ゴトゴトゴト……。
馬車は細かく揺れながら、街道を走っていく。
私の乗っている馬車は、列になっている5台の馬車のうちの前から2番目。
1台につきそれぞれ、乗客が6人、御者が1人、用心棒が1人の構成だ。
街の近くは比較的安全なのだが、それなりに離れると魔物や野盗が襲ってくることがあるらしい。
また、この近辺にはそこまで強い魔物はおらず、野盗もならず者崩れしかいないとのこと。
仮に襲われたとしても、雇っている用心棒が合計5人もいれば何ということも無いそうだ。
っと、それはそれとして――
「……うーん、暇だなぁ」
最初こそ、久々の街の外だからとテンションも高めだったが、行けども行けども似たような景色ばかり。
元の世界であればスマホをいじって時間を潰したものだけど、この世界にはそんなものがあるわけもないし。
周りの乗客もみんな静かだし、居心地は正直あまり良くない。
しっかり睡眠も取ってきたから、眠るのも難しそうだし――
……うーん。
一人旅は気軽で良いけど、やっぱり寂しいなぁ……。
旅の道連れを考えるとなれば、別に人間じゃなくても、ヴィクトリアの従魔みたいな感じでも良いのかな。
……従魔、かぁ。
私がもし従魔を作るなら、RPGでもお馴染みのスライムが良いかな。
見た目は癒し系なんだけど、最後まで育てるとすごく強くなる……みたいな。
あー、いいなー。
従魔が欲しいなー。
……などと妄想を膨らませても、経過する時間は10分くらいにしかならないわけで。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「1時間ほど休憩となります。
みなさま、お食事を済ませてきてください」
3時間ほど走った後、小さな村で一休み。
バス旅行で言うところの、サービスエリアで休憩……といったところだろう。
ぽつぽつと食べ物の露店も出てるから、少しまわってみようかな?
……ふむふむ、このお店はお肉ね。
うーん、用心棒の5人グループが豪快にがっついてるなぁ……。
私にはちょっと重いかな?
とりあえずパス……っと。
えーっと、こっちのお店は麺料理ね。
うどんみたいな感じ? ベトナム料理のフォーの方が近いかな。
良い匂いだけど、どうしよっかなー。
で、こっちはパン屋さんか。
うーん、パンか。うん、パンが良いね。
ちょうどお腹も、そんな具合だし。
「すいませーん、これとこれとこれ! くださいな」
「はいよ、毎度ありっ!」
パンを買って、近くに置いてある椅子に腰を掛ける。
「いただきまーす」
パクっと。もぐもぐ、ふむふむ。
日本で売っているパンほど柔らかくはないけど、そこまで固いわけでもない。
しっかりと歯ごたえがあって、噛むのが気持ち良いくらいのパン。
そこに木の実が入っていて、ちょうど良い具合に仕上がっている。
「んー、美味しい~♪」
至福の一時。
屋外で食べているせいか、気分も解放的になってしまう。
「ひとつめ完食ー。えっと次は……こっちかな」
もぐもぐ、ふむふむ。
む……これは、ちょっと酸っぱい! レーズンみたいな感じかな? いや、しっかりとレーズンだ。
レーズンって子供の頃はちょっと苦手だったけど、いつの間にか美味しく感じるようになったんだよね。
そういうのってあるよね。ほら、トマトとかナス、ピーマンとかも多分そんな感じ。あと、ニンジンとか。
「ふたつめ完食~っと」
そして、最後のパンにかぶりつく。
野いちごみたいな実が入っていて、ほんのり甘かった。
適当な順番で食べてしまったけど、最後にデザート感のあるパンが残って良かった……。
その手は止まらず、最後まで休むことなく食べ尽くしてしまう。
「ふぅ、ごちそうさまでした! 満足満足!」
「ふふふ、アイナ様は本当に美味しそうに食べますね」
「美味しいものを食べたら、そりゃ顔に出ちゃいますよ~!」
……って、あれ?
私に自然な感じで話し掛けてきたのはどちら様かな?
そう思った後、声の主の方向を見ると――
……何故かルークさんがいた。
見間違いかな?
目線を一回逸らして、もう一度改めて見てみる。
何故かルークさんがいた。
「えぇ……?
ルークさん、こんなところで何をしてるんですか……」
「いえ、アイナ様が美味しそうに食べていらっしゃるので、思わず声を掛けた次第です」
「そ、それはどうも……?
じゃなくてですね、何でこんなところにいるんですか?」
「それは後でお話させて頂きます!
ところでアイナ様は、2番目の馬車でしたよね。
私は5番目の馬車なんですが、誰か変わってくれそうな方はいませんでしたか?」
……違う馬車とはいえ、一緒に来ていたのか……。
そういえば今は鎧を着ていないけど、確か今日は非番……って、同僚の方が言っていたっけ。
「うちの馬車は、みんな一人旅のようでしたよ。
一緒だったのは、あそこの人とか、向こうの人とか……」
指を差して伝えると、ルークさんはその人のところまで走っていって、何やら話を始めた。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ゴトゴトゴト……。
馬車は細かく揺れながら、街道を走る。
さっきまでと違うのは、私の隣には満面の笑みのルークさんがいること。
どうやら他の乗客と交渉して、乗る馬車を変わってもらったようだ。
「……それで、ルークさんはどこに向かっているんですか?」
私の問いに、彼は少し考えてから答え始める。
「えっとですね、王都の方です」
「王都の方?」
「はい。そちらの方に、少し用事がありまして」
「はぁ、用事ですか」
「そうです、用事です」
「それじゃ、私に付いてきている……ってわけではないんですね?」
「……えぇっと」
ルークさんはバツの悪そうな顔をして、咳払いで間を稼ぐ。
「その話はここではちょっと……。
夜にまた、お話をさせてください」
「はぁ」
他に乗客もいるし、プライベートなことは話しにくいのかな?
「それでは、この前の話の続きをしましょう!
英雄シルヴェスターの剣のことなんですが――」
突然話題を変えるルークさん。
なんでだよー! ……とは思いつつも、ついつい話に食いついてしまう私。
午前中の3時間ほどで、私はもう会話に飢えてしまっていたのだ。
何にせよ、話相手がいるっていうのは気楽で楽しくて、良いものだなって思ってしまった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
今日の夜は、小さな村に宿泊することになった。
街道沿いの旅のため、野営する日はそこまで多くはない。
お金を節約するために野営する人もいるけど、私はのんびり休みたいので宿を取っていた。
ちなみにルークさんも、同じ宿を取ったようだ。
……ああ、もちろん部屋は別々ね。
夕食はせっかくなので、ルークさんと一緒にとることにした。
注文した料理のプレートが運ばれてくると、待ちに待った夕食の開始だ。
「それでは頂きましょう。いただきます!」
「……えぇっと?
アイナ様は、そういう挨拶をされるんですね」
「え? ああ、私の生まれたところでは、命をくれた食材に感謝して食べる習慣があるんですよ。
それで、こういう挨拶をするんです」
『いただきます』という挨拶自体、元の世界でも世界的に見ればちょっとレアな挨拶らしい。
そのため、馴染みのない文化の人にとってはおかしく聞こえるのだろう。
「ふむ……。
アイナ様の生まれたところは、そういう文化だったんですね」
「この辺りだとどうなんですか?」
「信仰している宗教次第、ですね」
「なるほど」
まぁ、大体の国はそんな感じだよね。
それはそれで、私は素晴らしいと思うけど。
――さて。
今夜のメニューは、元の世界でいうところのステーキ定食みたいな感じだ。
ご飯ではなく、パン……というところだけ、少し残念ではある。
それじゃ、ぱくっと。
「ん~、でも美味しい~♪」
「おお、これはいけますね。うん、美味い!」
「この村の名物なんですかね?
……ところでルークさん、昼の話に戻りますけど……これからどこに向かうんですか?」
食事の途中、自然な流れでルークさんの旅の行き先を探る。
それを聞いたルークさんは食事の手を止めて、しばらく考えた後――
「すいません。
その話は食事が終わった後でも良いですか?」
「えぇ……?」
言葉を失う私。
なんだよー、もうー! 焦らすなよー!!
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!