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「親父、朝っぱらから呼び出して、何の用だ?」

「いい加減、会社では社長と呼べ」

「(ちっ、めんどくせーな)……社長、ご用は何でしょうか? まさか朝からそれだけのために呼び出したわけじゃないだろうな」


出勤早々、父である社長に呼び出され、颯斗は社長室へ向かった。朝からテンションが低く不機嫌だったが、この後の父の言葉でさらに機嫌が悪化する。


「お前、また秘書を辞めさせたそうじゃないか」

「それはっ……! あの女が俺の彼女面するからだ」

「ふん、そう勘違いさせたのは、お前じゃないのか?」

「んなつもりはない!」


秘書として最低限の仕事はこなしていたし、外見も悪くなかった。連れて歩けば颯斗のステイタスも上がる――そんな下心がなかったわけではない。だが、一度寝ただけで彼女面するとは思ってもみなかったのだ。


「はぁ……わが子ながら情けない」

「何が言いたい?」

「だから俺は決めた。お前が社長になる条件は――結婚して家庭を持つことだ」

「はぁ? 俺は結婚なんてしないぞ!」

「だったら海斗に社長のイスを譲るか?」


サクライウエディングは颯斗の父・貴斗が創業し、今や日本屈指の会社に成長している。御曹司である櫻井兄弟は、イケメン兄弟として世間でも有名だ。


「海斗が継いだら、すぐ倒産するぞ」

「そう思うなら、結婚するんだな」

「くっ……」


父の決定は覆らない。つまり、颯斗には結婚しか道が残されていなかった。


「先に言っておくが、偽装結婚なんてすぐバレるからな」

「……」


心の中で描いた作戦が、一瞬で見抜かれる。


「由紀子はユリさん推しだから、うかうかしてたら彼女と結婚させられるぞ」

「それだけは断る!」


ユリは、ローズガーデンを経営する花咲健司の一人娘で、可愛らしく見える容姿に騙される男もいるが、ワガママで腹黒い。昔から颯斗のことが好きで絡んでくるが、正直勘弁してほしいと思っている。


弟の海斗は未だにユリの本性を知らず、兄をライバル視している痛い奴だ。そして、なぜかユリは颯斗の母――颯斗にとっては義母である由紀子に気に入られている。事あるごとに、ユリを勧めてくるのだ。この時の颯斗は、由紀子の本意が別にあることに気づいていない……

「ああ、それから新しい秘書を用意しておいた」

「はぁ? どういうことだ?」

「お前の腐った根性を鍛え直してもらうためだ」

「ふんっ」


到底納得はしていない。だが、ここで反抗しても無駄だ。


「知り合いのお嬢さんでな。才色兼備で、お前を任せられるのは彼女しかいない」

「どうだか」

「それと――絶対に手を出すなよ! まあ、相手にされないと思うけどな。精々、精進するんだな」


父の言葉がグサリと胸に刺さる。言い返せず、悔しさを飲み込みながら颯斗は社長室をあとにした。


(新しい秘書、か……。親父があそこまで褒める女って、どんな奴だ? どうせそのうち“抱いてほしい”って言ってくるんだろ。その時は不可抗力だから、親父、悪く思うなよ)


颯斗は御曹司というだけで周囲からチヤホヤされ、仕事でもそれなりの結果を残している。天狗になるのも当然だった。


(結婚しようと思えば、相手なんていくらでもいる。けど束縛されるのはゴメンだ……。はぁ〜、どうすっかな……)


――サクライウエディングは、全国主要都市に邸宅型の結婚式場を展開。地味婚や式を挙げない若者が増える中でも、顧客のニーズに合わせた提案で安定した業績を誇っていた。特に、晩婚でこだわりの強いカップルに絶大な人気を得ている。


「「おはようございます! 颯斗専務!」」

「ああ、おはよう」


「今日も爽やかで素敵ね!」

「朝からラッキー、テンション上がる〜」


女性社員の声は、颯斗の耳にもしっかり届いていた。


(俺の魅力に気づかない奴なんて、いない)


ふと、幼い頃の記憶が甦る――


幼稚園のころ、由紀子に連れられて参加したお茶会。庭園の大きな池で鯉を眺めていると、女子たちが颯斗の隣を取り合い、もみ合いの末、一人が池に落ちてしまう。誰も動けなかったが、一人の女の子が飛び込み、びしょ濡れになりながら助け出したのだ。


『あんた達、何をぼさっとしてるの! すぐに大人を呼んできなさい!』


その声に走り回って遊んでいた男子が、泣きながら走り出す。この時、颯斗は足が竦んで動けなかった。助けた少女は颯斗をキッと睨み、そのまま姿を消してしまう。あの後、大人が大勢押し寄せてきて大騒ぎになったが、少女が現れることはなかった。


女性に睨まれた記憶――最初で最後だった。なぜ今、思い出したのかは分からない。


***


――コンコン


専務室の扉がノックされる。


「はい」

「失礼いたします」


若い女性の声とともに扉が開く。颯斗はまだ書類に目を落としたままだ。


「本日より秘書を務めます、嵯峨美玲(本当は嵯峨野だけどね)と申します」

「ああ、親父が言ってた子か……」


顔を上げた颯斗は衝撃で固まった。


黒のパンツスーツ、ひとつに結んだ髪、分厚い黒縁メガネ――そこに立っていたのは、颯斗が思い描く才色兼備とはほど遠い、地味な女だった。


(親父……ボケたか? 才色兼備? 相手にされない? 冗談じゃねえ。こっちが願い下げだ。間違いを犯すこともねえけど……本当にこの女を連れて歩くのか? 地獄だな……)


引き攣った笑みを浮かべる颯斗。その視線を冷めた瞳で返す美玲。


(この視線に既視感を感じるのはなぜだ?)


ふたりの間に、微妙な空気が漂っていた。

地味な秘書は名家のお嬢様⁉~御曹司の子守は大変です~

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