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こちらはirxsのnmmn作品(青桃)となります
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ワードパレットでリクエストいただいた3つの言葉(サブタイトルになってます)を本文中に使用してのお話になります
ナイトティー「ブランデー 瞼が重く 規則正しい寝息」
「まろ最近寝れてる?」
ふとないこがそんなことを口にした。
ないこハウスで、持ち帰った仕事を打ち合わせ交えて片付けた後のことだった。
何で、と聞き返すと、目の下のクマがすごいと苦笑いを浮かべられる。
「んー熟睡はできてないかも…疲れとるから眠いはずなんやけどなぁ」
ふわぁと欠伸をひとつ漏らし、涙を噛み殺しながらそう応じた。
それを聞いたないこは「ふーん」と呟いてから、そうだ、と楽しそうな笑みを浮かべてソファから立ち上がる。
「ちょっと待ってて」
細い足で大股に俺の前を横切ると、そのままキッチンの方へ消えて行った。
リビングに残され、ソファの背もたれに身を沈める。
ないこの家のソファはうちのより高級感があって、体を委ねるとすぐに瞼が重くなりそうだった。
それなのに快眠できないのだから、最近の自分の体は本当に厄介だ。
このままではそのうち体力も限界を迎えそうだ。
「お待たせー」
目を閉じていた俺の上に、ないこの声が揺さぶるように降ってきた。
ゆっくりと両の目を開くと、マグカップを手にしたないこの姿。
差し出されるままに受け取ると、立ち上る湯気が視界を微かに曇らせる。
「何これ」
「ナイトティー。寝る前に紅茶飲むと体あったまってよく眠れるらしいよ」
「寝る前の紅茶ってカフェインで寝られへんようになるんちゃうかったっけ」
「まろそんな繊細じゃないじゃん。それにこれノンカフェだから」
「へぇ」
受け取ったマグカップの側面を、両手で包み込む。
温かさがじんわりと伝わってきて、そのまま一口流し込んだ。
途端に芳醇な香りが鼻を抜けていく。
何となく飲み慣れた味ではない気がしたけれど、きっとないこのことだ。
どこかから良質な茶葉でも買ってるんだろう。
「あとあれじゃない? いつもシャワーで終わらせてるんじゃない? ちゃんと湯舟に浸からないと疲れとれんて」
言いながらないこは、奥の部屋から持ってきた物をぽいぽいとこちらに向けて放る。
泊まっていけということか。
ないこが前に着ていたルームウェア、それに客用のバスタオルと、準備がいい。
「風呂場に入浴剤あるから好きなの使っていーよ」
めっちゃ甲斐甲斐しく世話してくれるやん。
言いかけた言葉は飲みこんで、代わりに俺は紅茶をぐいと呷った。
「俺もうここに住もうかな」
「何でだよ。こんなサービス今日だけだっつーの」
笑いながら自分もナイトティーを飲み干して、ないこは楽しそうに目を細めた。
ないこの家のベッドは広い。
男2人で隣り合って寝ても十分余裕があるくらいだ。
今までもたまに泊まる時にはそうしていたように、並んで眠りにつく。
先に風呂に入った俺は、ないこを待っている間に眠ってしまった。これまでの寝つきの悪さが嘘のように。
翌朝、深い眠りについたせいかスマホのアラームよりも先に、すっきりとした気分で目が覚めた。
今日は休みだと言うのに平日の出勤時間に合わせて起きてしまう辺り、社畜根性が体に沁みわたっているのを実感する。
ふと隣に目線をやると、ないこはこちらに向いて体を横向きにして眠っていた。
すぅすぅと規則正しい寝息を立てていて、長い睫毛が時々震えるように揺れる。
こんな寝顔も、いつもなら見られなかったかもしれない。
ナイトティーのおかげか…はたまた久しぶりにゆっくり入った風呂のおかげか…どちらかは分からなかった。
だけど熟睡してすっきりと目覚めなければ、こんな風にじんわりと染み渡るような幸せは得られなかったかもしれない。
それからだった。
起きたないこに「寝れた?」と聞かれて肯定して返すと、泊まりに行くたびにあいつは寝る前に紅茶を淹れてくれるようになった。
だけど何回目だっただろう。味が急に変わった気がした。
うまいことに変わりはないけれど、香りが全然違う気がする。
「ないこ、これいつものと何か違う?」
何となく尋ねた俺に、あいつは「…ばれたか」と呟きながら小さく舌を出した。
「今日ちょっと失敗したんだよね。これ」
言いながらないこが手にして見せたのは、キッチンに置いてあった瓶。
前にどこぞのお偉いさんからもらったと言っていた、割と高そうなブランデーだった。
「え、ブランデー入っとったん?」
尋ね返しながら、目を丸くして手にした紅茶をもう一度一口すする。
…確かに、言われてみれば今日は酒の独特な香りが強い気がする。
「今日は手が滑って、ちょっと入れすぎた」
「えーむしろこっちの方が好みやけど」
「出たよアル中」
あはは、と楽しそうにないこが笑う。
…なるほど、それでないこが淹れてくれるこれを飲んだ日はいつもよりよく眠れる気がするのか。
口に含んだそれを、より深く味わうようにゆっくりと飲み込んだ。
次にその機会が訪れたときは、自分でブランデーを入れたいと申し出た。
「えぇー」と眉を寄せたないこは、それでも仕方ないなぁと紅茶を淹れたカップとブランデーの瓶をこちらに差し出してくる。
恐らく最初はそっと数滴垂らしているだけだったんだろう。
慎重に入れていただろうないこの姿を思い浮かべながらも、俺はカップの中にどぷりと容赦なくブランデーを注いだ。
「ちょ、まろ!」
慌ててないこが止めに来るのも織り込み済みだ。
「入れすぎ入れすぎ! それじゃブランデー入れた紅茶じゃなくて、紅茶が入ったブランデーになってんじゃん」
「えーこっちの方がうまそうやん」
ひゃはは、と笑いながら、きゅぽんと瓶に蓋をする。
ティースプーンで紅茶とブランデーを混ぜ合わせると、確かにいつもより強いアルコールの香りが脳まで突き抜けそうだった。
「うま」と満足そうに笑んであっという間に飲み干してしまった俺に、ないこは呆れたように苦笑を浮かべていた。
「そういう飲み方するもんじゃないんだよなぁ」なんて、小さく文句のような言葉を口にしている。
おしゃれなないこはどこまでも形式と見た目を重んじるらしい。
うまくて眠れるならそれが一番だと思う俺とは真逆だ。
「こういうのって、ちゃんとセーブしないとどんどん量が増えていきそうじゃん」
紅茶を淹れるために使った器具類をシンクに置きながら、ないこはそう言って首を竦める。
「最初はきちんと量計って適量にしててもさ。段々慣れと面倒くささとで目分量になっていって」
飲み終わったカップを俺の手の中から引き取って、それも流しに置いた。
「そんで同じ量じゃ満足できなくなって、どんどん増えていくんだよ。最終的にはお前ブランデーだけ飲んでそうだわ」
苦笑いをしてそう言いながらも、ないこの口調にこちらを責める響きはない。
「中毒っぽくなるよな、こういうのって」
そんな言葉を何気なく付け足すものだから、俺はないこの隣でシンクの縁に手を置いたまま思わず呟いてしまっていた。
「…ないこみたいやん」
「……は?」
囁き程度の俺の声が聞こえたのか聞き逃したのか、ないこは小さく目を見開いてこちらを振り返る。
ピンク色の瞳が俺の言葉の真意を探るようにまじまじと見つめてきた。
一緒にいればいるほど、「もっと」と欲しくなる。
毒みたいにじわりじわりと自分の中を蝕んでいき、もうお前がいない世界なんて考えられないほど心の奥まで占領していく。
そんなことを考えながら、気づいたときには手を伸ばしていた。
ずっと…ずっと言わずにいようと決めていた自分の想い。
それを胸の内に留めておくこともできなくなったように、右手でないこの肩を掴み、左手でその頬に触れた。
「…ちょ、ちょっと待ってまろ! どうしたんだよ」
勢いよく飲んだ、ブランデー多めのナイトティー。
こんな一瞬でアルコールが身体中を回り始めたのか、目の奥が熱くなってきた気がする。
それは酒に酔ったせいか、抑え込もうとしてきた目の前の男への想いのせいかは自分でも定かではなかった。
「ずっと好きやったって言うたら、信じる?」
ずるい聞き方をしたのは、ないこに逃げる余地を与えるためだった。
酔っ払いのたわごとだと笑って切り捨てられたら、フラれるとしてもまだ互いに救いはある。
「……」
だけど、答えないなら逃がさない。
目を瞠って黙りこんでしまったないこを前にそんなことを思う。
逃げるなら追わないけれど、逃げもしないならこの腕に閉じ込めてしまいたい。
「…っ」
頬に触れた手で、ぐいとこちらに引き寄せる。
あともう少しで唇が触れ合うというところまできたとき、そこでようやくないこが硬直状態から立ち直ったかのように動いた。
慌てて俺の唇を両手で抑えて、キスを防ぐ。
「…いや、ごめん無理」
細い手で俺の口元を覆ったまま、ないこはぽつりとそんな言葉を漏らした。
…まぁ、そらそうやろうな。そう思ったけれど、ないこが次の言葉を継ぐ方が早かった。
「酔った勢いで…とか、絶対後で後悔する」
一度言葉を切り、小さく吐息を漏らす。
けれどその後、ぐっと顔を上げて俺の目をまっすぐに見つめ返した。
「『お前』が」
「…!」
続いた言葉に思わず絶句した俺を見て、ないこはゆるりと俺の口から手を離しながら微かに笑みを零す。
整った顔が浮かべるそんな笑みを見据えると、意図せずとも「…はぁ」と大きなため息が漏れた。
ないこの肩を掴んでいた手を離し、代わりにそこに額をこつんと乗せる。
「…明日は絶対ブランデー飲まん」
「明日もうち来る気なの、お前」
決意表明するように呟いた俺の言葉に、ないこは心の底から楽しそうに笑う。
毒づくように返したかと思ったけれど、そんな軽口を叩いた後に「俺も好きだよ」なんて、小さく囁いた声が耳に届いた気がした。
コメント
4件
いひひ。🍣ちゃんは「酔った勢い」っていうことが嫌なんですね。w🍸くんが好きでイチャイチャすること自体は嫌いじゃなくてむしろしたそうにしてるのが可愛すぎる💕
ナイトティーなんてものがあるんですね! 大人な青桃にぴったりです✨ブランデーをたくさんいれて飲む青さんもカッコいいななんておもっちゃいました。 忙しい中投稿ありがとうございます🙇勉強のやる気が起きました!
モーニングティーならのんだことあるけど…ナイトティーは無いなぁ…ブランデーってお酒なんだって初めて知りました!いい勉強になりました(?)ありがとうございます!これからも更新頑張ってください!