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紫目線
今日は定期報告の日で、社長であるさとみくんの新居にお邪魔していた。
さとみくん、ちょっと前までスランプとか言ってたのに散歩に行ってから見違えるようにまたキビキビと働き始めた。それに、趣味にしているデザインも終わらせて、すぐに役員会で承認を得てころんにモデルをお願いしてたくらいだ。不思議に思ったものの、まあ仕事してくれるならいいかって思ってたんだけど・・・
ソファにゆったりと腰かけるさとみくんの膝の上にいる男の子を見て、安心していた気持ちが消えていく。男の子は俺の視線に気づいて、にぱっとでも言うかのように笑った。え、可愛い
「ジェール、俺には?」
「さとちゃん!」
「あ~かわいい、すき」
「おい、まておい」
そうだ、俺この子誰ってさとみくんに聞いたんだ。だってエレベーター降りたらさとみくんが知らない男の子抱えて笑顔で手をふってるんだよ?!びっくりして固まって、気が付いたらリビングに通されてるんだよ?!! で、よく分からない話を聞いている。
「よく分からんくはないやろ。馴れ初めやん」
「馴れ初め?!」
「ほらジェル、自己紹介」
「はいっ、ジェル5さいです!」
「ジェルくん将来の夢は?」
「さとちゃっ、の、およめしゃん!」
は?
よく言えました~ってデレッデレの顔でジェルくん?の頭を撫でまわしている馬鹿は放っておいて・・・いや、放っておけない!こいつうちのトップだ!
「よめ・・・?」
「おう、ジェルは俺の嫁」
「え、女の子?」
「おれおとこやもん!」
「そうだな~、ジェルは男の子だな~」
え、ん?これ俺がおかしいのか? さとみくんはジェルくんを向かい合わせになるように抱えなおして、頬に手を添えておでこにキスをしている。ジェルくんはとても嬉しそうに『きゃ~っ』なんて言ってさとみくんの服の胸の所を掴んでいた。
「え、まって、本気?」
「もちろん。迷子になってたジェルを孤児院に届けるついでに引き取った」
「孤児院、引き取り?あれ、冒頭の・・・プロポーズ・・・・・?」
「そっ」
「は?」
「父さんと母さんから了承はもう貰ってる」
そういうさとみくんの手には、現会長直筆の証明書が握られていた。『ジェルくんをさとみの婚約者と認めます』・・・?嘘だろ会長夫婦!何考えてんだ!!あいて、え、5歳って!男の子って!!
「ジェルくん、お嫁さんの意味わかってるの?」
「んぅ?」
思考停止しかけた俺は、ころんくんの話を聞くことにした。 これでこの子の意思がなかったら目の前のこいつはただの犯罪者予備軍だ。
ころんくんはちょっと考え込んだ後、さとみくんの手を両手で握りしめた。
「んっと、だいすきなさとちゃんとずっといっしょにいゆひと!」
「ジェ~ル!!」
「ちょ、さとみくんうるさい」
笑顔で言い切ったジェルくんを感極まったさとみくんが抱きしめている。 これは、ちゃんと分かってるって思っていいのか?あのさとみくんだ、丸め込んでいる可能性もある。怪しんでいる俺に気づいたのか、抱きしめられて嬉しそうにしていたジェルくんが、その腕を解いてさとみくんの膝の上で回転し、俺の方を体ごと向いた。
「おれ、わかってるで・・・?」
「へ、?」
「さとちゃんすきやで?」
先ほどまでとは違う雰囲気で、別人のように話し始めた。翡翠の目に吸い込まれそうだ。 だから俺は、ちゃんと聞くことにした。意外とこの子は本当に分かってこうしているのかもしれない。この子は、きっと賢い子だ。
「ジェルくん、君が大人になる前に、もしかしたらさとみくんよりいい人と出会うかもしれないよ?そうなったら、この証明書はきっと君の将来の足かせになるよ?」
「さとちゃんよりいいひと・・・?」
「・・・なーくん」
ジェルくんが目をぱちぱちとさせている時、さとみくんに名前を呼ばれてそっちを見た。そして後悔した。 さとみくんは、群青色の目を少しだけ濁らせて俺を見ている。幼馴染で付き合いの長い俺には、さとみくんが何も言わなくても何が言いたいのか理解してしまった。
『俺が、ジェルを離れさせると思ってるの?』
『ジェルの意思で俺を選ばせるから、余計なことを言うな』と。
体が無意識に震える。ここまで何かに執着する幼馴染を見るのは初めてだ。 基本、のらりくらりと人を躱して、気に入った人だけとつるんでたような奴だ。ツートップがいいと駄々をこねられたくらいには俺も気に入られている自覚はあったし、親友の莉犬くんや後輩のころんを会社に引き込んだときはやっぱりかと思っても止めなかった。彼らの意思もさとみくんのそれにあっていたからだ。でもそれも、彼のやり方だったとしたら? 親の代からさとみくんの会社の秘書を務めているが、両親は俺の好きなことをしていいと言ってくれていた。さとみくんのご両親も残念そうな顔をしながら、『なーくんの好きに生きていい』と言ってくれていた。それでも俺は、この会社が好きだし、なによりさとみくんを友人として気に入っていたから継ぐことを選んだんだ・・・それすらも、本当に俺の、
「なーくん?」
再び名前を呼ばれて、ハッとした。目の前の二人が心配そうに俺を見ている。 考えすぎか・・・?なんにせよ、俺が自分の意思で今の立ち位置にいることに間違いはない。ならもうそれでいい。
いつの間にか、体をさとみくんの方に向けているジェルくんの頭を撫でた。 ごめんねという気持ちをのせて。俺にはさとみくんを止められそうにないよ・・・。当の本人ジェルくんは嬉しそうに顔をほころばせている。
さとみくんの方を見て、『この子を泣かせるなよ』とだけ、釘を刺しておく。 案の定、察したさとみくんからは『そんなヘマするわけがない』とでも言わんばかりのやれやれ顔をもらったわけだが。
「俺はななもり。さとみくんの秘書をやってます。」
「ひしょ?」
「うーんとね、さとみくんのお手伝いをしてるんだよ」
「あー!おれといっしょやー!」
「へ?」
「おれもね、おてつだいしてるんや!」
おい、さとみお前こんな幼い子になにさせてんだ?もしも役員会でこの子の描いた絵を出してみろ?ひっぱたくぞ さすがに仕事とは分別してもらわないと困る!そう思っていたのだが、ジェルくんの次の一言で一気にその考えは霧散した。
「おれね、さとみくんをおふとんにつれていくのと、ごはんをたべさせてあげるお手伝いしてるんや!」
「ジェルくん。これからもよろしくね?あ、もしこいつに何か嫌なことされそうになったらいつでも言ってね?」
「おい、なーくん?」
「あいっ!」
「ジェル?!」
この子、めちゃくちゃいい子だわ。
「じゃあ俺、そろそろ帰るね」
「あ、なーくん、これ今度の役員会に出しといて」
「え?もう?」
見るとその紙には、さとみデザインの洋服が描かれていてた。前も出したばかりなのに、スパン早くない?
『ジェル見てたら湧いてくる』って・・・はあ、俺もう何も言わない。
その後、疲れ切った俺はマンションを出て莉犬くんところんと一緒に飲みに行ったんだけど、二人はもう知ってたみたいで、俺が知らなかったことに驚いていた。二人は『本人たちが楽しそうだからそれでいい』って・・・やっぱり俺がおかしいのか?ワーカホリックのさとみくんが休めるようになったならもうそれでいいわ。俺は考えるのを止めた。
いかがですか?
次回♡500