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あんり
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結@た に ぎ し 。
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るる
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こんにちは、偏食家です。偏食家とかいてるると呼びます。🩷さんの右が少なくて飢えかけているので自給自足がてら投稿します。
さんぱちは新参者状態ですので、口調など違くてもお手柔らかに…🙏💧
愛は麻薬だ。合法的で、誰もが一度は手を伸ばす麻薬。だからこそ、それを手にした人間は傲慢にも、自分だけは溺れないと錯覚してしまう。
柔太朗がそれを知ったのは、八年前のことだった。
追加メンバーとして加入したばかりの頃、柔太朗はまだ、メンバーの中で自分がどこに立てばいいのか分からなかった。特段、仲が悪いわけでも、拒まれているわけでもない。ただ、すでに出来上がりつつある輪の中へ入っていくには少しだけ勇気が必要で、その勇気をすり減らすくらいなら、一歩後ろでみんなが笑うのを眺めている方が楽だった。
そんな柔太朗に、何のためらいもなく手を伸ばしたのが勇斗だった。
「柔太朗、これ食べる?」
唐突に差し出されたお菓子に、柔太朗は一瞬だけ目を瞬かせた。柔太朗の好きな、甘味だった。
「……いいの?」
「いいよ。俺いらないから」
ただ、それだけだった。
勇斗は、柔太朗を救おうとしたわけではない。馴染めていないことを特別気にかけたわけでもなく、ただそこに柔太朗がいたから、息をするように声をかけただけだった。
それなのに、その無意識の優しさが、柔太朗の奥深くに沁み込んでしまった。
それから少しずつ、勇斗の隣にいることが増えた。
面白いことがあれば一番に話したくなったし、上手くいった日は誰より先に褒めてほしくなった。反対に、何もかも上手くいかない日は、ただ無言で隣に座っているだけで息がしやすくなった。
いつからだったのかは、覚えていない。
気づいたときには、好きだった。
勇斗の方も、きっと似たようなものだったのだろう。
何か面白いことがあったとき、誰かに話すより先に「この話、柔太朗にしたいな」と思うことが増えていって。そんな自分に気づいたときには、もう答えなんて決まっていたはずだ。
劇的な出来事なんて、何一つなかった。
気づけば隣にいて、気づけば触れる温度にも慣れて、気づけば一日の終わりに顔を見なければ少し物足りなく感じるようになっていた。
だから、二十歳になった柔太朗が少しだけ背伸びをして、「勇ちゃん」と呼んだときも、勇斗は何も知らない顔で「ん?」と笑った。
「俺、もう二十歳だよ」
「ああ!柔太朗おめでとう!」
「……そうじゃなくて」
「じゃあ何?」
「俺、勇ちゃんのこと好きだから」
「うん」
「……うん?」
「俺も好きだよ」
あまりにも普通に返されて、柔太朗の方が言葉に詰まってしまった。
「いや、そうじゃなくて……俺ら、付き合ってるってことでいい?」
勇斗はしばらく瞬きをして、それから目を丸くした。
「え、俺ら付き合ってなかったの?」
「……勇ちゃん」
「まじ?」
「うん」
「付き合ってるって思ってた俺が、一人で自惚れてるみたいじゃん……」
耳まで真っ赤にして俯いた勇斗を見て、柔太朗はとうとう吹き出した。
「何笑ってんの」
「ごめん」
「絶対ごめんと思ってない」
「思ってるって」
「嘘」
肩を叩いてくるその手を、そっと捕まえる。
勇斗が笑う。
柔太朗も笑う。
それだけだった。
それからも、二人は何も変わらなかった。
人前でも距離は近いままで、勇斗が眠くなれば当然のように柔太朗の肩へ寄りかかり、柔太朗が疲れた顔をしていれば、勇斗は何も聞かずに隣へ座る。仕事が終われば「お疲れ様」と言い、何かをしてもらえば「ありがとう」と言う。
帰り道にコンビニへ寄れば、どちらからともなく何かを買って、二人で半分こにする。冬は温かい肉まんを二つに割って、どちらの方が大きいだの小さいだの、そんなくだらないことを言いながら笑う。
たまには、どちらかの肩で眠ってしまう。
起こさないように、しばらくそのままでいる。
そんな時間を、二人は何度も繰り返した。
特別なことなんて何もない。
けれど、その何もない時間が、二人には確かな幸福だった。
それで、よかったはずだった。
愛は、一度与えられるとひどい喉の渇きを催す。
昨日までなら十分だった「好き」が、今日はもう一度欲しくなる。昨日まで嬉しかった隣が、今日は自分だけのものになってほしくなる。
勇斗が他のメンバーと話していることなんて、今まで何度だってあった。それなのに、勇斗が誰かの隣で笑うたび、誰かの肩に触れるたび、柔太朗の胸の奥には小さな棘のような違和感が残るようになった。
怒っているわけじゃない。
そんなことくらい、分かっている。俺もいい歳した大人だ。
ただ、少しだけ、寂しかった。
「勇ちゃん」
「ん?」
「今日、俺とはあんまり話してなかったね」
「そうだっけ?」
「うん」
「ごめん」
「謝ってほしいわけじゃない」
「じゃあ、何?」
「……別に」
勇斗がじっと柔太朗を見る。
柔太朗はそっぽを向いた。
怒っているわけではない。ただ少し慰めてほしいだけなのだと、勇斗はちゃんと分かっている。だから何も言わずに隣へ座って、肩を寄せてくる。
「寂しかった?」
「……少し」
「そっか」
「うん」
「じゃあ、今沢山話そ」
勇斗が笑う。
それだけで、胸の奥で強張っていたものが少しずつほどけていく。
だから柔太朗は、愛されているのだと思った。
勇斗が仕事で上手くいかず、珍しく自信をなくしていた日も、柔太朗は隣にいた。
いつもなら笑って済ませるような失敗を気にして落ち込む勇斗に、柔太朗は無理に励ますことはせず、話したくなったら聞くからとだけ伝えた。
その夜、勇斗がぽつりぽつりと話し始めると、柔太朗は途中で遮ることなく、最後まで相槌を打った。
「……俺、ちゃんとできてないのかな」
「そんなことないよ」
「でも」
「勇ちゃん」
「うん」
「今日は俺が聞くから」
勇斗が顔を上げる。
「何があったか、話してくれる?」
しばらく沈黙が落ちたあと、勇斗はまた訥々と話し始めた。
全部聞き終わってから、柔太朗は優しく笑った。
「俺、もう勇ちゃんにずっと守られ続ける子供じゃないんだよ」
勇斗は少し驚いた顔をして、それから安堵したように目を細めた。
「……そっか」
「うん」
「じゃあ、頼っていい?」
「もちろん」
その言葉が、たまらなく嬉しかった。
勇斗の隣に立てる。支えられる。そう思えた。
だから、ずっとこのままでいられると思っていたのだ。
これだけ近くにいるのだから。これだけ愛し合っているのだから。きっと何も失わないのだと。
そんなふうに、信じ切っていた。
そんな、ある日のことだった。
「柔太朗」
「ん?」
「少しだけ、離れた方がいいのかな」
その言葉だけが、ひどく鮮明に鼓膜を打った。
勇斗は俯いていた。
「俺も、ちょっと疲れてて」
「うん」
「柔太朗が嫌いになったとか、そういうことじゃないよ」
「うん」
「ただ、柔太朗に迷惑かけないように、少しは一人になった方がいいのかなって」
柔太朗は黙った。一瞬、何を言われたのかがわからなかった。
勇斗を見る。
いつもと同じ、優しい顔だった。
それなのに、紡がれた言葉だけがどうしても理解できない。
「……嫌だ」
「柔太朗」
「嫌だよ」
自分でも驚くほど早く、声が出た。
「なんで離れるの?」
「だから、少しだけ――」
「俺も愛してるし、勇ちゃんも俺を愛してるんでしょ?」
「……うん」
「じゃあ、どうして?」
勇斗が黙る。
その沈黙が、途方もなく怖かった。
「どうして逃げるの?」
「逃げてるんじゃないよ」
「じゃあ何?」
「柔太朗……」
「ねえ」
息が浅くなり、呼吸が速くなる。それから、鼓動が強くなった。
目の前からいなくなる。その可能性だけが頭の中を黒く塗りつぶしていき、それ以外のことを考える余地がなくなっていく。
「どうして、俺を狂わせるの?」
勇斗の瞳が揺れる。
「どうして?」
答えは、ない。
「ねえ、どうして?」
離れるなら、引き留めたかった。
そう思ったのかもしれない。ただ、勇斗が自分の前からいなくなることが怖くて、考えるより先に手が動いたのかもしれない。
伸ばした手を、はっとして自分で止める。
自分が何をしようとしたのか、考えたくもなかった。
勇斗が少し怯えたようにこちらを見ている。
その目を見て、ようやく気づいた。
指先に触れている、確かな温度。
柔太朗は自分の手を見た。
どうして。
どうして、俺は今、彼の喉仏に触れている?
指先が氷のように冷たかった。
勇斗の喉が、小さく上下に動く。
その瞬間、柔太朗は弾かれたように手を離した。
「……ごめん」
声が掠れる。
「ごめん、勇ちゃん…」
勇斗は何も言わなかった。
ただ、静かに柔太朗を見ていた。
嫌われたくない。離れたくない。
それだけだったはずなのに、どうしてこんなにも自分が恐ろしいのか、柔太朗自身にも分からなかった。
やがて勇斗が、そっと柔太朗の震える手に触れた。
「柔太朗」
「……うん」
「大丈夫だよ」
その声を聞いた瞬間、限界まで張り詰めていた糸が少しだけ緩んだ。
まだ、ここにいる。
まだ、名前を呼んでくれる。
まだ、手を握ってくれる。
それだけでよかった。
そう、思ってしまった。
「散歩しよ」
勇斗はいつも通りに言った。
まるで、さっきまでのことなんて何もなかったように、ほんの少しだけ笑って。
柔太朗も頷いた。
二人で夜道を歩いた。
途中で、勇斗があんまんを買った。
いつものように半分に割った。
白い皮の中から覗いたあんは、どす黒かった。
柔太朗は一瞬だけ、それを見つめた。
それはまるで、何が入っているのかも分からないまま、幼子が鍋の中身を煮詰めてしまったみたいな色だった。
けれど、何も言わなかった。
「熱いから気をつけて」
「うん」
それでも、受け取って口にした。
勇斗が笑う。
柔太朗も笑った。
何もなかったみたいに。何も変わっていないみたいに。
そのあと、勇斗が眠くなって柔太朗の肩へ寄りかかった。
柔太朗は何も言わず、その心地よい重みを受け止めた。
いつもと同じだった。何も、何一つ変わっていない。
だから、二人とも笑ったのだ。
愛は麻薬だ。
一度知ってしまえば、もう知らなかった頃には戻れない。
傷ついても、痛くても、それでも手放せない。
喉が渇くたびに、また欲しくなる。
足りなくなるたびに、また飲み干してしまう。
互いの手から、互いの声から、互いの愛を。
何も変わっていないふりをして。
今日も、二人で、半分こにして。
「俺は、何も傷ついてないよ」
勇ちゃんが、夢の境界からかすかに届く、たゆたうような声でそう言った。
無性に、自分が理由で傷ついて欲しかった。