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「それで竹下社長。今の質問にどんな意味があるんですの?」 


質問の内容に首を傾げる三人を代表して、ブロンドの巻き毛をなびかせながら、新鍋のお嬢さまが佳華先輩に問い掛ける。 


「んん? ああ……この優月ちゃんは、シャイで照れ屋さんだから異性と試合すんのが恥ずかしいんだと」


ここはあえて性別を言わず、異性と表現する佳華先輩。てゆうか、シャイと照れ屋は意味がカブってます。 


「は、恥ずかしいって……ちょいと優月さん! |貴女《あなた》のような方の考えが、女性の社会進出や地位向上の妨げになっておりますのよ」 

「は、はぁ……」 

「『はぁ』ではありません。いいですか? 現代社会において人間には二種類の人間がおります。それは男性と女性の二種類ではなく、仕事の出来る人間と出来ない人間の二種類です。そして、そこには男女の差などありませんわ。貴女もプロレスラーの道を選んだのであれば、相手が男性だから試合をしたくないなどと言うのは、プロとしての意識に欠けております。もう学生ではなく社会人なのですから、もう少しプロとしての意識をお持ちになって下さいまし」 

「は、はい……以後気を付けます……」


高校出立ての女の子に、社会人の心構えを説教される|副社長《オレ》って……


でもこの子には、佳華先輩や智子さん達とはまた別種の逆らえないオーラが滲み出ている気がする。さすが、新鍋財閥のお嬢さまだ。


「つーより、男と組み合うのが恥ずかしいとか、処女臭せぇ……てか、実はマジで処女なんッスか?」

「ハハハッ、まっさか~♪ 優月さん、あんなに美人なんですから、彼氏の一人や二人は居るに決まってるじゃないですか」


いえ、居ません。欲しくもないし……


てゆうか、元ヤンの江畑さんはともかく、子供っぽさが残る山口さんまで、この手の話にノッて来るとは……

最近の若い娘は、サバサバしてると言うかナンと言うか――これがいわゆる、ガールズトークのノリなのか?


そうかと思えば、オレの後ではかぐや達がヒソヒソと――


「処女……なのかな? 昔から空手だ柔道だプロレスだって、ムッサい男達に囲まれていたけど……」

「どうでしょう? あの女顔ですからね。受けの経験が有っても不思議ではないかと……いえ、むしろ個人的に有ってくれた方が萌えます」

「ああ、確かに複数相手の鬼畜受けとか似合いそうだよな」


お黙りなさい、腐った女子ども! そんな経験、有ってたまるかっ!!


「はーい、再びチューモーク! みんなの意見は分かったから、本題にはいるぞー!」


オレをヘッドロックから解放して、佳華先輩がパンパンと両の手を叩く。

そして、社長である佳華先輩の『本題』という言葉に全員の顔が引き締まった。


「えーっ、当団体アルテミスリングも、これで選手が八人となり、シングル戦なら四試合が出来るようになった。興行としてはまだまだ小規模ではあるけど、あたしはこのメンツで旗揚げ興行、そしてお前達のデビュー戦を行いたいと思っている。異論はないな?」

「「「はいっ!!」」」


新人達から歓喜のこもった、力強い返事が返って来る。団体立ち上げから早三ヶ月、ようやくデビュー戦のメドが立ったのだから当然だろう。


「日取りは来月の七月十四日。場所は幸楽園ホールを予定している」


幸楽園ホールという言葉に、新人達からは驚きの声がもれる。


格闘技の聖地とも言われている幸楽園ホール――

正直、弱小新団体の旗揚げ試合をするには、大き過ぎる|会場《ハコ》だけど……


オレは、チラリと後ろを振り返った。


幸楽園ホールと聞いても、まったく驚く様子のない三人。彼女達の人気と実力なら、幸楽園ホールでも十分に人が集められるだろう。


「そして対戦カードの方は、この後もフリー選手の勧誘も続けるから、あくまで予定ではあるけれど、一応第一試合で新人三人の内の二人。第二試合で残り一人と……詩織、お願い出来るか?」

「メインの組み合わせは決まってますし、荒木絵梨奈は不器用ですからルーキーの相手をさせるのは不安――となれば、わたししかいないでしょうね」

「ああ、よろしく頼む。代わりにその次の興行で、かぐやとのカードを組むようにするから」

「分かりました、お引き受けします」


無難な組み合わせだろう。それに、元々木村さんはかぐやと対戦したくて入団したのだから悪くない取り引きだと思う。


まっ、荒木さんは少し納得いかないご様子ではあるけど。

それよりも、新人達は木村さんが口にした『メインの組み合わせは決まっている』と言う言葉が、何か腑に落ちない様子だ。


そしてその様子が、次に佳華先輩が発した言葉で驚愕へと変わる。


「第三試合が、あたしとバイソン絵里奈。そして第四試合――メインイベントは、かぐやと優月を考えている」


目を見開いて、言葉を失う新人達……

まっ、予想通りの反応だな。


「異論が有るヤツは――」


そう言うが早いか、言葉の途中で勢いよく挙がる三本の手。


まっ、この反応も予想通りだ。

そしてその反応を見て、佳華先輩は口元に笑みを浮かべた。


「嬉しいよ。お前達がタダのイエスウーマンじゃなくて、自分の意見をハッキリ言えるヤツらだっていうのはな――でも、先に言っておくぞ。この業界で序列は絶対だ。下の者が上に逆らうのは許されない」


新人達の表情が曇る……

当然そんな事は分かっていたであろう。しかし、佳華先輩の言い方に新人達は不信感を隠せずにいた。


それでも、そんな事は見越した上で話を続ける佳華先輩。


「しかし……だ。ウチの場合、この序列っていうのが少し変わっていてな。序列を決めるのは年功ではなく実力だ――愛理沙、この意味分かるか?」

「えっ? え~と……異論があるのなら実力を示せ……と?」

「その通りだ! もし優月がメインを張る事に文句があると言うのなら、優月よりも実力が有るってところ見せてもらう事になる」


佳華先輩はここで一旦話を区切り、新人達を睨みつけるように見渡してから、息を大きく吸い込んだ。


「もう一回聞くぞっ! 異論があるヤツはいるかっ!?」


再び勢いよく挙がる三本の手。その新人達の行動に、佳華先輩は満足そうな笑みを浮かべた。


「おーしっ! それじゃこれから、お前達には順番に優月と試合をしてもらう。優月が三人抜けなければ、お前達の勝ち。三人抜いたら優月の勝ちだ」

「えっ? そ、それじゃあ優月さんは、三試合連続で戦うんですか?」

「そういう事だ」


山口さんの疑問に、軽い感じで答える佳華先輩。


「それはいくらなんでも、わたくし達に有利すぎるのではないですか?」

「そうッスよ、俺らナメ過ぎッス!」


今度は、一人称が「わたくし」と「俺」っていう対極にある二人から抗議の声が上った。

有利な条件に抗議をするとは、中々にプライドが高い。


「って、事らしいが――優月の方は、何か問題あるか?」

「そんなん、あるに決まってるじゃないですか!」


佳華先輩の問い掛けに、即答するオレ。


「一応、聞こうか?」

「この服ハズいんで、ジャージかなにかに着替えたいです」

「却下だ」


オレの要望に、即答する佳華先輩。


「他には?」

「給料上げてく――」

「却下だ」


今度は、言い終える前に即答する佳華先輩……

まっ、分かってはいたけどね。


「ちょいと優月さん! そういう事ではなく竹下社長は、わたくし達三人と続けて試合する事に問題はないかと仰っているのですわっ!」

「んん~……そっちは特に問題ないかな」


オレ達のボケに真顔でツッコむ新鍋のお嬢さまへ、軽い感じで応えるオレ。

そして、その答えに新人達の顔付きが険しくなった。


当然だ。オレの態度は、どう見ても彼女達をナメ切っているようにしか見えない。

ただ、本当にナメているわけではなく、立場上あえて憎まれ役をやっているだけであるので、誤解はしないでもらいたい。


「優月の方は問題ないそうだ。それじゃ誰から行く? 当然、あとの方が有利だけど、あとからだと場合によっては出番が無くなるかもしれないぞ」

「当然、俺ッチからだ!」

「何を仰っておりますの? わたくしからですわ!」

「いえ、わたしから行かせてください!」


オレの態度が闘争心に火を着けたようで、先を争う新人達。

それじゃあ、順番が決まるまで柔軟でもして、ウォーミングアップしときますか。


レッスルプリンセス~優しい月とかぐや姫~

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