テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
古本屋で、
エミさんが欲しがっていた 分厚い小説を見つけた俺は、 エミさんの喜ぶ顔を思い浮かべ、 勢いよく自転車を飛ばして家に向かった。
交差点に近づいていった時、
前方を白いつえの男の人がゆっくりと
歩いているのが見えた。
「目が不自由なんや。」
と、思った途端 いろんなことが頭をよぎった。
ちょうどつい先日、エミさんから、
「バリアフリー」 について
教えてもらったばかりだった 。
最初はどーでもええとか 思ってたけど。
エレベーターの点字の表示や、
歩道の点字ブロック、その他、
目の不自由な人のためのバリアフリーの
工夫はいろいろあることがわかった 。
でも、本当に目の不自由な人が、
街を歩くのには、まだまだ不十分なのだろうと少しだけ気になってた 。
さらに三週間前、導犬についての
テレビ番組を見たエミさんが、
「目の不自由な人が横断歩道を渡るとき、
信号の色は車の流れで判断するしかないんですね。車や人の多い所なら気配は感じやすいだろうけど、閑散としている所を渡るのは不安でしょうね〜。」と、
話していたことを思い出した。
横断歩道の歩行者専用信号が、
点滅を始めたと同時に、俺の胸も ドキドキし 始めた。 目の不自由な人は、横 断歩道の前で立ち止まった。
俺は自転車を、その人の少し後ろに
用心深く止めた。歩行者専用信号は点滅を やめ、赤に変わった。
俺の心臓は、ますます速く脈打ってきた。
片側二車線の広い道路。そのわりには、
時間帯のせいか、車の通りは少ない。
「赤ですよ。青になったら一緒に 渡りま しょう」
そう言ってあげられたら、この男の人はどんなに安心するだろう。
でも、頭に浮かんだその言葉は、 速度を
増して脈打つ血液と一緒になって
グルグルと俺の体内を駆けめぐるだけで、
どうしても口から出てこない。
自分自身に腹を立てながら、俺は、
自転車をちょっとバックさせてから、
勢いをつけて少し織めになっている
縁石の所まで自転車を動かし、
キューッと音を立ててブレーキをかけた。
信号が赤であることをアピールする
苦肉の策だった。
左側から来た一台の自転車が、右折していった。そして、信号は青になった。
いつもなら青号に変わるやいなや走りだしているはずの俺は、まだ止まっている。
勇気を出してペダルを踏み込むと同時に、
俺の口から出た言葉は、
「 よし、青になった。渡ろうっと。」
だった。
不自然な独り言を言って、
これまた不自然にゆっくりと 横断歩道を渡った。 僕に少し遅れて、 あの男の人も渡り終えた。
俺は少しホッとしながら、 ささやかな親切すらできなかった ほろ苦さを感じた。
上り坂で自転車をこぎながらつぶやいた。
「青ですよ。一緒に渡りましょう」
夏休みの課題が一向に終わらない。
とりま読書感想文は終わらせたよね。
7⁄31
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!