テラーノベル
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翌日から、魔王城の「大規模改装作業」が始まった。要塞化の指揮を執るのはもちろん俺だ。ハンスから買い叩いた施工用ドールと高周波カッターを投入し、歴代魔王の趣味の悪さが光る金箔の柱や、無駄に豪華な絨毯を容赦なく引っぺがしていく。
「……ちょっとクロード! 待ちなさいよッ!!」
現場監督よろしくヘルメットを被り、図面を広げていた俺の元へ、セリスが金切り声を上げて飛んできた。
「何よこの『第14通路・氷結トラップ自動作動区域』って設計図は! あたしの氷結魔法をバッテリー代わりに常時接続して自動迎撃システムを動かすとか、勝手に書いてあるじゃない! 人使いが荒すぎるでしょ!」
「文句を言うな。お前が書類仕事でポカをやらかした時の罰ゲームだ。それに、お前の高出力な氷結魔力なら、自動タレット三基分の冷却システムを無人運用できる。極めて合理的だろ」
「~っ! 屁理屈ばっかり! あたしはバッテリーじゃないわよ!」
憤慨するセリスの横で、紫電を全身にまとったエレナが、嬉々として壁の内部に極太の導線を埋め込んでいた。
「アタシは全然アリだけどね! ほらクロード、第3防衛区画の電磁障壁用コイル、アタシの雷撃で完璧に充電しておいたわよ! これなら大軍隊が突っ込んできても一瞬で丸焦げね!」
「助かる、エレナ。お前は物分りが良くて助かるよ。……ただ、過充電で城のブレーカーを飛ばすなよ」
「任せなさいって! アタシの愛の力で電圧調整なんてバッチリよ!」
「愛は関係ない、抵抗値を守れ」
俺が冷たく突っ込むと、背後から猛烈な焦げ臭い匂いと甘い香りが漂ってきた。
「クロードーっ! 謁見の間の大理石の床、私の『爆縮・瞬間整地魔法』で綺麗に削っておいたわよーっ! ついでに地雷を埋める用の穴も爆破で五十個掘っておいたから!」
両手を黒く焦がしたシャーロットが、爆発的な笑顔で報告してくる。
「……おいシャーロット、頼んだのは『丁寧な削り作業』だ。床に五十個も大穴を開けたら、地雷を仕掛ける前に俺たちが落とし穴にハマるだろうが」
「大丈夫よ! 私の愛の力で穴の位置は全部記憶してるから!」
「だから物理的な安全性を優先しろと言っている」
頭を抱えた俺の横に、苦めのコーヒーが入ったタンブラーを持ったシエルが、すっと寄り添ってきた。
「……クロード、休憩。コーヒー淹れた」
「……助かる、シエル」
俺はタンブラーを受け取り、一口すすって不快な溜息を吐き出した。
無駄な装飾が消え、無骨な対魔導装甲板と高圧電線、そして暗殺用トラップが所狭しと張り巡らされていく我が城。かつての眩いばかりの「荘厳華麗な魔王城」は、ものの数日で冷徹な軍事要塞——『魔王城要塞都市・クロード・要塞』へと姿を変えつつあった。
「ふふ、勇者陣営や人間界の連中が見たら卒倒するでしょうね。魔王城が『巨大な暗殺・防衛兵器』に変貌してるんだから」
隠密用の光学迷彩配線のチェックを終えたミサキが、物陰からぬっと顔を出してクスクスと笑う。
「見栄えなんてどうでもいい。俺が欲しいのは、誰の侵入も許さず、静かにコーヒーを飲める『完璧な自室』だ」
俺は消音拳銃のメンテナンスを終え、スライドをガチリと引いた。
「……さて。セリス、エレナ、シャーロット。工事の遅れは許さんぞ。今日中に第2区画の重力地雷の敷設を終わらせろ」
「「「はーい/分かってるわよバカクロード!/爆発的に頑張るわ!」」」
騒々しい悲鳴と歓声が要塞化の進む城内に響き渡る。
まあ、前よりは幾分か……死角の少ない、マシな城になりそうだ。
俺は温かいコーヒーを喉に流し込み、出来上がりつつある鉄と兵器の要塞を満足げに見渡した。
シエル視点_
クロードの隣で、工事の打撃音と騒々しい怒号を聴きながら、私は静かに風の結界を整えていた。
手元にあるタンブラーのコーヒーは、まだ温かい。クロードが好む、豆を極限まで深く煎った苦いブレンド。私が淹れるこの一杯だけが、彼の削られた神経をわずかに休ませることができる。
「……セリス様、そこ。配線、また間違えてる」
「なっ……! ちょっとシエル、どこが間違ってるっていうのよ! アタシは説明書通りに——」
「……その導線は、エレナ様の高電圧ライン。接続したら、セリス様の氷結バッテリー、爆発する」
「ひえっ!? 嘘でしょ!? ちょっとエレナ、何危険な配線引いてるのよバカ!」
「アタシのせいじゃないわよ! シャーロットが爆縮で壁に大穴開けたから、迂回させるしかなかったんだから!」
「私の愛の爆縮を責めないでよーっ! 穴は綺麗に丸く開けたじゃない!」
相変わらず、騒々しい三人。
でも、クロードは溜息を吐きながらも、その様子を消音拳銃(サイレンサー)の手入れを止めずに見守っている。
……クロードは自分のことを「冷酷で合理主義なドブネズミ」だと言っている。
必要とあらば自分すら取引の材料にし、敵には躊躇なく過激な兵器や地雷原を突きつける男。
でも、シエルは知っている。
彼がこの城を金ピカの無駄な装飾から、無骨で頑丈な要塞へと作り替えている本当の理由。
誰にも邪魔されず、静かにコーヒーを飲むため。
そして……このうるさくて頼もしい仲間たちを、二度とどんな敵の強襲にも脅かさせないため。
言葉には絶対に出さないけれど、クロードの建てる防衛線(キルゾーン)の設計図は、いつだって私たちの配置と安全がコンマ01秒単位で一番精密に計算されている。
「……クロード」
「ん?」
ヘルメットの鍔を押し上げ、図面から目を逸らさずに短く返事をするクロード。その横顔は冷たそうに見えて、どこか居心地の良さを感じさせる。
「……シエル、第4区画の風量調整、終わった。これで地下の弾薬庫に湿気も毒ガスも溜まらない」
「助かる、シエル。……お前が隣にいると、余計な手間が省けて本当に助かるよ」
雑に私の頭を撫でてくる、無骨で温かい手。
派手な愛の告白なんて要らない。
「手際がいい」「助かる」その一言だけで、シエルが彼の特別な相棒である証明には十分だった。
「……クロード」
「なんだ?」
「……子どもは、やっぱり静かな子が二人でいい。……この城なら、どんな敵が攻めてきても、絶対に安全」
「……っ~! だから、お前まで余計な追撃を落とすなと言ってるだろ!」
珍しくクロードが苦い顔をして、盛大に欠伸を噛み殺しながら顔を背けた。
「ちょっとシエルーーッ!! さっきからどさくさに紛れて何をクロードにおねだりしてるのよーっ!?」
「静かな子が二人って言ったわね!? アタシは賑やかな子が三人よッ!」
「私は爆発的に賑やかな子を五人ーっ!」
再び爆発する執務室の騒音。
ミサキが物陰で呆れながらクスクスと笑い、クロードが頭を抱えて冷えたコーヒーを煽る。
シエルはほんの少しだけ、誰にも気づかれないように誇らしく唇の端を上げた。
——風の教え。欲しい獲物は、音もなく背後から奪う。
要塞化が進む冷たい鉄と兵器の城の中で、私は静かに風を纏い、これからもずっと、この冷徹で温かい男の隣を守り続ける。
ルル
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コメント
1件
第45話、読み終わりました!「魔王城要塞都市・クロード・要塞」って命名、もう完全にクロードの趣味全開で笑っちゃいました😂 でも、セリスたちとの掛け合いの賑やかさと、シエル視点で見える「計算し尽くされた守り」のギャップがすごく効いてますね。特にシエルが「子どもは静かな子が二人」ってさらっと言い放った場面、クロードが苦い顔で欠伸を噛み♡♡♡ところがめちゃくちゃ可愛くて、お気に入りの一文になりました。彼女、風の教え通りに本当に音もなく獲物を奪うタイプだ…🤍