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♦……side:???




事務所の地下にある部屋で、俺は馬鹿みたいに高いソファーに体を預けていた。


「くくッ、楽しみでしょうがねぇ」


義殺会を向かわせた以上、失敗は無い。しかも、ネズミの手配だ。些細なミスで取り逃すってことも無いだろうな。


「確定した勝利って奴だな」


それをこの安全な場所で待つ……最高の至福だ。


「オヤジッ!」


ノックもせずに扉を開けた奴は、やけに鬼気迫る表情だった。


「おい、ノックくらいしやがれ」


「す、すいやせんッ! ですがッ、オヤジッ! と、扉が……扉が開かねぇんですッ!」


ノックもしねぇで何かと思えば、扉が開かねえだと? いつもだったらぶん殴ってるところだが、今は気分が良いからな。


「チッ、見してみろ」


「へ、へぇ。ありがとうございます! そ、それと、扉だけじゃなくて窓も開かねえんですッ!」


あ? 窓も開かないだと……?


「馬鹿か、テメェッ! それを先に言いやがれッ!!」


扉だけ開かねえならぶっ壊れたかおかしくなったってだけかも知んねえが、窓まで開かねえとなっちゃ話は別だ。


「敵だろうがッ、どう考えてもッ!」


「ぐべッ!?」


使えないクズを殴りつけ、俺が地下から一階に上った。


「おいッ、どうなってるッ!」


「オヤジッ、それが、窓も扉も開かねぇんですッ!」


んなこた分かってんだよ。


「……何だこりゃ」


窓から外の景色が全く見えない。真っ黒だ。


「窓殴ってぶっ壊せ。誰だか知らねえが、ウチに手ェ出してただで済むと思うなよ……」


俺の指示に従い、部下の一人が窓を叩き割り、そこから手を伸ばすも黒い壁に阻まれる。


「割れはしたんですが……この真っ黒いのが、壁みてぇで……」


「黒い壁だと……魔術か何かか?」


ウチには魔術が使える奴なんて殆ど居ない。使えたとしても、この黒い壁の正体が分かりなんてしないだろう。


「ネズミは居ねえのか」


だが、一人だけ例外が居る。それはネズミだ。



「――――クヒヒ、お呼びですかぁ?」



いつも通りのウザったい喋り方だ。内心ではこっちを見下しているのが丸分かりで殴りたくなるが、それでも手放していないのはこいつが役に立つからだ。


「おい、ネズミ。今何が起きてる」


「何かが起きてますねぇ。えぇ、大変なことが起きていますとも」


どこからか現れたのはネズミに似た顔の男。


「この黒い壁……どうにかしろ」


「クヒヒ……中々、難しいですねぇ。時間をかければ破壊できるかも知れませんがねぇ」


クソ、ネズミでも難しいか。


「まぁ良い、時間をかけてでも……なん、だ?」


視界が僅かに白んでいる。薄い霧みたいな、何か……何だ、これは。



「――――あら、気付いたんですか?」



背後にから聞こえた声。慌てて振り返ると、そこには金髪の少女が居た。


「ッ、テメェ……何の為にこんなことしやがる」


「……何の為?」


薄らと笑いを浮かべていた少女の表情が消えた。


「報復よ。主様に手を出したことへの、報復」


報復だと……誰だ。恨みなんてどこからでも買ってるからな。分かりゃしねぇ。


「主様ってのは誰のことだよ。生憎、思い辺りがありすぎてな」


「今日、貴方達が刺客を送り込んだ相手よ」


……今日だと?


「まさか、老日か?」


今日ってなると、老日しか有り得ねえ。


「ハッ、ハハッ! なるほどなぁ。まぁ、老日は残念だったな。ウチの義殺会に狙われたのが運の尽きだったってこった」


こいつは老日の敵討ちに来た可哀想な女って訳だな。


「……ふ、ふふ」


俯いた女は、笑い声のような声を漏らした。


「可哀想に」


にっこりと笑みを浮かべ、少女はそう言った。


「全て、可哀想です。主様を殺せたと思っているのも、今から死ぬなんて微塵も思っていないことも」


「……何言ってんだ、テメェ」


老日を殺せてない? んなわけねえだろ。義殺会を送り込んで殺せてねぇ訳がねえ。たかが六級のハンター風情が、逃げることすら出来やしねぇだろ。


「それに……今から死ぬだと?」


「えぇ、死にますよ。こんな風に」


瞬間、俺の喉元には紅の刃が突き刺さっていた。


「がッ、ぐッ、ぉォ……ッ!」


クソッ、痛ェッ! 何だッ、どうやったッ! しかも……抜け、ねぇッ! やばいッ、息が、出来ねえッ! このままじゃ、死ぬ……ッ!



「――――がはッ!? ハァッ、ハァ……」



気が付くと、喉元に突き刺さった刃は消え失せ、俺は床にへたり込んでいた。


「なん、だ……今の」


大量に出血している筈だが、血の一滴すら流れていない。感じていた苦痛もさっぱり消えている。


「さぁ?」


少女が首を傾げると同時に、今度は全身に紅の刃が刺さった。


「がッ、ぎ、ィィ……!」


動けすらしない。全身に鋭く走る痛みを、どうにもできない。


「ふふ、不思議でしょう? でも、貴方がしてきたことを思えば軽いものだと思うわ」


「だ、ずけ……」


ゆらりと近付いて来る少女の手に握られた紅の剣。それが持ち上げられ、そして……俺の首を刎ね飛ばした。



「――――ハァッ!? ハッ、ハァ……い、生きてるのか?」



だが、気が付くと俺はまた無傷で座り込んでいた。部下の奴らが怪訝な目で俺を見ている中、金髪の女だけが全てを理解しているかのように微笑んでいた。


「て、めぇ……何を……俺に、何をしたッッ!!!」


立ち上がり、少女の胸倉を掴もうと飛び掛かる。


「なッ!?」


俺の手が触れる瞬間、少女の体は霞のように消え失せ、俺は地面に倒れ込んだ。


「クソ……クソッ!!」


またどこかから少女の笑い声が聞こえた。馬鹿にするような、憐れむような、笑い声だった。

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