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「どうするって、そんなの決まっているわ。アメリカへは行かないし、水島君の気持ちにも応えられない。私が断ることでTENGAへ不利益を被らせてしまうのであれば、一生かけて彼に償うわ。伴侶として支えます」
「それ、ちゃんとわかってる? マルヨーの未来もかかっていることに」
「…水島君。あなた、そんなこと言う人だった? 権力を盾に弱者に剣を向けるようなこと…言わなかったはずよ」
「アメリカに行けば考えも変わるよ。損得勘定も大切だってこと」
水島君は真剣な顔を向けてくる。決して冗談半分でこんなことを言いだしたわけではなさそうだ。
「…私は、わからなくていいよ。同じことしかできない古い人間だもの。折り紙(おみせ)だって大切だし、父もいるし、なにせよ睦月君もいる。彼と離れるなんてできない」
なんだかとても残念な気持ちになった。水島君のこと、大事な友達だと思っていたのに…。大企業に入るとこんなふうに人は変わってしまうのだと思ったら悲しくなった。でも、改めてその中でも変わらない睦月君が好きだと思った。
「今回、プレゼンがだめだったから私の方をなんとかしたいと思ったの?」
「想像に任せるよ」
ずるい言い方をされてしまった。でも、きっとプレゼンがうまくいかなかったから、水島君は私に打診をしに来たのだろう。
この企画がうまくいかなったらマルヨーさんは淘汰されてしまうのを知っているから。私に最後のチャンスを委ねたのだ。
「水島君、ごめんね。アメリカにはついて行けない。今回プレゼンがうまくいかなかったのは、企画じゃなくて商品が悪かったのよ。私のせいだわ」
「どうしてそう思うの?」
「睦月君が誰よりも努力をして、今回のプレゼンに臨んだことを知っているからよ。なにかのきっかけでアイディアが閃いたと、企画が固まってからはものすごく頑張っていたの。それなのに選ばれなかったのは、私の力不足だったということよ。味が悪かったのだと思う」
「……ありがとう、貴重なことを教えてくれて」
彼は真剣そのものでなにやら逡巡する様子を見せたが、やがて残っているご飯をパクパクと食べ、やっぱりうまい、とひとこと呟いて、代金を置いて立ち上がった。
「佑里香さん、いろいろ失礼なことを言ってごめんね。でも、俺の気持ちは嘘じゃないから」
「気持ちは嬉しいけれど、応えられないよ」
「だろうね。俺は行動するのが遅すぎた。もっと早く、君に好きだと伝えておけばよかった」
ごちそうさま、と言い残して彼は帰っていった。
私がアメリカへ行けば、マルヨーさんは潰れなくてすむの?
だとしたら……この打診は受け入れるべきだった?
感情論で結論付けてしまったことを、今更ながら「これでよかったのか」と後悔した。睦月君とは離れたくないけれど、スーパーマルヨーで働くすべての方の人生が私の『Yes』にかかっているのだと思うと、怖くなった。
コメント
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読み終えました……。佑里香さんの「睦月君と離れるなんてできない」って言葉、重くて深くて、胸がぎゅっとなりました。水島君の気持ちも分かるけど、権力で揺さぶろうとする姿に彼女が抱いた違和感や悲しさ、すごく伝わってきました。最後の「これでよかったのか」の後悔、読んでる私も一緒に揺れました。良いお話でした。