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「あぁ、来たのね」
重い扉を開くと
母がブランケットを1枚、膝に被せ
暖を取りながら待っていた
「心配だったの。お兄ちゃんがちゃんとミロアにお母さんの所来てねって伝えられてるか。」
『なんで心配だったの?』
「そりゃあお兄ちゃんは忘れん坊だもの」
ブランケットを布団の上に畳んで乗せると
「隣においで」のジェスチャーをした
母の穏やかな顔は不思議と暖かさを誘った
私はゆっくりと隣に腰を下ろす
「そうそう。お兄ちゃんが兵士になる前に、貴方に渡すものがあったの」
母は収納の二段目の棚から、おもむろにある小さな物を取り出した
「はい、これ。知っているでしょ?」
埃を被った焦げ茶色の表紙に
鼻をつく紙の匂い
すぐに分かった
『…手帳?だよね。私が使うかな…』
それは古びた手帳だった
この辺じゃ見ない柄だ
「そんな顔しないの。聡明な兵士は記録をつけるものよ?それに、この手帳は昔お父さんが使っていたものなの。と言っても、1、2ページぐらいだけどね」
「お父さんすぐに飽きちゃうもんね」
「…フフ、確かにそうね。あ、今はそのページは貴方が使えるように破いてあるわよ。お父さんが自分でね。恥ずかしいんだって」
『へ〜…』
「本当はお兄ちゃんに渡そうとしたんだけど…貴方にあげる。いつか兵士になったら、毎日ではなくてもいいから書くようにしてみたら?」
『…分かった。兵士になったらね。でもどうしてお兄ちゃんにあげなかったの?』
「ん〜…なんでだろうね。お兄ちゃんこういうのすぐ飽きちゃいそうだからさ」
『ハㇵッ…何それ』
その言葉は
「ミロアなら大丈夫」と言ってくれているようで
なんだか恥ずかしくなり
勢いで母の肩に頭を乗せた
「お兄ちゃんには秘密ね。こんなこと知られたら怒られちゃうから」
『うん…分かった。分かったよ。』
私は手帳を自分のポケットに入れた
手帳は案外大きく、ポケットから3センチ程はみ出る
「そうだ、お父さんには見せていいわよ。懐かしいって言って喜ぶかもね。今はきっと下にいるわ。いってらっしゃい」
母は私の頭を撫でた後、
ブランケットに再び手を伸ばした
私も何も言わずに部屋の扉を開けた