京子___京子。と自分の名前を呼ぶ声が遠くから聞こえ、はっと目覚めるといつもの見慣れている大学の講義室だった
『………え。』
さっきまでバス停にいたはずなのに、何が起こっているのか全く意味不明だった。
『京子、珍しいね。あんたが講義中に寝るなんて。しかも二列目でさ。体調悪いのかなって、教授も心配してたよ?』
『え、うそ、私…寝てた…の?』
『そうそう。結構呼吸荒めだったよ?本当、大丈夫?』
今までのは夢だったということに私は酷く安堵した。
『………うん。大丈夫。ちょっと疲れてただけだから。』
『そう。次空きコマだからどっかで休憩しようか。カフェテリア行こう?』
『うん、そうだね。____いっ………』
椅子から立ち上がった瞬間膝に激痛が走ると同時に戦慄が走る。まるでアスファルトに激しく擦りつけられたみたいなボロボロになった自分の膝を見て一瞬にして顔が真っ青になる
『…………夢じゃ……なかった…の…。』
『京子!ちょっと!!本当に大丈夫なのあんた!』
『ねえ。有紗…。どうしよう………夢じゃ…なかった………。』
『夢???てかあんた膝どうしたの?!なんでこんなにボロボロなのさ………ちょっと医務室いこ!』
私の肩を抱えようとする有紗の手をふりはらう。膝の怪我などどうでも良かったのだ。
そんなことより彼のことが心配だった。一目散に自分の鞄からスマホを出し、彼に関することを検索するが、スマホの画面は激しく割れているせいで、いくら画面を触っても反応しない。
唯一観れるのは待ち受け画面にある時間くらいだ。
『もう、最悪。』
『あー…京子のバキフォンになったの?しかもこれ高いのに。保証は?』
『………入ってない。』
保証に入っていないことよりも、一刻も早く彼に関する情報を取り入れたいのにすぐに彼のことを検索できないことが一番最悪だ。
『やらかしたね。どうする?今日修理出す?』
『うん……。それよりも有紗、スマホ貸してくれない?』
『いいけど……誰かに電話?』
『違う。裕貴君のことを検索したい』
『あんた、どれだけ長谷部好きなんだよ』
『お願い貸して…。』
有紗から手渡された彼女のスマホで一目散に“長谷部裕貴 最新”と検索する。だが検索にヒットするのは上から長谷部裕貴オフィシャルサイト、オフィシャルファンクラブ。長谷部裕貴とは何者なのか?彼女は?結婚している?というありきたりな検索結果しか出なかった。
『ごめん有紗。スマホ貸してくれてありがとう。』
『それはいいんだけど、あんた顔色ますます悪くなってない?唇紫になってるじゃん。絶対体調不良じゃん。休みな。』
正直に言うと気分があまりよくない。彼がバスに乗ってしまったこと、それを防げなかったこと、自分一人があのバスに乗らなかったこと。罪悪感でいっぱいいっぱいだ。
『ごめん有紗…私、今日帰る。午後のゼミ休むわ。』
『うん。先生にちゃんと伝えとくね。』
『じゃ。明日の2限に。』