「やっぱりトレーニング後のシュークリームは格別ですな」
もっもっもっ、とシュークリームを食べながら廊下を歩いていると、視界が突然光に包まれる。下を見ると、魔法陣。何かの罠?と思ってると、頭に違和感。なんならお尻にも。
「…これ、兎の耳…?」
窓が反射して自分の姿を写すのを見ると、兎のケモ耳が生えていた。ということは後ろの下半身に感じる違和感はしっぽか。
ローブのフードを被って、耳をとりあえず隠す。黒だからフードの色と自分の髪の色で同化して見えないだろうと、治るまではフードを被ってやり過ごすことを決意した。
のだが。
そのまま廊下を歩いていると、江戸川乱歩……二つ程離れた先輩に出会してしまった。乱歩くんは自分と同じく魔法が使えないが、その代わりに人一倍…いや人十倍は頭が良い。いや、頭がいいと言うよりは観察眼が凄い。
「面白い魔法に掛かったねえ、君」
にやり、と口角を上げて心底愉快そうな声を上げた。すると手を引かれ、あっという間に乱歩くんの部屋に来てしまう。
自分の力なら抵抗する事は可能だが、乱歩くんは人よりかなり筋力が無いし、腕や足、腰周りが細い。なので、自分が抵抗すれば折ったりしてしまいそうで、ついされるがままになってしまうのだ。
「ほら、ローブ脱いで」
拒否すれば無理やり脱がされるのを知っている自分は、するするとローブを脱いでみせる。無理やり脱がされるとなんだか、その…イケナイ気分になってしまうのだ。それも踏まえて、一回無理やり脱がされた頃から、自分から脱ぐようになった。まあ自分から脱ぐのもアレな気分になってしまうのだが(乱歩くんがベッドの縁に座ってて自分より目線が低いにも関わらず上から目線みたいな目で見てくるから決して僕が悪いわけでは無いはず)。
「僕の前に座って」
「え、こ、こう?」
乱歩くんに跪くように目の前で座ってみると、正解だったらしく気分を良くした乱歩くんが、愉快そうな顔をして頭を撫でてくる。それが気持ちよくて、つい擦り寄ってしまう。今まで垂れ下がっていた耳が、ぴんと立っているのが分かった。
「機嫌がいいのは良い事だけど、耳が立ってたら撫でづらいね」
「あ、…ごめん、」
ぺたり、と無意識に耳を垂れ下げてしまう。
「耳は立ったままでいいよ。可愛いし」
優しく頭を撫でられると、機嫌が良くなっていくのと連動して耳が立っていくのを感じた。
可愛い、と囁かれたのに照れてしまって、顔が熱くなるのに気付く。
「…ごめん、そのままちょっと待ってて」
コンコンコン、と扉が叩かれる音がして、扉の方に行ってしまう。
乱歩くんは今僕のだったのに。ぎりぎり、と歯ぎしりをついしてしまう。乱歩くんの楽しそうな顔が、ちらりと見えてしまった。いつもは余り表情が動かないのに、眉を顰めて自分が不機嫌な表情になっていくのを感じた。いつもよりわがままになっている自分に少し違和感を感じる。
それから一分程して、こちらに戻ってくる。
「……不機嫌だね。…いや、僕の所為だ、僕の方に来てくれる、?」
不安げな表情を浮かべる乱歩くんに対して、ぎり、と歯ぎしりをしてふいとそっぽを向いてしまう。耳が垂れ下がるのを感じた。
「…ごめんね、こっちを向いてくれる?」
明らかに気持ちが沈んだ声を出す乱歩くんに、なんだか申し訳なくて、乱歩くんの方を見ると、愛しいものを見る目でこちらを見ていた。
「つかまえた」
乱歩くんはずるい。乱歩くんが細くて僕が抵抗しきれないのを分かっていて、強引な事をしてくる。それでも、乱歩くんがどんなに強引な事をしたって僕は抵抗できない。
今だってそうだ。両手を掴まれて、乱歩くんが僕の膝に乗っている。鼻が着いてしまいそうなほど、近い距離に居る。他の人なら、殴ってでも逃げる。だのに、乱歩くんだけは特別だ。充足した顔を浮かべる乱歩くんには、いや、乱歩くんそのものに、僕は抗うことができない。
ふい、と照れてそっぽを向くと、それさえ愛おしいとでも言いたげなキスが頬に落とされる。
「ふふっ、あははっ」
乱歩くんが心底幸せそうな表情と声色で笑う。
ゾクゾクとしたような歪んだ笑みでこちらを見て、乱歩くんが僕に覆い被さる。
「僕は、幸せ者だ」
歪んだ笑み。それである筈なのに、なぜかその笑みからは、寂しさを感じる。
離さない、とでも言いたげに僕の手を強く掴んでいる。
「……僕は、乱歩くんから離れないよ」
僕は考えるのが苦手だ。だから、乱歩くんみたいに、一目見ただけでどういう人生を送ってきたのかとかは全く分からない。けど、乱歩くんはきっと、辛い人生を送ってきたんだな、と強気に見えて、奥底に怯えをみせるどこか泣きそうな瞳から、少しだけ、わかる。
乱歩くんは過去を語らない。だから、僕が察して上げないといけない。乱歩くんがどんなに辛いのか、どんなに苦しんだか、察してあげないと。考えるのが苦手な僕だって、乱歩くんがこの世のだれよりも子供らしい事は分かった。甘えたくて、甘えられなくて。そんな辛さは、僕には分からないけど、じいちゃんが居なくなったら僕は悲しい。多分乱歩くんは、それだ。
「……本当にマッシュは、優しいね」
「優しいのは」
あなたの方だ、と言おうとしたのを、キスで止められる。僕は優しくなんかない、と震えた声で呟いた乱歩くんを慰める方法を、僕は知らない。
「兎になってるのに、カッコつけられると思ったの?」
目を開き、直ぐに目を伏せた乱歩くんの心情を考えようとすると、撫でられる。
「兎は寂しいと死んじゃうんだって」
「僕から、離れられないね」
途切れ途切れに紡がれる言葉を目も合わせられずに聴いていると、あまりに情けない乱歩くんの声が聞こえる。
「……こっち、みてよ」
やっぱり、この人は子供だ。普通、兎になっている自分が言うべき台詞みたいだと思いながら、乱歩くんを宥めるように撫でる。
「見てますよ、乱歩くん以外、僕は見る気は無いです」
みんなに歪んでると言われたこんな愛でも、互いを満たせるなら。
僕は乱歩くん以外要らないと、断言する事が出来る。
あとがき
乱は両親が既に死んでます。あとSです
マシュはMの才能が開花しつつある。
乱(→→→→)→→←(←←←←←)マシュ
↑くらいの感覚で書いてます
普段は普通の先輩後輩やってる(乱がちょっと距離近い)けど二人きりの時はドロッドロの愛情持って接してる
2人ともお互いが居なくても生きていけると普段なら言えるけど実際はもうお互いじゃないと生きていけないくらい依存してる
そんな感じの世界感でかきました
コメント
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初コメとフォロー失礼します!めっちゃ尊いです!!!