「すき。」
リビングの一室、奥のキッチンからは怪しくも蛇口から水滴が溢れ落ちている。ベランダから差し込む15時の日差しが質素な部屋に乱反射して、不気味に影を落としていた。
凍てつくような冬の外気が窓とカーテンの隙間から絶え間なく入り込んでくる。いや、そんなことにすらも気が付かないほどこの場は酷く荒んでいた。リビングに差し込む日差しを直に受けたサボテンはいつもの日常だと主張せんばかりに蕾を咲かせている。
「なんだよ、急に…。」
レオは凪から距離を取るようにそっと数歩後ろにたじろいだ。しかし凪はそれを見逃してはくれなかったようだ、レオとの間合いを一気に縮めると強引にレオの手首をその大きな手で掴みとった。
「っ、いた、」
「俺本気だよ。ねえレオ、レオなら分かるでしょ?」
手首の痛みに顔を歪めるレオとは逆に無表情のまま凪はレオに顔を近づける。凪の目には確かな熱が籠っっており、2人の距離は互いの鼻先が触れ合ってしまうほどに密着している。凪はレオの細い腰を撫でるように触ってみるがレオはその淡い期待とは裏腹に逃げるように腰をうねらした。その行動が意味するのは紛れもなく拒絶である。さらにレオは凪の手を思いっきり振り払い、軽蔑とも取れるそんな目線で凪の顔をじっと見上げた。
「分かるわけねえだろ、俺とお前はそんなんじゃねえから、、」
相棒
「なんで、俺とレオはパートナーでしょ?これからもずっと…」
業務提携
「何を勘違いしてる、、?俺らは“パートナー“だろ?」
「…は?」
その言葉を聞いた瞬間凪の中で何かが切れる音がした。今まで保ってきたものが音を立てて弾け、暗闇に溶け込んでいく。今までレオに抱いてきた感情全てが当の本人に完全否定されてしまった、そんな気さえもしてくる。凪の心は虚空そのものになった。レオに想いを否定された今、凪に残るものは何もない。
「…そっ…か。なら、いいよ。」
凪は壊れた機械仕掛けの人形のように言葉を詰まらせながら淡々とそう呟いた。凪から放たれるイヤな雰囲気を感じ取ったのであろう、レオは1歩また2歩と後ろに後ずむ。その度にひたひたとフローリングの床が不気味に音を立てていく。レオの毛穴からは冷たい冷や汗が湧き出では頬を伝って流れていっている、その繰り返し。リビングに立てかけてある古時計からは危険信号を醸し出しているかのように騒がしく音を立てては針が揺れていた。
「なぎ、、?」
レオは浅い呼吸を繰り返しながら凪の名前を呟いた。凪は聞こえていないのか、はたまた聞こえないふりをしているのか。彼からの返事は返ってこずレオのつっかえた声だけが虚しくもリビングに響き渡る。ついに追い詰められたレオは怖気付いた小動物のように縮こもってはソファに倒れ込む。凪はそんなレオの腕を1つも表情を変えないまま掴み取った。今度は離されないように強く、痣ができてしまうほどに。レオは凪をかつてないほどに恐ろしく感じていた。本来なら数センチ程度しか変わらない身長も今は何10センチも差があると錯覚してしまうほどに凪は強く大きな獣のようにも見える。凪の動作1つ1つに体が強張り、嫌な動悸がレオの全身を脈打っている。
「待て、なぎ…待って、まっ…!」
凪はレオの静止に聞く耳すら持たずレオの声を噛み砕くように彼の唇に噛み付いた。ジュウジュウとレオの薄く魅力的な唇を吸っては何度も角度を変えながら唇と唇を重ねる。
「んっ、んう…っ」
呼吸をしようとレオが口を開けた瞬間、凪は獲物の好奇を狙っていた蛇かのように自身の舌とレオの舌を絡めさせた。いきなり口内に侵入してきた凪の舌にビクつき、肩を跳ねらせたかと思うとレオは凪の存在すらを拒むように彼の巨体を押し出した。しかしそんな抵抗は無意味だと言わんばかりに、凪はビクとも動きはしない。リビングにはいやらしいリップ音とレオの吐息だけが空中を渦巻いている。キスを拒もうと首を背けようとしたとしても、顎を掴まれ無理やり舌を捩じ込まれる。かと言って隙をついて逃げ出すにも両手を凪の大きな片手で拘束されていては逃げ出す隙もない。
「ふっ…ぅ…あ…はぁはぁ…っ」
チュパッと音を立てねがらようやく舌が抜かれ唇が離れたかと思うと凪は自身の腰に手を伸ばしカチャカチャとベルトを外していた。表情は先と変わらず一体凪が何を思い実行しているのかレオには到底理解できるものではなかった。
「は……?おい、何するつもりだよ凪…!」
どちらのものかも分からない銀色の唾液がレオの口の端から溢れる。そんな事実を認めないというかのようにレオは唾液を拭い取った。凪はその様子をいつものあの無表情な顔で見下している。レオには理解できなかった。俺の大切な唯一無二の宝物。レオはいわゆる“ソッチ“の人間ではないし、凪のことを恋愛的にはもちろん性的な目で見たことなど1度もなかった。共に夢を誓ったパートナー、これからもずっと一緒の友達。そう思っていたのに。
「舐めて。」
「…は?」
凪はまだ息も整っていないレオの顔の前にボロンと自身のモノを曝け出した。レオは一瞬驚きはしたもののすぐに青ざめた顔に変貌し凪のソレから目を背けた。
「…それではいわかりましたって男のちんぽ舐めるわけねえだろ…?凪、お前今日どうかしてるぞ。さっきあったことは全部忘れてやる、だからこんなこともうやめよう、な?」
レオは凪の頭をふわふわと撫でた。優しいいつもの声色で。その手つきはまるで聞き分けの悪い大型犬を躾けているようにも、わがままの言う子供を宥めているようにも見える。凪はそんなレオの心境を悟ったのだろう、自身の頭を優しく撫でるレオの手を払いのけた。
「…俺はレオのペットでも子供でもないよ。俺が欲しいのはレオだけなのになんで分かってくれないの?」
凪は少しだけ、そうほんの少しだけ悲痛そうに顔を歪めた。
「レオがわかってくれないんだったら俺、他の子にも同じことしちゃうかも。」
「…っ〜!?やめろよ、他の奴らは関係ねぇだろ、、…」
「レオのフェラが上手かったらやらないけど。」
「…くそ…っ…!」
レオは凪の眼光を鋭く睨み上げ投げやるように目の前にある凪のモノを先端から小さく咥え込んだ。レオの目からは屈辱からなのか、羞恥心なのかわからない生ぬるい涙が頬を伝って流れ落ちる。レオは凪のモノの先端にキスをするように何度も唇を押し当てた。反応がないのが分かったら次はレオ持ち前の長い舌で上下にゆっくりと動かす。その繰り返し。凪は少しだけ体を跳ねらせ反応を見せた。「イイトコはここだな。」レオはそう確信し、舌をぬるぬるとスローモーションに動かしながら凪のモノを必死に舐め続けた。早くイかせてこんなこと終わらせたい。レオの頭にはそんな考えしか存在していなかった。
「あ〜っ♡ソコ気持ちいよレオ…」
凪は気持ちよさそうに甘ったるい声をあげた。微かに頬は赤ずいており彼の興奮具合がその表情、仕草から見て取れる。
「ん…っ…ふっ、、っ…」
レオは微かに吐息を漏らしながら大きく根太い凪のモノを必死で舐め続けた。当然だか、レオの小さな口先では全て咥え込むのには無理がある。しかし凪はそんなレオの限界も気持ちをも無視するかのようにレオの後頭部を思い切り掴むと無理やり自身のモノを奥まで咥え込ませた。
「んぶっ…!?」
「もっと奥まで気持ち良くしてね。」
凪はそう呟くとレオの後頭部をまるでオナホールを扱うかのように激しく上下に振り出した。
「うっん…!?んっ…!!んぅ…っ!」
レオは呼吸することすらも許されず、何度も何度も喉奥を突かれては途切れた嗚咽を漏らしていた。抵抗などできるわけもなく本当にただオナホールのように凪のモノを必死で気持ちよくさせる。彼にできることはそれしか残されていなかった。
凪の手は止まるどころか速度を上げてレオの後頭部を上下に振り続ける。レオはその大きな瞳から大粒の涙を溢していた。
「〜っ…!!レオ出すね。」
凪は小さく甘い息をおろすと自身のモノをレオの喉奥で繋ぎ止め、口内で射精した。
「あ〜っ…あぁ〜♡」
レオの口内からはドロドロとした凪の濃い精液がこぼれ落ちては床に垂れる。
「あがっ…ぁ…げっほ、、っ…!…おぉえ…っ…」
口内に広がる苦い精液の味と遅れてやってくる猛烈な吐き気。レオは口に出された精液を込み上がってくる吐瀉物と共に吐き出した。
「おっぉ…え…っ…はっ…っ…うっ…ぇ」
涙と吐瀉物、涎と精液が混沌と混ざり合う。レオは治らない吐き気と凪に対する嫌悪感から何度も何度も繰り返し嗚咽をあげた。それでもやっと終わったという安心感からかレオの表情は落ち着いているようにも思えた。しかしあろうことか凪はレオのベルトに手をかけるとそのまま下にズボンを下ろし、ソファの横に投げ捨てた。
「は…?なんで…もう終わったんじゃ…っ…」
「だってれお、おれのせーしごっくん出来なかったし。レオが俺のものになるまでやめるわけないじゃん。」
「レオはカワイイね。」
「レオはカワイイね。」その言葉がレオの頭の中でうるさく反響する。不敵に笑みを浮かべた凪の顔が脳にこびりついてしまったように離れることを許してはくれない。もはやレオの心には絶望しか存在していなかった。
「こんなの、レイプだろ……」
レオが酷く怯えた顔でそう呟いたのを否定するかのように、凪は優しく唇にキスを落とした。
「ふ…っ…あっ…っ…あぁ…っ…」
パチュパチュといやらしい水音がリビングの中で反響する。隙間の開いたカーテン、外から微かに聞こえてくる子供たちの笑い声、それらはどれも凪の心を昂らせる材料に過ぎなかった。凪がレオの奥を突きあげるたびに2人用のソファはガタガタと音を立てて揺れる。
「あ…っ…!?またイぐ…やだ…やら…っ!!」
もう何度目かも分からない絶頂にレオは膝を震わせる。ソファーのシーツにはレオの乾いた涙と精液が所々に染み付いていた。
「レオ気持ちいんだね。良かった、でも俺まだイってないからもうちょっと頑張ってね。」
「もうむり…っ!!やだ…っ…やだぁ…っ!!」
手首は近くにあったネクタイで拘束され、手を付くことすらも許されない。そして腰はガッシリ凪の両手で固定され襲ってくる快楽から逃げ出すこともできない。今のレオに出来ることといえば精々、奥を突かれる度に喘ぎ凪の欲望が収まるまで耐えることぐらいであろう。
「あ、あぁ…っ…ひぐ…っ…」
「レオ、レオ…っ!中出すね、ちゃんと受け止めてよ。」
「あぁ…っ…中はダメぇ…っ…やだあ…っ!!」
凪はレオの耳元でねちっこくそう呟くと腰をうねらすレオの中に自身の熱い精液を射精した。
「レオはヤダヤダばっかだね、嬉しいくせに。」
「ほんとに、やだから…ぁっ…!あ…あぁ…」
凪はレオの頬を伝う涙を優しく指で拭き取る。そしてそのままビグビクと痙攣をやめないレオの中をさらに激しく突きあげた。
「まっで…ぇ…っ!!まだイッてる…っ!イッでるからぁ!なぎぃ…っ!!」
「やめないよ、レオここ好きでしょ。」
絶え間なく襲ってくる快楽から逃げようとソファーのシーツを掻き乱すレオの腰をホールドし、俺からは逃げられないぞと比喩しないばかりに速度を上げてレオの奥を攻め続ける。何度も何度もイき狂い、声も枯れ果ててしまったレオの状態など関係ないかのように凪は目の前にある快楽を求め続けた。
ビュルルル…
先程よりかは薄い透明にも似た凪の精液がレオの中に射精された。凪のモノがレオの中から離れた時、レオの中からはドロドロと混ざりあった白い精液が床にこぼれ落ちていく。
「ねえレオ、気持ちよかった?」
凪は満足したような高揚したような、そんな表情でレオの顔を覗き込んだ。
「……だと…」
「え?」
「友達だと思ってたのに…っ!!」
レオは呼吸を乱しながら凪の瞳孔を睨みあげた。その目付きからは凪に対する憎悪、嫌悪感がむき出しにされており彼の中の怒りと悲しみがヒシヒシと伝わってくるようだった。凪はそんなレオの表情からも気持ちを汲み取れないのかキョトンとした表情で彼の目を見つめている。
「なんで、俺らはもう恋人でしょ?セックスだってしたし、キスもした…。ねえレオ、なんでそんな顔するの?」
凪の毛穴からは妙な冷や汗が湧き出ては頬を伝う。動悸が止まらず下に俯き虚ろな目をするレオの顔に凪は不気味さを覚えた。
オナニー
「お前がしてんのはただの自慰行為だろ…っ?何を今更清楚な言葉で飾ろうとしてんだ…?お前はもう、いらない。消えてくれよ!!」
「…え…、?いらないって…なにそれ…、?どーいうこと…」
「お前はもういらない。」レオの放ったその一言に心臓がドクンと激しく脈を打つのが分かった。凪には理解できない言葉だ。レオに求められている、レオは自身のことが自身と同じように好きだと、そう認識しているからだ。嫌よ嫌よも好きのうち、性体験のない凪にはレオのストップがプレイの一環だったのだとそう思い込んでいた。いや、凪の考え方は根本的に間違っている。歪んだ愛は果たして愛と言えるのだろうか?レオの言う通り、彼がレオにしてきた事はセックスではなくただの自慰行為だったのかもしれない。
「お前はもう俺の宝物じゃねえって言ってんだよ!!消えろ!!」
レオは凪の顔に見向きもせず、しゃがれた声でそう怒鳴った。レオの肩は小刻みに震えており呼吸もかなり乱れている。手首と腰には醜い痣がこびり付いており、先の行為の厭わしさがレオの表情、仕草から簡単に見て取れる。
「…分かった…。ごめん……。」
凪はレオのそばにあるテーブルに何かを置くと、衣類を纏い静かにリビングを後にした。凪がいなくなったリビングには、冷蔵庫のコンプレッサー音と古時計の規則正しい音が虚しくも響いている。
「謝ってんじゃねえよ…っ…くそ…、、…」
レオは酷く悲痛そうな顔をしながら、ソファーのシーツを引っ掻いた。レオのそばにあるテーブルには合鍵だけがそっと置かれてあった。
「あ…っ…あぁ…っ!うっ、、あ…ぁ…」
それぞれ子供たちがウチに帰る夕刻、レオは1人、空虚な部屋で合鍵を握りしめながら小さく嗚咽を漏らした。
コメント
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初コメント失礼します。 え、まじでヤバいですね⁉️ 小説家もうなれますよ‼️ 感動しました、虚しさもありながら性行為のことをこんなに上手に表現してその場の情景を描き出されるかのように頭に浮かんできました。素晴らしすぎます……。