テラーノベル
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――会社に特段に貢献してくれた人に与えられるインセンティブ。
皆の前で拍手を受け、白い封筒に入ったものを受け取った。
「社員のモチベーションを上げるために、こういうのもいいかなと思ってね。今回は、彼だけど……皆も、続くように」
なんて、名目だけど、日付指定の宿泊権利。……しかも、明日ときたもんだ。……しかも、そこのホテル。
何が悲しくて、会社の近くに泊まらなきゃならんのだ。しかも、金曜日の夜に。せめて、リゾートとか。休日にしてくれよ。
分かってる。なぜ、インセンティブとか|体《てい》の良いことを言って渡してきたのか。接待用に取ったホテルが、先方の都合によりキャンセルになったから。しかも、急に。キャンセル料金がほぼかかる。予約は会社名義。社員なら問題ない。
……無駄にしたくない。それだけの事だ。じとっとした俺の視線を逸らしながら
「まぁ、そういうことだ。……君ならお相手の1人や2人いるだろう? 楽しんでくれ」
……楽しめる訳ないだろう。相手もいないのに。振られた所だっていうのに。あ、でもだいぶいい部屋か。じゃあ……あげてもいいな。あの2人に。
タイミングの良い事に、明日……来るじゃないか。まだ拗れてるのか、拗れてないのか知らないが。どちらにせよ、そうしよう。プライベートでの彼らが並ぶ姿が見られるぞ。ほんの少しの、楽しい企み。明日が楽しみだ。
次の日、やってきたのは、|吉良君《イケメン》の方。
あー……拗れてるねぇ。まだ。前回同様、淡々と仕事をこなす。取り付く島もないほどに。
仕事が終わると、そのまま帰ろうとする彼を止めた。
「あー、今日は俺も終わりなんだ。待ってて」
何かを含ませるように、そう言った。
そう言って、フロアに声を掛け、彼と共に商談ルームを経て、下に下りる。
「君、今日は? 」
「これから、友人とそこで会うだけです。ここ、友人の会社から近いんで。清水部長は」
敢えて、聞いて来たのだろう。挑戦的な目を乗せて。
「あー……実は今日もそこのホテル取ってるんだよね。……いい部屋なんだ」
そう言うと、挑戦的な目が、より一層強くなる。|取引先の部長《俺》に、この目はないだろう。
「なんなら、君が代わりに行く? 」
俺と、じゃなくて、俺の。
その瞬間、彼の目に何かが光り、より鋭く俺を見据えた。
……殴られるのかと思うほどに。
エレベーターホールの大きな観葉植物の陰にぐいぐいと、追いやられる。俺の胸に手を乗せたまま。
……男にこうされるのは……。
ガタイは俺の方がいい。しかし会社なのでもう少し奥へ入った。
「何? 」
「恥を承知でお願いします」
手は俺の胸に置かれたまま。
「引いて貰えませんか? 」ああ、やっと言ったか。
「君、無理なんじゃなかった? 」
「構いません」
それでも……って事か。
「そんな事、どうでもいい」
そう言うと、また少し俺に近づく。
「譲って下さい。絶対に、幸せにします」
ふっ、プロポーズみたいだな。吹き出しそうになるのを何とか堪えた。
譲るも何も。最初から君のものだ。彼女の……気持ちは。
「……分かったよ」
そう言うと、ようやく俺の胸から手を離し安堵のため息をついた。
「条件がある」
「……何でも……」
「君も、幸せになることだ」
そう言うと、ニッといつもの生意気な顔で笑った。
「感謝します、清水部長」
まぁ、気持ちの面でも……完敗だ。
「……清水部長にも誰か……」
「結構だ」
今、言うか。そう思って笑った。君達は本当に……。
「まあ、男に壁ドンってのも悪くないな」
「そんな、若い言葉、ご存知なんですね」
……本当……腹立つな。
彼に少し遅れてビルを出ると
「吉良くん! 」
そう声が聞こえた。
友人って……女かよ……こいつ、こういう所だよな。まったく。
「あ……湊……」
「ありがとう。これ……」
そう言って、彼に何かを手渡した。
「うん。あ、俺……今から行かないといけないんだ。……その」
「うん、いってらっしゃい!」
彼女は笑顔でそう言った。こっちも美人か。
流石だな。そら、誤解もされるだろう。ただ、美人ってのは……それに、気づかず相手をより一層誤解させる。
「ああ、じゃあな! 湊、また! 」
「お、さっそく見せつけるのか」
思わず口を挟むと俺の方に向き直り
「清水部長! 失礼します! 」
そう言って麗佳の元へ走って行った。約束していないはずなのに、そこにいる麗佳の所へ。
格好いいね~
「やだ、あの人、足も速い! 手も早いんだろうけど格好いいだけじゃないのね」
そう言った彼女に吹き出した。
俺のことを忘れていたのか。彼女は少し目を伏せ、もう一度こちらを見ると恥ずかしそうに一礼した。
「本当……そうだね。えーっと……|湊《みなと》さん? 君はいいの? 」
彼女は少し驚いたように、俺を見ると、にっこりと笑った。
「ええ、ハンカチを返すだけでしたので。清水部長」
俺が吉良君が呼んだように彼女をそう呼ぶと、彼女も吉良君が呼んだように、俺をそう呼んだ。
彼とは大学の同級生だと言った。……じゃあ吉良君と同い年か。
「この後の、ご予定は? 湊さん」
「……ありません」
「……食事、付き合ってくれると……嬉しい」
「わ! いいんですか? 嬉しい。ちょうど、そんな気分で」
初対面ではあるが、お互いに吉良君という共通点がある為か、安心感はあった。
テンポよく返ってくる会話に、頭の回転もいいのだろう。
店に着くと、横並びの席に座った。顔を見て話すとなると、結構近い。
彼女は思ったより……ずっと、綺麗だった。少し、魅入ってしまうほど。ラッキーだな。
「あら、さっきは暗かったからもしかしてって思ってたんですけど……ハンサムですね! ラッキーだわ、私」
真っ直ぐにそう言う。
麗佳が、“取っ付きにくい美人”なら、とりわけこの子は“気さくな美人”。
タイトなワンピースは細身ながら、女らしいラインが分かる。ちょっと、この距離なら目のやり場に困るくらいだ。
少し、見つめた後に、にっこりと笑う。
うん……ラッキーだ。
「悪かったね、付き合って貰って」
「私も、誰かと居たかったので。それが……美味しいお料理に美味しいお酒……そしてハンサムな部チョーさん。もうね、最高」
そう言ってまた、にっこり笑った。本当、綺麗だ。
ろのみ🩵🫧
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#愛され
おうか
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コメント
1件
うわあ、これ、すごく好きな空気感でした……! 清水部長、最初は「相手いないしな〜」って軽く流してたのに、まさか湊さんと偶然食事することになるなんて。それにしても「男に壁ドンされるのも悪くないな」って言い放つ清水部長、好きすぎます(笑)。奥のほうに追いやられてるのに全然負けてなくて格好いい。湊さんとの横並び席の距離感、目のやり場に困るって描写にドキドキしました。恋、始まる気配がして胸が温かくなりました。素敵なエピソードをありがとうございます!