テラーノベル
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浜田真紀はノートPCから目を離し・・・そっと雨が降って来ていた窓を覗いた
社長達が救助された時は、雨が降っていなくてよかった・・・もし雨が降っていたら、冷たい琵琶湖に落とされた体は、低体温症になっていただろう、宗一郎が琵琶湖に向かってから、およそ10時間が経ち・・・・
現地から彼にこまめな連絡と、指導を受けて真紀は動いていた、彼に頼まれて用意したメビウスの全株主ファイルが、目の前に置かれ、メビウスの代表の不運な事故から、会社が風評被害を受けないために、夫はこれから動かないといけない
PCの電子音がシン・・・としたリビングに響き渡る、真紀はメビウスの株価指標を見つめながら、ゆっくり暴落し始めているメビウスの株価がなんとか安定して欲しいと願った
早くも社長が事故に会った情報が洩れている・・・またPCにメビウスの得意先から社長の事故の安否メールが届き、それ以上の思案は出来なかった、その時玄関が開き宗一郎が帰って来た
「おかえりなさい!!」
真紀は駆け寄って出迎えた、慌しく玄関からズカズカ入って来た彼は、疲労のしわが深く刻まれており、真紀の胸は締め付けられた
「レイは?」
「大丈夫・・・寝ているわ」
「これから少し騒がしくなるかもしれないが、君は寝てくれていていいから」
「大丈夫よ」
真紀がキビキビと宗一郎に連絡する
「広報部長から連絡がありました、株主をこの件から締め出すと反感を買いかねません、会社を応援している人達に社長の事故を説明すべきだと言っています、それとメビウスの全社員にも・・・・ 」
真紀が宗一郎の顔色を伺いながら言った
「社員には・・・各部署の日常業務を、責任をもって続けてくれと言ってくれ、決定事項に社長の認証が必要な事が何かあれば、 各自が提案する行動計画と共に俺に伝えるように・・・」
こくりと真紀が頷いた
「メディアが情報の裏どりをしたいと言ってきてるわ、弊社のホームページにプレスリリースを掲載したので、質問はすべて広報部へ行くように指示しましょうか?」
「頼む」
そこへ新たなメールの着信音が鳴った、画面へ目をやると、下世話な雑誌社のアドレスだとわかって真紀は無視した
「電話が1件保留にして待たせています」
真紀は宗一郎にワイヤレスヘッドセットを渡した、こんな時の真紀は超有能でこのうえなく仕事熱心だ、メビウスの会社のトップが水難事故で瀕死の状態だと聞きつけた連中からの連絡を、真紀が窓口になって、宗一郎につないでくれていた
「・・・メビウスの株主に事を荒立てないよう準備が整い次第、リモートで株主総会を始める、信用を取り戻し、少しでも株価が暴落するのを防がないといけない 」
「ハイ」
パチパチと真紀がパソコンにメールで指示をしている
「それと明日の朝9時に、メビウス役員会議の知らせをメールで送ってくれ、これを機にうちの株価が下がるのを狙っている 竜馬と敵対していた二社が明朝合併の意思を発表するらしい 」
「ハイ」
真紀が素早く、驚くほどのタイピングでノートPCに一斉メールを打ち込んでいく、宗一郎の言葉を一言も漏らさない勢いだ
「それと 」
「ハイ 」
真紀が宗一郎を見つめる
「抱きしめさせてくれ 」
真紀がガタンッと飛び上がり、宗一郎に飛びついた、携帯電話から保留音が鳴る中、しばらく宗一郎は真紀を強く抱きしめた、 彼の体はこわばっていて緊張が感じられた、ハァハァ呼吸が荒い、彼が吐き出すように言った
「っっ・・・二人を止めるべきだったんだっ!」
「宗一郎さんっっ!」
真紀は倒れそうな彼をぎゅっと抱き締めた
「平日の真昼間に結構なご身分だと・・・笑って・・・俺は送り出したんだ・・・せめてあの時引き止めていたら、あんなボートに乗らずに――」
「宗一郎さんっ!」
宗一郎が真紀を抱きしめながら吐き捨てるように言った、彼の苦悩が、震える全身が真紀に伝わって来た、彼は自分を責めている、真紀は目に涙をため、宗一郎を守りたいという思いでぎゅっと抱きしめた
「事故なのよ!宗一郎さん、事故なの!誰も悪くないのよ・・・」
真紀は同情に満ちた優しい声で囁いた、暫く真紀を抱き締めたまま、宗一郎が鉄のような理性を取り戻すのには数分かかった、そして、彼はソファーにドカッと座り、頭を抱え・・・蹲ったまま動かなくなった
それを覆いかぶさるようにずっと真紀が抱きしめ、大丈夫だと優しく背中を撫で続けた、そしてなんとか気力を取り戻した宗一郎は、真紀にキスをしてワイヤレスヘッドセットを持って、書斎に入って行った
そこから宗一郎の書斎からは・・・彼が絶え間なくかかってくる電話をさばいている声が、朝まで聞こえていた
・.。. .。.:・
ジェニは自宅のクローゼットの中をじっと見つめていた・・・クローゼットには黒、濃紺、グレー ピンクと色とりどりの今までのジェニのワークコレクションがハンガーに かけられている
ジェニは脚立を持って来て登り、一番上の棚の、さらに一番奥に押し込まれた箱を取り出した
そっと箱を床に置く、ジェニは震える手で箱のふたを開けた・・・そこには赤と黒のチェックの、フランネルのシャツが入っていた、箱から取り出して状態を確認する、ジェニには少し大きい・・・・男性用だ
ジェニはそのチェックのシャツを羽織った、あれから一週間、竜馬は今だ意識不明で二日に一度、ジェニは入浴と着替えを取りに家に戻って来た
しかし、すぐに高速道路を使って、琵琶湖の竜馬が入院している滋賀医療センターに戻った、昨日は酸素マスクが外れた 、それは良い兆候だと医者は言った・・・彼は自分で呼吸が出来るのだ、しかし脳震盪の後遺症は重く・・・いまだに彼は眉一つ動かさない
それでもジェニは伸びてきた髭を剃ってやり、かさついた肌にニベアを塗ってやった、意識はないが髪も髭も伸びている、彼はこうして生きている、包帯だらけの手を取って自分の頬に押し付けた
― ほら・・・彼はとても温かい ―
「竜馬さん・・・」
ジェニの頬から涙が一粒こぼれた
「お願い・・・目を覚まして・・・」
ジェニは目を閉じて、いつものように延々と竜馬に語りかけていた
ヒック・・・「あのね・・・ 話したいことがいっぱいあるのよ・・・私は幼過ぎて・・・あまりにも幼過ぎてあなたが(大きいお兄ちゃん)だって分からなかった・・・」
ポロポロ涙を流しながら言うジェニ
「あの頃・・・幼い私の前にあなたは王子様のようだった・・・本当に私はおとぎの国の王子様だって思っていたのよ、それぐらいあなたは素敵だった・・・そうそう・・・あの時のこと覚えてる? 私のメルちゃんを大きいお兄ちゃんが――」
自分の話に夢中になっているジェニは全く気付いていなかったが、その時・・・竜馬のまぶたと薬指がピクリと動いた
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・.。. .・
ヒック・・・・ 「うえ~・・・・ん・・・ 」
・.。. .。
―誰かが泣いている・・・―
どこかで泣き声が聞こえる・・・いつだったか・・・その子に泣かれると・・・なぜかよく胸が締め付けられたものだった
あれは・・・・ 誰だった?
・.。. .。.:・
コメント
1件
うわあ、今回の第129話は胸がぎゅっとなる回でしたね……。特に宗一郎が「抱きしめさせてくれ」って切り出して、真紀に飛びつくところ、あのギャップがすごく良かったです。あれだけテキパキ仕事してたのに、急に人間の弱さが出る瞬間がもう、たまらない。真紀が「事故なのよ」と優しく背中を撫で続けるシーンも、二人の関係性がぐっと深まった感じがしました。 そしてジェニのシーンも……あのチェックのシャツ、ずっと大事にしまってあったんだなと思うと、彼女の想いの重さがじんわり伝わってきました。ラストで竜馬の指が動いた描写、次どうなるのか本当に気になります。続き、楽しみにしています!