣れてきたからかもしれない。
ただ私がまた今以上に求めすぎただけなのかもしれない。
いつだって樹は、ちゃんと気持ちを伝え続けてくれているのに。
「でも、それってオレがバカみたいに透子好きすぎるからなんだよね~。それでオレの都合よく透子振り回して、自分で満足してただけだったのかも。それで透子不安にさせてちゃダメだよね、ごめん」
なのに、樹はやっぱりこうやって大きすぎる気持ちと優しさをくれる。
「違う。ごめん、樹。樹はちゃんといつもこうやって気持ち伝え続けてくれてるのに、私がそれをわかってなかった。勝手に自分で樹を求めすぎてた」
ちゃんと結婚したんだから、もうそんな心狭いままじゃなく、余裕ある大人な自分でいなきゃ。
今は樹のれっきとしたパートナーとしていられるんだから。
自信を持って、余裕な自分でいよう。
「いいよ。透子はそのままで」
「えっ・・?」
そのままでいいって、なんで・・・?
「オレ求めすぎるとか最高じゃん。透子の我儘なんて我儘なうちに入らないし、逆にそれはオレの喜びに繋がる」
すると、樹は嬉しそうになぜか笑顔で私を見ながらそんな風に言う。
「何それ・・」
「もっと透子にならオレは振り回されたい。いいよ。もっと我儘言って。オレを好きなら尚更」
きっともっと自由奔放な素直な女性なら、我儘言ったり振り回したり、そんなことをしてもきっと可愛いと思われるんだろうけど。
でも私はやっぱりずっとそんな自分で生きて来なかったから、つい気持ちを抑えてしまう。
だけど、きっと本当は・・。
そんな自分になりたいと思っている自分も・・いる。
「透子はオレの奧さんなんだから、もう誰にも遠慮する必要ないんだよ?」
その言葉が心に染み渡る。
「奥さんの我儘なら喜んで聞くよ?いいよ?もっとオレに我儘言っても。もっとオレのこと好きになってよ。もっとオレを頼ってよ」
何も言わないのに、どんどん樹は欲しい言葉をくれて私の心を埋めていく。
なんでそんな余裕で私より大人なのよ。
樹を好きになると私はどんどんいつもの自分じゃなくなる。
逆に私は余裕がなくなって、いつもより全然言葉に出来なくなる。
どれだけ時が経っても、同じ時を重ねても、樹のすべてにこんなにドキドキして高鳴る胸はいつだって止まらなくなるのに。
「これ以上好きになったらしんどいもん・・」
結婚したからって、それがなくなるワケじゃない。
それどころかずっと一緒にいることで、知らなかった樹どんどん知っていって、前よりどんどん好きになっちゃうし。
そしたらもっと、って思っちゃうじゃん。
結婚したからこそ、ホントはその気持ちが強くなってしまう。
もっと自分の思うようにしたくなってしまう。
「透子。そんなん言われてオレにはもう嬉しさと可愛さでしかなくて、たまんないんですけど」
なのに樹はやっぱり余裕で返す。
「もっと言ってよ。透子の素直な気持ち」
「もっと、って・・」
「少しくらい我儘になってくれた方がいいよ。透子は」
「そういうの好きじゃないし・・」
我儘って言葉、あまり好きじゃない。
なんかその人を困らせるみたいで抵抗がある。
それなら自分が我慢してる方がよっぽど・・・。
「透子。我慢しないことは、我儘なんかじゃないんだよ?」
「え・・・?」
自分の思ってることを、樹に言われてビックリした。
「オレはさ。透子に我慢してほしいワケじゃない。不安でも心配でもなんでもいいから話してほしい。それは決して我儘なんかじゃないから」
そう言って樹は優しく微笑む。
「我慢してたワケじゃないけど・・・。でも、私もちゃんと樹とはなんでも話したい。仕事のことだってそうじゃないことだって、私も樹のことちゃんと知っておきたいし、力になりたい」
「えっ?オレ?」
「うん。今、樹、仕事もいろいろ抱えて大変そうだし、少し前まではその話もしてくれたのに、最近は話してくれなくなって・・。今抱えてる案件は絶対いいモノにしたいからって言ってたのに、それ取り組み始めてから樹、私には関わらせようとしないし・・・。どうしても成功させたいって樹言ってたから、私も今の立場ならいろいろアドバイス乗れるかもしれないから相談してほいのに・・。仕事でだって今なら樹の力になれると思う」
どうして私には関わらせないのかもずっと気になってた。
それまではあんなにも報告してくれたのに。
「そっか。透子、そんな心配してくれてたんだ」
「樹。その急ぎの案件大切みたいだし、楽しいから大丈夫って言ってたから、しばらくは気にしないようにしてた。だけど、ここ最近は帰って来るのも遅いのに、帰って来てからもずっと仕事してて、あんまり寝てないみたいだし・・・」
最初は樹の仕事だからって思って、私も関わらないようにしてた。
だけど、今まではなんでも相談してきてくれたのに、あまりにも夜遅く帰って来たりする日が多くて、心配するしかなかった。
正直今の樹をそれまでに没頭させるのは何なのか、それを知りたい自分もいた。
私といても、今は目の前の仕事のが大切な気がして。
男して今の立場なら当たり前なのだろうけど、今までもそうだったのかもしれないけど、でも結婚して目の当たりにそれを見ると、この人はこんなにも仕事に夢中になる人なんだと知った。
今までは私が理由で、それを頑張っていたって言ってたのに、今は私は側にいる。
だけど、今はもうそんな不純な理由じゃなく、私が理由じゃなく、樹は違う今ある大事なモノに向かって進んでいる。
同じ仕事もわかち合える立場として、その大変さを理解してあげたいという気持ちと、私じゃない大切なモノに必死になっている樹に、一緒にいれない時間が増えていることに、きっと寂しさも感じた・・・。
それは完全に私の我儘だ。
私と仕事か、なんてそんなの絶対求めなくていい立場なのに。
樹の仕事を一番理解してあげられるはずなのに。
一番そんな我儘を持っちゃいけない。
それは絶対我慢しなければいけない。
こんな都合いい我儘だから、樹には言えないんだよ・・・。
結婚して、いろんなことを共有して、どんどん分かち合えていけるからこそ、我儘になる。
すべてを知りたくて、すべてを分かち合いたくて。
結婚したからって思ったら、その我慢は許されるのかもと思ってしまう。
厄介だ。
結婚しても、どんどん好きになっていくだけで、樹をどんどん求めてしまう。
結婚したのに・・・、いや、結婚したからこそ好きな気持ちに歯止めが効かなくなる。
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