撮影スタジオの隅。次のカット待ちの間、たかしくんはスタッフと談笑していた。
笑った拍子に目元が柔らかくなる。
その様子を、離れた場所からじっと見ている視線があった。
「しゅーくん。」
スタッフが離れた瞬間、
影のようにたかしくんの横へすっと入り込む。
『……たかしくん、楽しそうだったね』
声は静かなのに、機嫌が悪いのがすぐ分かる。
「え?ただ話してただけだよ?」
『“ただ”にしては、いい顔してた』
しゅーくんはたかしくんの手首を優しく掴んで、
人目の少ない照明裏へ連れ込むように歩かせる。
「しゅ、しゅーくん?なんでこんなところで…」
『ここなら、他のやつに聞かれない』
たかしくんを壁際に立たせ、
しゅーくんが真正面に立った。
距離が数十センチ。逃げ道はない。
『たかしくんさ』
少ししゃがんで目線を合わせると、
しゅーくんの目がいつもより強い。
『俺の前ではあんな笑い方しないくせに…
なんで他のやつにはあんな優しい顔するの?』
「いや、そんなつもりじゃ――」
『俺には見せてくれないのに』
拗ねてるような、怒ってるような、
複雑に混ざった声。
たかしくんが戸惑うと、
しゅーくんは一歩近づいて、たかしくんの肩を片手で押さえる。
『……俺のこと、もっと意識してくれないと困る』
低く囁く声に、たかしくんは息をのむ。
『たかしくんが誰と笑うかなんて、
気にしないと思ってた?』
「しゅーくん…そんな独占欲あったの?」
『“そんな”じゃない。前からだよ』
少しだけ強い表情のまま、
しゅーくんはたかしくんの頬に指を添える。
『笑うなら、俺のために笑ってよ』
耳の奥まで熱くなる。
それを見て、しゅーくんの目がようやく和らいだ。
『……ほら。そういう顔、俺だけが見たいの』
たかしくんは言葉を返せず、
ただしゅーくんの視線に捕まったまま動けなかった。
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