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そのコピー機、まだ使う?

「は、はい。すみません」

僕がまとめてやっておくから、君は自分の仕事に戻っていいよ。

「いいんですか?」

忙しいのに上司に押し付けられたんだろ? 悪い人じゃないんだけど、空気読めないからなぁ。

「ありがとうございます!」

いいっていいって。

「あ、あの」

ん?

「今週の日曜、空いてますか?」

うん、ヒマだけど。

「映画のチケットが二枚余ってるので、よかったらいかがですか?」

え? いいの?

「は、はい。いつもお世話になってるお礼なので」

本当に気にしなくていいのに。まあ、せっかくだからもらっておこうかな。

「あ、ありがとうございますっ」

? なんでまたお礼?

「だ、だって――」

その映画、ちょうど眞美《まみ》が観たがってたんだよね。

「え?」

渡りに船だよ。ありがとね。

「……お役に立ててよかったです」



昇進おめでとう。

「あ、ありがとうございます! これも眞美センパイのおかげです!」

私は何もしてないわよ。

「入社してからずっと面倒みてくれたじゃないですか。指導担当が外れてからも、何かと助けてもらいましたし」

こっちもいろいろ手伝ってもらってるから、おあいこよ。

「これまでのお礼に何かプレゼントしたいんですけど、欲しいものとかありませんか?」

そんなのいいってば。

「まあまあ、そんなことに言わずに。なんなら指輪とかでも――」

むしろ祝われるのは、あなたのほうでしょう? はい、これ。

「何ですか?」

昇進祝いよ。よかったら受け取って。

「え、え?」

気に入ってもらえるといいのだけれど。

「か、感激です! 一生の宝にします!」

おおげさねえ。

「そんなことないですよ! 今日を記念日にして国民の休日にしたいくらいです!」

そこまで喜んでもらえたら、雅志《まさし》も喜ぶわ。

「へ?」

もともとは、彼の提案だったのよ。

「は、はあ……」

あ、ちゃんと一緒に選んだし、お金も出し合ったから、二人からのお祝いってことにしてね。

「……神棚にでも飾っておきます」



先輩、お久しぶりです。

「しばらく見ないうちに、あなたも立派になったわね」

先輩がそちらの会社に移って以来ですから、もう三年になりますか。

「いつも私の後ろをついてきてた可愛い後輩クンが、まさか大口クライアントの担当者として私の前に現れるなんてね」

こちらのほうこそ、先輩のおかげで優良取引先をご紹介いただけて助かりました。

「お世辞まで上手くなっちゃって」

お世辞なんてとんでもない。このご恩はいつか必ず。

「なんならいますぐ返してくれたっていいのよ。どう? この打ち合わせが終わったら食事でも」

そう思いまして、一席ご用意しております。

「あら、本当に気が利くようになったわね。いえ、昔からそうだったかしら」

そんなことありませんよ。これもご指導の賜物です。

「じゃあ、早いところ終わらせて、今日はじっくりと飲み明かしましょう」

はい。眞美も先輩に会えるのを楽しみにしていると思いますので。

「え?」

今日は休みなので、先に店に行ってもらってるんです。

「そ、そうなの?」

そのレストラン、先週彼女と偶然見つけまして。どの料理も美味しいので、きっと先輩も驚くと思いますよ。

「……それは楽しみね」



え? 社長も同行してくださるんですか?

「今回の出張先の相手とは、今後さらに関係を深めていく必要があるからね」

そんな大事な仕事を任せていただけて光栄です。

「まあ、君のことだから全く心配していないよ。気軽に旅行気分で行こうじゃないか」

実は、そのつもりでした。

「はっはっは。肝の座ったお嬢さんだ」

社長も大船に乗ったつもりでいてくださいね。

「ああ、それとなんだが」

どうしました?

「宿泊予定のホテルが予約がいっぱいでね。一室しか取れなかったのだよ」

まあ、人気なんですね。

「ああ。だから申し訳ないのだが――」

それならちょうど良かったです。

「ん?」

仕事を終えたら、追加で何泊かしてゆっくり観光しよう思いまして、前々から彼と休みの日程を合わせていたんですよ。

「そ、そうなのかい?」

ええ。ちょうど私たちの実家ともそれほど離れていませんから、もとより宿泊については問題ありませんでしたので。

「そ、そいつはよかった」

気持ちよく観光を楽しむためにも、このプレゼン、必ず成功させますからね。

「は、ははは、頼もしい限りだ……」


◇◇◇


「あれ? 喫煙室にこんなに人がいるなんて珍しいっすね」

「あの二人に気づかれないように打ち合わせするには、ここしかないからな」

「あの二人?」

「営業部と槇《まき》君と、企画部の真下《ました》さんよ。この会社の二大美男美女と言えば、知らない人はいないでしょ」

「たしか、その二人って結婚してるんすよね? 夫婦別姓ってヤツですか?」

「いいや、夫婦じゃないぞ」

「え? じゃあ、ただ付き合ってるだけなんすね」

「――いいえ、付き合ってすらいないわ」

「は?」

「二人に何度尋ねても、『ただの幼馴染ですよ』としか返ってこないからな」

「え、マジっすか?」

「マジよ」

「やっほーいっ、じゃあ遠慮なく口説けるじゃないっすか」

「お前、彼女いるだろうが」

「それはそれ。あんな美人がフリーなら口説かないのが失礼ってもんでしょ」

「「「……はぁ」」」

「ん? どうしたんすか?」

「悪いことは言わないから、やめておけ」

「どうしてっすか?」

「あなたみたいに、二人が付き合ってないと知った人が、山ほど玉砕していくのをこれまでさんざん見てるからよ」

「みんなフラれてるんすか? もしかして、それぞれ別に彼氏彼女がいるとか?」

「いや。それどころか、二人とも交際経験すらないと言っていたな」

「え、マジで?」

「マジね。まあ、あの二人をずっと見ていれば、他の人が入る余地なんてないのがわかるんだけど」

「付き合ってないんすよね?」

「一緒に住んではいるみたいだけどな」

「は?」

「しかも、学生時代からだそうよ。ねえ、社長?」

「ああ。履歴書にもそう書いてあったからな」

「理由とか聞いたんすか?」

「『同じ大学なのに別々の家に住むのは、家賃がもったいない』だと」

「結局、会社も同じになったから引き続き同棲が続いてる、と」

「なんで二人とも採っちゃったんすか?」

「だって、二人とも超優秀なんだもん」

「もんとか、正直キモいっす」

「おい。私、社長」

「真下さんと出張先で一緒のホテルに泊まろうとした人は、うちの会社にいませーん」

「え?」

「あのなあ、お前たちはそれも『作戦』のひとつだって知ってるだろうが」

「作戦?」

「ああ。この場もその作戦会議ってわけだ」

「なんでまたそんなことを?」

「二人がいつまでもああなものだから、新入社員や転職者がやってくるたびにもれなく散っていってね」

「中には心までポッキリ折れちまうやつもいてな。会社に来なくなるやつや他の会社に逃げちまうやつも少なくないんだ」

「悲惨っすね」

「会社的にプラスかマイナスで言うと、トータルで考えれば断然プラスだから、あの二人をどうこうすることもできなくてなぁ。なんとかしようと色々試みてはいるのだがねぇ」

「それが『作戦』ってやつっすか?」

「ウチの会社って、社内結婚してる人がすごく多いから、事情をよく知ってるパートナーの了承を得たうえで、あの二人へ積極的にアプローチを仕掛けてるのよ」

「アプローチ?」

「お互いが相手に対してもっと危機感を持ってくれれば、この状況も少しは変わるんじゃないかと思ってな。社長の発案だけど」

「しっかり予算もついてるわよ。社長のポケットマネーだけど」

「この前の出張も、無理やりついて行ったから余分に部屋を確保しておかなければならなかったしな。あとでカミさんにこっぴどく叱られたよ」

「みなさん、ノリノリっすね」

「お前も、ウチの社員と結婚したら仲間に入れてやってもいいけど、くれぐれも本気になるなよ。砕け散るぞ」

「既婚者じゃないとダメなんすか?」

「ただの彼氏彼女持ちだと、万が一があるからなぁ」

「それに、作戦だとわかってても、あの天然二人に無自覚に惚気躱されると、なかなか心にクるものがあるのよ」

「惚気躱されるって、スゴい表現っすね」

「まさにそんな感じだからな。あれは家庭を持ってる人間じゃないと癒やせんぞ」

「「「……はぁ」」」

「なんか大変っすね」


「「「とっとと付き合え! ――っていうか、早く結婚しろ!」」」

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