湊は会社に辞表を出した。
アパートの解約手続きをし、祖父母に電話をした。
散々迷惑をかけ勝手に上京した湊を再び優しく受け入れてくれた。
片付けが全て終わる頃には、湊は笑顔になれる程回復していた。
東京を離れる時、最後に鞄にしまったのはシンからの手紙だった。
トラックに乗り込むと、窓から見える高校生を見る度に大きくなったシンに会えるのが楽しみで仕方なかった。
その反面、こんな自分が会っても良いのか複雑な気持ちにもなった。
次第に懐かしい風景が見え始めた。
10年ぶりに着いた祖父母の家。
複雑な気持ちを抱えたままトラックを降りると、一人の高校生が立っていた。
あまりに自分好みの高校生に一瞬言葉を失ったがかろうじて挨拶をする。
「湊さん…」
そう声をかけられた時、誰だかわからなかった。
慎太郎です。
そう言われて驚いた。
湊に見せたシンの笑顔は、あの頃と変わらず湊の不安な気持ちを吹き飛ばしてくれた…。
その夜、シンはいつものように湊に夜ご飯を持って来てくれた。
いつものように一緒に食事をする。
いつもと変わらない光景だった。
シンは食器を洗いながら口火を切る。
「湊さん…昼間の…」
「……」
湊は答えない。
「……なんでもないです」
シンの動きが止まる。
「俺はどうしようもないくらい湊晃が好きです…ただ…それだけです…」
どんな顔でシンはそう言ってくれたのだろうか。
シンの背中を見つめる湊にはシンの顔は見えなかった。
それから祖父母が帰ってくる前日まで2人は毎晩一緒に過ごした…。
その間シンは何も聞いてこなかった。
その後もシンは相変わらずコインランドリーに顔を出しては勝手に勉強を始める。
シンとの関係を壊したくないと一番思っているのは湊だった。
『湊さん』
『ん? 』
窓越しのLINEは2人の日課のようになっていた。
『まだ起きてたんですか』
『お前だって起きてんじゃねーか!』
『俺はまだ若いから』
『人を年寄り扱いすんな!』
『今から海行きませんか?』
『何時だと思ってんだよ』
『息抜きしたくて』
『一人で行ってこいよ!』
『誰かに襲われて怖くて泣いちゃうかも』
『心配しなくても誰も襲わねーよ』
『……』
『おい?』
『一緒に行きたいです』
『……』
『泣いちゃうかも』
『わかったよ!』
誰もいない暗い夜道を海に向かって歩いて行く。
海に着くと深呼吸をする。
「風が気持ちいいな〜」
海に着くと湊は両腕を上げて伸びをする。
砂浜に足を取られたのか、少しよろけた。
シンは湊を支える。
「湊さん。お酒飲んでます?笑」
「飲んでねぇよ!」
「……あの」
「ん?」
「俺、あれから考えたんです」
「…あぁ」
「何度考えても答えはひとつしか出てこなくて…」
「……」
「俺やっぱり湊さんが好きです」
「……お前は本当の俺を知らないからそんな事言えるんだ…」
「例えあんたが犯罪者であっても気持ちは変わりません」
「犯罪者にはならねーよ」
「例えですよ。笑」
「笑えねぇよ…ばーか 」
「……俺はあんたしかいらない」
「……」
「だけど…湊さんが泣いたり困ってる顔見たくねーから…今は友達として側にいさせてください…」
「……」
「3月に結果が出ます」
「……3月か。合格したらお祝いしなきゃな。何が欲しい?」
「……言ったらくれますか?」
「そんな高いもんはムリだぞ」
「高いです。すっごく…」
「こぇーけど…とりあえず何が欲しいかだけ言ってみろよ。あんまり自分から欲しいとか言ったことないんだろ?」
「…言わなかったんじゃなくて、言えなかったんです。絶対に叶わないから…」
「……ん?」
「俺が欲しいのはずっと変わらない…」
「……」
「湊晃が欲しいです」
「……それは…」
「まだ今は我慢します。でも絶対合格して卒業したら貰いに行きます」
「……貰いにって…」
「だからそれまで湊さんの隣予約させてくれませんか……」
「……」
「これから本格的に受験が始まります。そしたら今までのようにあんたに会いに行けなくなる」
「……」
「だから…」
湊の肩を掴んでキスをしようとする。
「おいっ!」
シンの唇を手で塞ぐ。
「なにふんでふか…」
「友達はキスはしねーよ!」
「するかもしんねーだろ」
「お前…友達いねーだろ。笑」
「……」
「おい…まじでいねーのか?」
「必要なかったんで…」
「しょーがねーな…明日香に頼んでやる。笑」
「英となんか友達になれません!」
「似た者同士だからけっこう気が合いそうだけどな。笑」
「どこがっ!」
「クソ生意気で年上を敬わない所とかそっくりだ。笑 」
「……似てません」
「きっと、明日香は友達になってやっても良いって言うぞ。良かったな~シン。友達増えて」
「……」
シンは湊を睨む。
「なんだよ…」
「一人は恋人になる予定ですけど…」
「…はぁ?…ならねーって!」
「……笑」
「空けとくよ…隣」
「本当ですか?…」
「あーっ!でも落ちたら予約は即キャンセルするからなっ!」
「絶対合格してみせます」
「…絶対…合格しろよ……」
全てを知ってもシンは隣に居てくれるだろうか…
黙る湊の 手をシンは取り繫ぐ。
「そろそろ帰りましょうか…」
湊はシンの手を握り返した。
【おまけ シン&明日香 編】
「湊さんがお前と友達になれって言うからなってやる」
「はぁ?何いきなり威圧的に言ってんの?」
「イヤならいい」
「素直に友達になってって言えばいいのに。笑。素直じゃないなシ〜ンちゃん」
「シンって呼ぶな」
「いーじゃんアキラさんだってシンって呼んでるじゃん!」
「アキラさんって呼ぶな」
「お前…おもしれぇ…笑」
「はあ?」
「ただの秀才くんかと思ったけどかなりの天然鰤だな。笑」
「なんで魚?」
「俺ん家魚屋だから。笑」
「しかも出世魚…」
「シンは早く出世してアキラさんに釣ってもらわないとっ」
「お前…何言ってんだよ?」
「つまり!応援してるって事!」
「初めからそう言えよ。言い方が回りくどいんだよ」
「アキラさんのどこが好き?」
「…言わねぇ」
「友達なんだから教えろよ!」
「……」
「おぃっ!黙んなっ!」
「……」
こうして、シンと明日香は無事にお友達になりましたとさ…笑
【あとがき】
はじめに。。。
今作にコメントをしてくださった方にお礼を言わせて下さい。
ありがとうございました!
本当は全て削除しようか迷ってました。
でも、何度も温かいお言葉と励ましに救われ投稿する事ができました。
話が進むに連れて書いていてツラくなったのもそうですが、こんな作品を世に出しても良いのか…そこが一番悩んだ所でした。
(投稿する時いつも手が震えていたのは内緒です。笑)
もちろん いいね 下さった皆様にも感謝でいっぱいです!
本当にありがとうございました♪
無事に第1章完結です。
第2章は、シンちゃん攻めます。色んな意味で。笑
では、次回作でまた、お会いできますように…
月乃水萌
コメント
15件
お疲れ様です! 最高でした👍 2章も楽しみにしてます😊 頑張って下さい💪
最高でした!毎日楽しみしてました!2章も楽しみにしてます!!
1章とてもよかったです😊2章も楽しみにしてますね︎💕︎