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「うぉ!動き出した!」
船のエンジンが動き出した事によって優心のテンションはますます上がっていく。船は補助船に押されやがて横須賀港を出る。港を出た途端、船の速度は上がり横須賀から離れていく。私は遠ざかっていく港近くの街並みを眺めていた。船が横須賀から遠ざかった辺りで、1人の自衛官がメガホンを使って周囲に話す。
「皆さん、改めまして護衛艦もがみの体験航海にご参加いただき誠にありがとうございます。本艦はこれより、青々島まで航行し、その後横須賀に帰投するという流れになります。飲食につきましてはパンフレットの注意事項に記入されておりますので予めご確認ください。また、写真撮影でのSNSへの投稿はご遠慮ください。何か問題や質問等がございましたら甲板近くに待機している自衛官にお声がけください。」
自衛官の説明が終わると、甲板にいた人達は自由に見学しに動き出す。
「姉ちゃん!見て!主砲だよ!」
優心は私の手を引いて甲板の中心にある大砲の元へ私を連れていく。
「思ったより小さいのね…」
私は引くような表情で大砲を見つめる。私は大砲と言えば砲身が3つありとても大きい物だとイメージしていたがこの主砲は砲身が1つしかなく、なおかつ小さいように思える。
「ねぇ優心…この大砲ちっちゃくない?こんなので大丈夫なの…? 」
「姉ちゃん分かってないな〜。もしかして大きいくて砲身が3つある大砲をイメージしてる?」
「え…大砲って大きくて砲身が3つあるんじゃないの?」
優心は私を小馬鹿にするような笑みで私を見つめる。
「大きい大砲なんて、小回り効かないし展開も遅いから素早さが必要な現代戦で大きな兵装は不利なんだよ?」
優心の自信に溢れた言い方と、私を小馬鹿にしている笑みが私を苛立たせる。
「はいはい…優心は軍隊の事本当に詳しいね〜…」
私は適当に優心を褒め、この話を終わらせようとする。そのはずが、優心は少し怒ったような表情で私に怒鳴る。
「姉ちゃん…自衛隊は軍隊じゃないよ!」
「…軍隊じゃなかったらなんなのよ…こんな軍艦持ってて戦車や銃を持ってたら軍隊って言っていいでしょ…」
「それでも…自衛隊は軍隊じゃないから!」
優心は私の反発に負ける事なく言い返してくる。
「そんなの言葉の違いでしょ?実際、軍隊と同じ武器を持ってんじゃん。」
「じゃあ、姉ちゃんは定規とものさしを同じ物として見るの!」
「何それ…そもそも定規とものさしは別物じゃん。」
優心の怒った表情はますます酷くなっていく。その時、私と優心の肩に手が置かれる。私が横を見るとそこにはお母さんが立っていた。
「優心、結衣…こんなところで喧嘩しないの…」
「…ごめんなさい…」
私と優心はお母さんに連れられ大砲から離れていく。私と優心の間には少しの亀裂が入り、お互いに無視し合うような態度を取っていた。私はお母さんに声をかける。
「お母さん…ちょっと私、トイレ行ってくる。」
「分かったよ。ここで待ってるから。」
私はお母さんに向かって頷き、甲板から艦内に入る。私はトイレを済ませ、艦内の廊下を歩いていた。
「ふン…?」
私が壁を見ると、そこには海上自衛隊の訓練の様子や災害派遣時の写真が掲示されていた。私は写真を見つめる。災害派遣の写真の中には、東日本大震災での支援活動の写真や熊本地震での救助活動をする海上自衛官たちの様子の写真があった。写真を見ているうちに、私の右目から1滴の涙が流れてくる。
「あれ………涙が……」
その時なぜ涙が出てきたのか、私には分からなかった。しかし、悲しくて涙が出たわけではない。どちらかと言うと…こんな人達が日本を守ってくれている事が嬉しくて、誇らしくて…そんな気持ちで涙が出たのだと思った。さっきまで、優心に向かって自衛隊をバカにする発言をした自分がいた事に私は自分への怒りがこみ上げてくる。私は1滴の涙を拭き、再び廊下を歩き出す。