コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
寺に到着し台所までやって来たコユキは、善悪が出した漬物や味噌汁、b1豊富な納豆にもまるで興味を示さずに、
「今日だけ、もう一日だけ、ね、お願いセンセイ! 泣きの一日で! 泣きで!」
と言い、ご飯とお湯に塩だけを振り掛けて、それだけでサッサと朝食を終わらせてしまった。
午前の座学の中、忙(せわ)しなく動き続けるコユキの視線に、少々目のやり場に困りながらパラノイアを討ち果たした善悪が、っぽい事を言った。
「今朝のコユキ殿の発言を聞いていて、ふと思ったのでござるが、オルクス君の事でござる」
「?」
キョトンとするコユキに対して善悪は言葉を続けた。
「うん、コユキ殿が言っていた、今までに無い動きの可能性と言うやつでござるよ。 思えば、それこそがオルクス君が言っていた『ハヤサ…… モットモット……』て事なのでは無かろうかって思ったのでござるよ」
「……なるほど、そう言われてみると、確かにそんな気がしますね」
コユキも少し間を置いてから首肯(しゅこう)しつつ同意をした。
「そうなのでござる。 その事から考えたのでござるが、あのモットモットって言葉は、あの段階のコユキ殿の速度ではこれから現れる敵、悪魔達に太刀打ち出来ないって事を伝えてくれたんじゃ無いかって考えたのでござるよ。 だって、オルクス君ってあのヤギ頭の悪魔から出てきたのでござろ? つまり、一番悪魔に近い存在って事でござろ?」
「! センセイ、確かに生まれはそうかもですけど…… オルクス君は、むしろ天使属性だと思いますよ!」
「う、うん、まぁ、属性? ってのはどうか分からないけど、オルクス君が我々『聖女と愉快な仲間たち』のパーティーメンバーの中では、唯一悪魔の能力に詳しいって事には変わりは無いであろ?」
「え、ええ、まぁそうですね」
天使属性をすんなり認められ無くて少し残念に感じたコユキだったが、善悪がオルクス君をパーティーメンバーと認めた事で、一応の納得を示す事にした。
「つまり、今日の泣きの一日でコユキ殿が手に入れる力、それが思惑通り手に入れば悪魔に通用すると考えられるのでござる。 しかし、同時に……」
「同時に……? (ゴクリ)」
「相手も同じ事が出来るという可能性も消えないのでござるよ。 いや寧(むし)ろその可能性が高いのでござる」
「っ!」
コユキは愕然としながら、善悪の言葉を聞いていた。
完璧だと思われた回避能力には、まだ成長の余地があった。
その域に届きそうで有る事がうっすらとだが感じられて有頂天になってしまっていたようだ。
オルクス君の『ハヤサ…… モット…… モット……』には、もっと速くなれるよ、という意味以外にも、みんなもっと速いよ、って意味だって考えられるじゃないか!
そう考えてコユキは有る事に気付き慌てて善悪に告げる。
「ね、ねぇ、センセイ……、もしかしてだけど、こういうの相手も持ってる事とか…… 有るのかな?」
「! ……た、確かに…… その可能性も有ったでござる、な……」
善悪はそう言ってコユキがポッケから取り出した、銀色のかぎ棒を見つめるのだった。
もしも、これから相手をしなければならない悪魔達が必殺の武器みたいなのを持っていた場合、そしてコユキ同様かそれ以上の回避能力を有していた場合、相手の武器でコユキが消滅するか、または、コユキが如何にかぎ棒で刺し貫こうとしても、その攻撃は決して届くことは無いであろう。
突然ワタワタと慌て出したコユキに対して、こちらも同様にアセアセした声の善悪が聞いた。
「あ、あれ! あの、ヤギ頭は? 武器とか、持っていたでござるか? や、ヤバそうなヤツとか? 素手? 素手だったでござるかっ?」
「……持ってました。 デスサイズって言うんですかね? 死神とかが持ってる感じのやつ…… そ、そうです、あれを見た瞬間思ったんですよね、ああ、アタシ死ぬんだって。 こんなのどうやっても勝てっこないってお、お、思いましたぁぁぁぁぁ!」
突然泣き出してしまったコユキに善悪もオロオロし、しかし無理やりにでも考えをまとめようと顎に手を置き、はっちゃけ~はちゃっけ~とやりだしている。
ワタワタオロオロと暫く(しばらく)やっていたが、こんな事ばかりしていても仕方が無い、と気付いた善悪が強引に話をまとめようと意見を出した。
「と、兎に角、やれる事を一つでも多く考えるでござる。 武器とか技とか、時間が許す限りの間に色々整えようではござらぬか? ほら週刊誌をお腹や背中に入れて置くとかも有効かもしれないのでござる。 後、警察や自衛隊に協力を求める方法とか、反社の方々を味方に付けるのには、お幾ら万円くらい掛かるか調べるだとか…… 兎に角(二度目)、引き出しは多いに越した事は無いのでござるっ!」
コユキも異論は無かったようで、力強く頷くのであった。
そうして、お互いの認識のすり合わせを済ませた二人は、珍しく午前中にも拘(かかわ)らず境内へと飛び出すのであった。