テラーノベル
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🍵「…暇ちゃん……」
🍍「ッ……」
俺がエントランスに入ろうとした時、誰かに手首を掴まれた。後ろを振り返れば警察署長の息子であり、俺の元彼の碧也須莉がそこに立っていた。
いきなりのことに頭の処理が追いつかない。混乱して冷や汗が背筋に通った。
なんで、すちがいる…?
どうやってここだと…?
するとすちの口が開いた。
🍵「っ…元気…にしてた?」
🍍「えっ、ぁ…うん」
🍵「そっか、良かった…」(ニコッ
俺とは反面にすちは安心したような笑顔をこっちに見せた。昔俺に向けていた愛おしそうに見てた顔を思い出させる。
🍵「…ねぇ、暇ちゃん」
🍍「っ…な、に…」
🍵「一緒に、お家に帰らない?」
急なお願いに俺は目を見開いた。
🍵「お母様も、みこちゃんもこさめちゃんも、みんな暇ちゃんの事を待ってるよ」
彼から向けられてる目は働いてる時の真剣な顔のように真っ直ぐで、ただ俺の目を見て言い放った。
そうだ、俺は、家に帰らなくちゃいけない。頭では分かっていた。でも、
📢『なつ!___』
脳裏に過ぎる愛おしい彼の名前を呼ぶ声と甘い笑顔を思い浮かんだ。
『嫌だ。』
そう分かるように俺は目線を下に俯いた。頭上からはすちの息を飲む音がした。
俺はずっと、ここで暮らすつもりだった。
らんや他の戦闘員に見守られながらこれからも仕事をして過ごすと思っていた、
大好きな彼の暖かい腕の中で過ごしていくと 思っていたから。
🍍「俺、帰りたくないっ…!」
多分、初めて彼に本音をぶつけた。
🍵「じゃあ、紫燈を逮捕するしかないか」
🍍「___…え?」
彼の発言に思わず下に向けてた顔を勢い良く彼に向けてしまった。今度は真剣な顔ではなく俺を上から睨むようにこちらを見ていた。見た事ない彼の顔と発言に恐怖で身体が震えた。
🍵「俺は警察だから、なんでも知ってるよ?」
🍍「っ…な、んで…も…?」
🍵「紫燈いるまと暇ちゃんが住んでたマンションの部屋番号は0220でしょ?」
🍍「…ッえ…は…?」
🍵「紫燈いるまと暇ちゃんは✕✕ホテルに入って性行為をした事だって知ってる」
🍍「ぁ…ぇ、……」
🍵「昔、紫燈いるまの親は育児放棄と彼を棄てた事が判明し警察に捕まった事も、」
🍵「紫燈いるまは今、◆◆病院の209号室で入院中な事も、」
🍵「彼の同僚も、大体の出勤時間や退勤時間も、暇ちゃんとの夜のお散歩の道や行ったお店も時間だって、」
🍵「ぜーんぶ、知ってるからね?」
笑っているのに目は笑っていない。よく見れば寝るのが大好きな彼の目の下には黒い隈が残っていた。
🍍「す、ち……」
🍵「…ぁははっw、そんな顔しないでよ?」
俺は絶望した。彼をストーカーみたいにさせてしまった。何を言っても否定しても彼は全て答えられるのだろう、全て知られてるのだから。
『暇ちゃんも可愛いよ!___』
あの時無邪気に笑う彼の姿を思い出す。目の前の彼と同一人物だとは思えない。
俺が捕まったから、別れをお願いしたから、彼は壊れてしまった。
🍵「暇ちゃんが大人しくこっちに来てくれれれば良いだけなんだよ?」
すちはそう言い放った。俺が言うことを聞けば、彼は治るのかもしれない。
『言い訳なんていらない、私はあなたをこんな子に育てた覚えはないわ』
お母さんが言っていた。俺は、俺は、悪い子になってしまう。心配させてしまう。嫌われちゃう。
🍵「…ねぇ、暇ちゃん?」
そんな事を考えているとすちは俺の元に近づき頬を撫でた。ずっと外で俺を探したからか外が少し肌寒いのか彼の手は死体のように冷たかった。冷たさと恐怖で肩が動いてしまい、また身体が震えてしまう。
🍵「…暇ちゃんが家に帰ってくれれば俺は彼に何もしないよ?」
🍍「ッ…す、ち……」
🍵「暇ちゃんは外で捨てられてて俺が拾った事にしてあげる。」
俺の頬を触れていた手が今度は俺の両手へと移動し握られた。俺がもう離れないように、骨が軋む程、強く。
🍵「だから、帰ってきて?」
『さもないと、紫燈いるまを殺すよ?』
そう言うように暗殺者の目で俺を見た。
🍍「ッ分かったッ…!」
🍍「分かったからッ…いるまにはッ…!!」
すると俺のうなじに衝撃が走った。 きっとすちが後ろから叩いたのだろう。ぼやける視界の中俺はすちを見れば安心したような柔らかい笑顔でこっちを見ていた気がした。
___、……___!
………?
誰かが俺を呼んでいる。 いるまか…?
___なつ、!なつ!!
この声を頼りに俺は重い瞼をゆっくり開けた。目の前は俺の部屋の天井とは違う少しくすんだ白色が見えた。
洗ったばっかりなのかシーツのフローラルな香りと少し部屋中に漂う薬品が混ざった匂いが鼻をくすぐる。
「ッなつ…!良かった!起きたのね!」
🍍「…ぁ……」
隣から声がし顔を向ければ少し痩せ細った姿の女性、俺のお母さんが立っていた。
🦈「ッお兄ちゃんっ!」(ポロポロ
👑「い、生きとるっ!!」(ポロポロ
少し下を向ければベッドに寝てる俺の顔を見たいのか登ろうとしてるこさめとみことがいた。必死になる可愛い姿に少し口角が上がってしまった。
すると俺がいる部屋の扉が開いた。
🍵「!…起きたんだね?」
見ればあの夜に俺を襲ったすちが入ってきた。警察官の服から着替えたのか今はラフな格好になっている。
「ッすち君!見つけてくれて本当にありがとう…!!」
🍵「いえ、俺はお母様のご依頼に答えただけですから」
頭を数回下げながら感謝を述べる母と困ったように笑いながら止めようと口を動かすすちを動かない頭で見る。
あの時がなかったかのように淡々と話してる彼にまた恐怖心が走ってくる。
🩺「…失礼いたします。少しお話だけさせて下さいませ」
また扉が開いたと思えば俺の担当医が入って来ていた。
医者からは特に酷い怪我はなくて明日から退院しても良いという話が出ていた。また、俺が何故ここにいるかも聞くと道端に倒れているのをすちが見かけたとなっていた。
いるまの事は話されてない、触れていない事に俺は少し安堵した。
🩺「また何かあればナースコールを」
話すことを全て話し終えた医者は優しい笑顔で頭を1回下げ部屋から出た。扉が全て閉まった瞬間、母さんは我慢していた物が全て崩れたかのようにすちに向かって吠え始めた。
「嘘ッ…嘘よ嘘よ嘘よッ!!あの子は連れ去られてたッ!!あの男を見つけてよッ!! 」
🍵「お母様、落ち着いて。こっちも捜索してるけどまだ見つかってなくて…」
「なんでっ…!早く見つけてよッ!!」
🍵「大丈夫ですから。今は暇ちゃんが帰ってきた事に安心してもよろしいんじゃないでしょうか?」
「ッでも…!」
🍵「…きっと、用済みになって棄てたんじゃないんですか?」
すちからの用済みっていう言葉に心が重くのしかかった。いるまは俺を棄てるような奴じゃない、ずっと、愛されていたから__
すちを見れば母さんにバレないように俺を横目で表情を確認する。そして口角を少しあがったような気がした。
「2人だけの秘密だよ?」
そう言うように微笑んでいるように見えた。
それから家族は俺に怪我がなかったとしても現在進行形で入院中なのにも関わらず攫われて心配だったと言い勝手に泣いたり、危機感がないと説教までされた。
特に心に響かなかったし、寧ろいるまがいた環境が楽しくて幸せだったのか、相手が家族だとしてもまた攫われた気持ちになっていた。
言うだけ言って満足したのかみんなが帰った後 看護師からくれた味が薄い夕食を食べ、気づけば21時。 暗い病室の中で俺は窓の外を眺めていた。
🍍「…いるま、ごめん…」
きっと今、 俺が家に戻った事を知らないのだろう。持っていたスマホは俺が気を失っている間に盗ったのか手元にはなく、電話番号もスマホに入ってあると安心したからか覚えていない。ここには手紙を書くペンも紙も何も無かった。
🍍「…会いたいな……」
シーツの中で伸ばした膝を折り腕で抱き抱える。膝の上に頬を乗せたまま窓から輝いてるんだろう星を眺めていた。
何も言えないまま お別れなのは辛い。
お別れの言葉なんて言えていない。
🍍「いるまが、いい……」
そう呟きながら込み上げてくるこの悲しい感情を我慢しながら1夜を過ごした。
「…なつ、着いたわよ」
道中何を話したのか、久しぶりの近所や散歩をした外の景色は覚えていない。結局一睡も眠れなくて睡眠不足と働かない頭のまま母さんに着いて行ったら着いていた。
🍍(…久しぶりに帰ったな…)
昔と変わらない少し古びた一軒家。玄関の鍵を開ける母さんの後ろ姿を眺めながら呑気にそう感じていた。
久しぶりに入ると俺がいない間何が起こったのか悲惨な姿になっていた。
シンクに洗ってない食器が沢山あり、床には酒の缶や子供用のパックのジュースなどが零れ落ちていて、部屋の隅に埃が溜まり、ゴミ袋にカップ麺の空が溢れ出ている、凄く散らかっていた。
明らかに小学生の子供を育てている家の環境じゃないし、家の匂いなのにほんのり何かが腐った匂いが俺の鼻をくすぐった。
🦈「!なつ兄っ!」
👑「お兄ちゃん!おかえり!」
🍍「ッ…こさめ、みこと…!」
でも、唯一こさめとみことは変わっていなかった。すちと同様少し痩せ細ってはいたものの服や2人から香る匂いは清潔で外ズラだけは綺麗にされていた。
🦈「兄ちゃん…お腹、空いた…」
🍍「えっ?まだ朝の10時だぞ?」
👑「俺、もうカップラーメン、嫌だ…」
2人から発せられた言葉に頭が困惑した。
カップラーメンは“もう”嫌だ___
あまり我儘を言わないみことが俺の着ている服の裾を握りしめながら俺に頼ってきている。
🍍「ッ…分かった、適当なもんでもいいか?」
👑「!!うんっ!」
🦈「ありがとうお兄ちゃんッ!」
🍍「んーん、部屋で待ってな?」
俺がそう言うと元気な返事をしてから2人で追いかけっこしながら階段をかけ登って行った。元気な後ろ姿を見送ってからリビングに入って行ったであろう母さんに会いに行く。
リビングに続く引き戸を開ければアナウンサーが流行りのスイーツを食べて薄っぺらい感想をほざいてるニュース番組をつまんなそうに見ていた。
🍍「……母さん」
「…なに?」
こっちに顔を見向きもしない母さんに少しイラつくが無視して口を開く。
🍍「…面倒臭いからって、みこととこさめの世話をしないのは、おかしいんじゃない?」
きっと、昔の俺だったら、こんな事を母さんに言えなかった。昔もこれからも、彼女の言いなりになるしかなかったのかもしれない。
初めて会ったばっかの会話をしてくれない無愛想な彼を思い出させる。彼のせいなのか、おかげなのか、ムカつかされてばっかだったな。
「…あなたのせいでこうなってるの、分かっているの?」
🍍「ッ分かってるっ、でもッ…」
「うっさいわねぇ…」
テレビを向いてた顔をこっちに向けた。母さんの顔はあの時の、テストの点数が低くて怒った時の顔になっていた。
「アンタ、誰のおかげで暮らしていけるか分かっているかって話、覚えていないの?」
🍍「ッ…ぁ…」
「私に反抗なんかしてんじゃないわよ」
今だから、分かる。彼に教えてくれた。
ここは、冷たい場所だ。
🍍「っ…やっぱりッ…」
「あ?」
🍍「ここにッ…帰らなきゃ良かったっ…!」
昔家に帰りたいって言って脱走しようとした俺が馬鹿みたいで、今までこんな所で育っていたなんて反吐が出る。
またあの場所に帰りたい。
彼と愛し合いながら暮らしていきたい。
できるならみこととこさめを連れて、2人には少し怖がられる場所かもしれないけど。
あこはここと違っているまもらんも、他の人達も優しいから。
今なら、2人を連れて___
パチンッ!!___
🍍「ッ…ぃ”ッ……」
「………..」
そんな事を考えていたら母さんに平手打ちをくらった。頬を抑えながら母さんの顔を見れば上から俺を罵倒するように冷たい目で見てきた。
あっ、これ、やばいやつ___
そう感じている間にも今度は俺の首をわし掴み身体を壁に押し付けられた。背中と頭を打ち部屋中に衝撃音が響いた。首を掴む手が少しずつ壁に押し付けるように締めていく。 2階から2人がびっくりしたのかドタバタする音が耳に掠れて聞こえた。
「…私はさ、昔からお前の事を道具だと思っていたよ?」
🍍「ッ…ぅ”ッ…ぐ”ッ……」
「お前はあの子達と違って要領が良いし何をお願いしても受け止めてくれた。」(グググ…
🍍「…ッか”ッッ…はっ…」
「ふふっ、ほら?お父さんと違ってお前はいい子なんだから、分かるよね?」
霞む視界の中目の前の母さんを見れば暗い目をガン開きして口角をあげていて、明らかにぶっ壊れてしまっていた。
彼の元で過ごしたから、大切な家族もすちも、壊れてしまっている。
それだけで俺の心臓はわし掴まれ握り潰されてるような気持ちにさせられた。
『…私はいつまであなたの為にお金を出さなきゃいけないの?』
『言い訳なんていらない、私はあなたをこんな子に育てた覚えはないわ』
『せっかくこっちは時間を削ってまで仕事を頑張ってきたのにッ!!あなた達が暮らせてるのは誰のおかげなのッ!?』
侵食されるように、昔の暗い俺を思い出していく。
幸せだったあの時が少しずつ、次第に掠れ消えていく。
…お前の事が…好きだ…___
俺に向けてくれるいるまの甘い声も、柔らかい笑顔も、消えていく。
🍍「ッ…ご、め”ッ…な”さっ…」
掠れた声でなんとか目の前にいる母さんに届くように発する。いつの間にか視界が緩み頬に何か濡れた感覚がした。聞こえたのか母さんも暗かった顔が少し落ち着きを取り戻すように戻っていた。そして首を掴んだ手が離れていた。
🍍「ッ”ッ…ゴホ”ッ”、 ゴホッ”っ!!」
「…お前はすち君と婚約するのだから女の子みたいに髪を伸ばさなきゃね?」
🍍「ッゲホッ…はぁ”ッ…ガホッ…」
「あんなハイスペックで収入も良い息子さんから惚れられてるのだから、見た目には気を遣わないとね?」
🍍「ッは”っ…はぁ”ッ…」
「もう誰にも攫われないように学校は辞めさせたし、すち君のご両親とお話して遠い場所にお引越しも遠くはないんじゃないかって話してたのよ?」
🍍「ッ…は、ぁ”ッ……」
「なつ?」
「私の願い、聞いてくれるわよね?」(ニコッ
🍍「……ぅん…」
「ふふっ、いい子___」
タプタプ…
プルルルル…___
___ツー…ツー……
📢「………」
ガラガラ…
📢「……おい」
___すごいね?
🍵「…まだ誰だか見てないのにっ」
📢「…なつはどこにやった」(ギロッ
🍵「家に帰らせたよ?あの子はお前のものじゃないんだから」
📢「…クソが」
🍵「口が悪いなぁ、んじゃあ…」
カチャンッ___
🍵「歯、食いしばれよ?紫燈いるま」
📢「………」
コメント
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めっちゃ続きが見たいです! りんごさん作るのが上手すぎません!?
やめて翠さん!?茈さんが×されたら私が死ぬ(?) ほんっっっとにハッピーエンドにしてください!!!マジで😭😭 桃さん助けてぇぇぇ😭
ああああああお願いしますどうかハッピーエンドを恵んでください😭 まぁもちろん結末を決めるのはりんごさんなのでどんな結末でも受け止めます!