テラーノベル
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地下牢の一番奥にある牢屋の前に立ったヒルは、鉄格子の間から中を覗く。
目を凝らしてみるが、僅かな照明は牢屋の中の奥の壁にある。ここからでは暗くて見え辛い。
(中に誰かいる……誰だ?)
牢屋の中にいるのは中年の男性と女性の二人で、年齢はランナの両親と同じか少し上くらいに見える。
ヒルの姿に気付いた二人が鉄格子の前まで歩いて近付いてくる。男性の方はグレーの髪で、女性は金髪でエリーナに似ている。
二人を見た瞬間にヒルの脳内で16年前の記憶が蘇る。当時6歳だった頃の映像が今の視界と重なりピントが合っていく。
「親父、母さん……なのか?」
信じられない思いでヒルの声が震えて瞳が激しく揺れる。病で死んだはずの両親が生きて目の前に存在している。
ヨルは両親を殺しきれなかった。だから殺した事にして幽閉した。それはランナの両親に対しても同じだった。
そんな真実さえ何も知らないヒルは、牢の端に立つ見張り番の兵に向かって乱暴に命じる。
「おい、この牢を開けろ!」
「は、はい!」
牢の扉が開くと、まず先に女性が出てきてヒルを抱きしめる。
「ヒル……私が分かる? あぁ、生きて会えるなんて……!」
「当然だよ、母さん」
今まで涙を見せた事のないヒルの瞳は潤んでいる。今では母よりも高く大きくなったヒルの身長と体格が長い月日の経過を思わせる。
続いて牢から出てきた男性はヒルの父親。クロノス・ヴァクトである。
「ヒル、久しぶりだな。今は夜のはずだが……」
やはりクロノスもガイスと同じ疑問を最初に口にするが、その口調と瞳には昔よりも優しさが感じられる。
感情豊かな母とは逆にクールな父・クロノスは16年ぶりにヒルを見ても感情の揺れを感じさせない。
「あぁ、色々あって、オレとアサとヨルは別々の人間になった……ってこれ、さっきも言ったなぁ」
「そうなのか……? ヒル、長い間すまなかった」
「なんで親父が謝るんだよ!? ヨルのやつ、親父と母さんまで牢に入れてたなんて絶対に許さねぇ!!」
クロノスはヒルの前に立つと首を横に振った。そこには怒りも恨みもない。ただ後悔していた。
「自業自得だ。私は大切な息子たちを殺めるところだった。長い間ここにいたら頭が冷えて冷静になれた。ヨルには感謝しているよ」
「親父……」
怒りの行き場を失ったヒルだが、複雑な思いだった。結果的に誰も死なずに再会できたのは全てヨルのおかげとも言えるからだ。
その時、通路の奥からランナが歩いてきてヒルの背中に近付く。そのさらに後ろにはガイスとエリーナの姿もある。
母親に抱きしめられているヒルは、体は大きいのに子供っぽく見える。感動の場面なのにランナは思わず吹き出して笑ってしまう。
「ふふ。ヒルくんもご両親に会えて良かったね」
「あ、ランナ……!」
急に照れ臭くなったヒルは慌てて母親から離れるとランナの横に移動する。両親と向かい合う形になるとランナの肩を抱き寄せる。
「親父、母さん。オレ、ランナと結婚したんだ!」
急に紹介されたランナも慌ててお辞儀をする。ヒルの両親はジョルノ国の先代の王と王妃だが、ランナは当時3歳だった事もあり名前を知らない。
ランナは、ヒルの母親の容姿に目が留まった。長い金髪と金の瞳。ランナの母親のエリーナに似ているし、ランナにも似ている。それにあと、もう一人。
(この不思議な感じ……聖なる力……聖女?)
ランナの視線に気付いた母親が微笑んで会釈する。
「初めまして、ランナさん。私はヒルの母、エリス・ヴァクト。そして彼が夫でヒルの父、クロノス・ヴァクトよ」
「エリス……様!?」
その名前はジョルノ国に伝わる物語の聖女の名前と同じ。やはりヒルの母親は、三匹の悪魔の魂を宿した聖女・エリスの生まれ変わりだった。
ようやくランナの中で全てが繋がり始めた。かと思うと、ランナの後ろにいたエリーナが急に前に出てきてエリスの正面で両手を広げる。
「エリス姉さん! 私よ、妹のエリーナよ!」
「え? エリーナなの? まさか、こんな所で会えるなんて……!」
エリスとエリーナは顔を合わせるなり抱き合って再会を喜び合う。金髪金眼の二人は抱き合うと区別が付かないほどに似ている。
その様子を見ているランナは、驚きの連続で理解も思考も感情も追い付かなくなってきた。
(え? 母さんとエリス様が姉妹? え、え?)
ランナの母・エリーナが妹で、ヒルの母・エリスが姉。
その血筋から、ランナもポーラも確かに最強の聖女の血を受け継いでいた。
聖なる国・レッドリアの聖女が、伝説の悪魔の発祥の地であるジョルノ国に嫁ぐ事に対しての世間体は冷たい。
姉のエリスは家族にも無言で姿を消して、駆け落ちに近い形でジョルノ国王・クロノスと結婚した。
妹のエリーナはガイスと結婚後にレッドリアから追放されて、ジョルノ国の田舎町モーメントに移り住んだ。
お互いの居場所と結婚相手を知らない姉妹は、実は同じジョルノ国で暮らしていた。
ランナは驚いた顔のままで隣のヒルと顔を見合わせる。
「すごい……なんか一気に家族が増えちゃった」
正確には増えた訳ではなく、バラバラだった家族が再会しただけの事ではある。
呆然としているランナの片手が温かい感触に包まれる。ヒルがランナの手を握った。
「これからもっと増えるけどな」
「え?」
その時のランナは、ヒルの言葉と笑顔の意味を理解する余裕がなかった。
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