テラーノベル
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「……すんません、大将。お会計、ここで」
保科は、胸元に頭を埋めてすやすやと眠りこける男の髪を軽く引っ張りながら、片手で財布を取り出した。
いくら防衛隊副隊長の給料が良いとはいえ、大食漢の最強隊長にメガジョッキと焼き鳥を限界まで詰め込まれた勘定は、なかなかに財布に響く。あとで払ってもらわねば…
だが、今の保科にとって金の問題はどうでもよかった。最大の問題は、この自重を完全に放棄した自分よりも重い筋肉の塊を、どうやってここから連れ出すか、である。
「ん……保科ぁ……もう飲めん……」
「もう、ほんまにッ、あんたさっきもっと高い酒飲む言うてましたやん。ほら、立ちますよ。鳴海隊長、ッチ…足に力入れんかい!」
引きずるようにしてなんとか座敷から引っ張り出し、居酒屋の狭い玄関で靴を履かせるだけで、保科は額に薄っすらと汗をかいた。
外に出ると、夜の街の冷たい風が二人の頬を叩く。
少しは目が覚めるかと思ったが、鳴海は完全に千鳥足で、保科の肩に容赦なくその体重を預けてきた。
「うぉい‼鳴海隊長。もぅほんまにしっかりしてください、第一部隊の宿舎までタクシー呼びますから」
「宿舎……? やだ。遠い。戻ったらまた長谷川が報告書の束持って待ってる……。絶対怒られる……。ボクはずぇぇぇぇったいに帰らんぞ……」
「子供みたいなこと言わんといてください‼あんたが溜めるからでしょうが!」
スマホで配車アプリを開こうとしたその時、最悪なことに画面に『現在、周辺の車両が大変混み合っています』との無情な表示が出た。週末の新宿歌舞伎町。終電間際のこの時間帯に、すぐ捕まるタクシーなど早々ない。
「嘘やろ……。しゃあない、駅まで歩き……って、この状態で電車は無理やな…」
隣を見れば、鳴海は街頭の電柱にへばりつくようにして、今にもその場に座り込みそうになっている。普段の神がかった戦闘時からは想像もつかないマヌケな姿だが、一般人に激写されでもしたら防衛隊の威信に関わる。
「……あーもう、最悪や」
保科は周囲を見回した。
ネオンサインがギラギラと輝く路地裏。そこは、一般の居酒屋やカラオケ店に混じって、特有のデザインを施したビルが立ち並ぶエリア――いわゆる、ラブホテル街だった。
「背に腹は代えられん、か……」
とにかく、このだらしないクソ男をどこかプライベートな空間に収容しなければならない。ビジネスホテルを探すにも、この時間ではどこも満室だろう。
保科は覚悟を決め、一番近くにあった、比較的まともそうな外観のホテルの自動ドアをくぐった。
チカチカと光るパネルから適当な部屋を選び、自動精算機にカードを通す。
フロントの人間と顔を合わせずに済むシステムに、保科はこれほど感謝したことはなかった。
「ほら、着きましたよ。入って、入って!」
部屋のドアを開けると、そこは期待を裏切らない、大きなダブルベッドと、どこか淫靡な間接照明に彩られた空間だった。
保科は鳴海をベッドに放り投げようとしたが、鳴海の手が保科の黒シャツの裾を掴んだままだったため、二人して崩れ落ちるようにベッドへ倒れ込んだ。
「うおっ……!」
フカフカのマットレスが二人分の体重を受け止める。
弾むような衝撃のあと、静寂が訪れた。
防音性の高い室内は、外の喧騒を完全にシャットアウトしている。聞こえるのは、部屋の隅にある空調の微かな稼働音と、すぐ近くにある鳴海の荒い息遣いだけ。
「……鳴海隊長。もう、離してください…。僕、水買ってきますから」
保科が身をよじって離れようとすると、鳴海の手がさらに強くシャツを掴んだ。
だが、その力の入り方が、先ほどまでとは少し違っていた。ただの酔っ払いの駄々ではない。もっと、芯のある、明確な意志を持った力。
「……保科」
低い声が、保科の耳元で鼓膜を震わせた。
驚いて顔を上げると、そこには、ベッドに仰向けになった鳴海がいた。
キャップはいつの間にか外れ、ボサボサの髪が白いシーツに広がっている。その隙間から覗く、鋭い双眸。
酒の熱で赤くなっていた顔は、いくぶんか落ち着きを取り戻しているようだった。防衛隊最強の肉体が、急速にアルコールを分解し、彼の『正気』を呼び戻しつつあるのだ。
だが、その目は――ちっとも冷めていなかった。
むしろ、アルコールというストッパーを失ったことで、普段は隠されている彼の本能が、剥き出しになって保科を捉えているように感じる
「……酔い、冷めてきてますね」
保科は警戒するように、声を低くした。
「ああ。最悪なことに、頭がハッキリしてきた」
鳴海は上体を起こし、ベッドの上に座り直した。掴んでいた保科の服は、離さないままだ。
「じゃあ、離してください。ここはこういう場所です。男二人で長居するようなところやない」
「お前、さっき居酒屋でも心の中で”ソ―ユーコト”考えてただろ。顔見れば分かる」
鳴海の手が、保科のシャツを離し、そのまま保科の手首へと移動した。
骨張った、大きな手が、保科の手首をガチリとホールドする。逃げられない。
「お前が『付き合ってない』って免罪符盾にして、一線引こうとしてるの、ずっと気に入らなかったんだよ」
剥き出しの最強
顔が赤いきっと。圧で言い返せない
「な、何言うて……」
保科の言葉は、それ以上続かなかった。
鳴海が、その長い腕で保科の腰を抱き寄せ、ベッドの上に押し倒したからだ。
「っ、鳴海t……!」
視界が反転し、天井の紫色の間接照明が目に飛び込んでくる。次の瞬間には、その光を遮るように、鳴海の大きな体が保科の上に覆いかぶさった。
両手首をベッドに縫い付けられる。びくともしない。
これだけの至近距離で対峙して初めて、保科は「鳴海弦」という男の、圧倒的な体格差と筋力を、恐怖に近い形で実感した。戦場での彼は味方であり、背中を預ける対象だったから、その暴力的とも言える強さが自分に向けられる感覚は、完全に初めてのものだった。
「離さんかいっ……! 鳴海隊長、これ、隊規違反どころの話やないですよ! 冗談やったら、今すぐ――」
「冗談に見えるか?」
鳴海の顔が、目の前まで迫る。
その瞳は、いつもの気の抜けたオタクのものではなかった。冷徹で、凶暴で、飢えた肉食獣の目。
「保科…お前、さっきボクが『他の奴と飯に行ったら怒るか』って聞いた時、呼吸が止まったろ。動揺して、顔を真っ赤にして。……あんな顔、他の奴に見せてんのか?」
「見せる、わけ、ないでしょう…///」
保科は必死に抗うが、手首を固定された状態で顔を隠すこともできない
その言葉は、あまりにも傲慢で、勝手で、そして――保科がずっと心の奥底で、喉から手が出るほど欲していたものだった。
保科が鋭い一撃を繰り出すように言葉を放つ。
だが、鳴海はその言葉さえも、獰猛な笑みで受け止めた。
「ふふん♪ボク様は最強だからな。欲しいものは、力ずくでも全部もらう」
鳴海の顔が下りてくる。
熱い吐息が肌を焼き、保科は逃れるように目を閉じた。首筋に、鳴海の少し荒れた唇が触れた瞬間、保科の体からストンと、抵抗する力が抜けていくのを、自分自身で止められなかった。
次回r18㊒㊒㊒かも
コメント
1件
みぅです🖤 2話、もう……心臓持ってかれました。 保科さんの「見せるわけないでしょう///」ってところ、声に出るかと思った。 鳴海隊長の酔い方からの豹変、ギャップがエグすぎて震えた…。 あの「力ずくでも全部もらう」は完全にヤバいやつだけど、保科さんが抵抗やめた瞬間、こっちも息止まった。 ラブホでこの空気、読んでるこっちが逃げ場なくなる…。 次回R18かもってマジですか…覚悟します…。 続き、静かに待ってます🌙