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俺たちはその病院の先生に色々調べられた。痛いことや苦しいことはほとんどなかった。注射で血を取られたくらい。ヒロトもアキラも怪我が少なくてよかった。あんな想いをするのは俺だけで十分だ。いくつか質問もされていたが俺はあまり答えられなかった。その代わり、ヒロトとアキラが答えてくれた。会話の内容を聞く限り、先生の名前は上原美紀というらしい。おかしな病を専門に研究している人でいまだに治療方法が見つからない病気も見ているのだという。

「痛かっただろ、しばらく休んでいくかい?」

休まなくてもいい。俺は首を横に振った。早くどこかへ三人で逃げてしまいたい。その気持ちの方が強かった。

「終わったよ。」

彼女が出ていくのと同時に俺たちも部屋を出る。部屋の外には二人の男と一人の女が待っていた。二人はさっき俺たちを連れだしてくれた人だった。

「こいつは薔薇咲病、こいつは宝石病、こいつは狂獣病だ。」

三つとも聞いたことがない言葉だ。この人は何を言っているのだろう。なんかいろいろと説明をしているみたいだけれども、何を話しているのかはさっぱりだった。

「玲子みたいに何年で死ぬとかは?」

「ないよ。三人共治らないけど人と同じように死んでいく。」

「よかったなー坊主たち。」

連れ出してくれた男は俺たちの頭をわしゃわしゃと撫でてきた。優しくて、大きな手で、その手からは温もりが感じられた。女の人はどこかへ電話をかけていた。

「もしもし、優香?……うん、終わったよ。それで一つ相談なんだけどさ……今日保護した三人、私名義で養子にしてもしていいかな。」

聞き間違いだろうか。この人、今俺たちを養子にするって言ったような。彼女が電話を切ると車を運転していた男が驚いた表情をしていた。

「玲子、お前正気か!?」

「えぇ。」

「養育費はどうするの?」

「それなら私の星屑を使えばいい。有り余っているし。高値で売れるし。」

「君たち、私の家に来ない?」

俺たちはきょとんとした顔をした。こんな孤児院の先生よりも若い人が俺たちを引き取って親になってくれるというのか。いや、騙されてはいけない。きっとこの人も俺たちになにかするつもりなんだ。俺はこの人をじっと見つめながらそんなことを考えていた。

 玲子と名乗ったその女は自分の事務所があるビルに俺たちを案内すると優香という玲子の姉に会わせてくれた。彼女は

「いい子たちじゃないか。」

そう言って俺たちの頭をなで、玲子に雨宮家の所有する一軒家があるからそこを使えと話していた。

 その一軒家に向かう途中、俺たちは改めて自己紹介をしあった。玲子は

「新しい家は凪街から電車で三十分程かかる田舎街。そう簡単にほいほい行けるような場所ではないし三人を守れるよう警備システムも張り巡らせた。」

と、話してくれた。実際に見るまでは信用しないようにしようとは考えていた。

「見えてきたぜ。」

「わあ……っ!」

新しい家はなんとも大きく立派な二階建てだった。住宅街の中でもひときわ目立っている。

「これは……目立つのでは。」

「大丈夫だろ、警備システムもあるし、交番も近いし。」

玲子は歩いて十分くらいのところに交番があるのを確認し、車から荷物を取り出した。

「広い広ーい!」

俺たちのうち二人はまだ幼いからかはしゃいでいる。俺はそれに入っていないが。

「見て見て! ふかふかのベッド! すごいよ、ヒロト!」

「ほんとだ! ここ、めっちゃいい匂いする!」

アキラとヒロトがベッドの上で跳ねてはしゃいでいる。

俺は部屋の隅に立ったまま、それを静かに見ていた。

……ここがどんなに居心地のいい場所でも、俺はまだ信用しない。

でも……。

こんな風に楽しそうな二人を見ると、少しだけ「ここで暮らすのも悪くない」と思ってしまう自分がいる。その様子を見ていた運転手の男が話しかけてくる。

「コウタ君の精神年齢は大人だねぇ。」

「ふん。」

俺はそっけなく返事を返した。あまり信用しすぎると何が起こるか分かったものではない。

「ほら、荷物入れるから手伝って。」

「はーい!!」

二人は元気のいい判事をすると車から荷物を取り出すべく走っていった。

「おい、ここは本当に安全なんだろうな?」

俺は玲子にそう聞いた。

「そうだけど、どうして?」

「別に…あの二人が危害にあわないかそれだけだ。」

俺は二人を守りたいだけだ。その思いが伝わったのか玲子は俺の頭をなで、もう一度、ここなら大丈夫と言った。俺は「それならいい」と一言残し車に戻っていった。そしてすべての荷物を運び終わり優香たちと別れると、近くのホームセンターで必要なものを買い、スーパーで夕食の買い物を済ませて家に帰った。

 夕食づくりは手伝った。慣れない包丁を使うことは許されなかったが野菜の皮むきくらいは手伝わせてもらえた。ヒロトは孤児院でも手伝いをしていたため包丁を使い食材を切り、アキラはお風呂掃除に行った。玲子が俺たちをほほえましく見ていたのも気が付いていた。なぜこの人はこんなにも笑顔なのだろう。俺たちがいることはそんなにうれしい事なのだろうか。

「なんだよ」

「んーん?なんでもない。」

やっぱりこの人は変だ。

夕飯を作り終わり、お風呂を沸かしている間に早く食べてしまうことになった。

「いただきまーす!」

アキラが元気よく手を合わせる。

「……これ、本当に食べていいの?」

俺は目の前の食卓を見て驚いた。

大きなハンバーグ、ふわふわのオムレツ、野菜たっぷりのスープ。

どれも温かくて、いい匂いがする。

「もちろん。君たちがたくさん食べられるように作ったんだから。」

玲子が優しく微笑む。

「すっげー! うまい!!」

ヒロトは早速ハンバーグにかぶりついた。

アキラも嬉しそうにオムレツを頬張っている。

俺はそっとスープを口に運ぶ。

……あったかい。

「おかわり、ある?」

気がつけば、俺はそう口にしていた。

玲子は驚いた顔をした後、優しく笑ってうなずいた。

「もちろん。たくさん食べてね。」

ヒロトもアキラも久しぶりの温かい食事に笑顔になっていた。捕まっていたころは冷たくて硬くなったパンしか食べさせてくれなかったから。自然と涙がこぼれる。

「大丈夫。誰もこの空間は邪魔させないからね。」

彼女はそう言って俺たちを抱きしめてくれた。

「ねぇ、三人共。私ね、あと一年もしないうちに死ぬんだ。」

「えっ。」

「そういう病気でね。」

ヒロトとアキラは動揺していたが俺は冷静に聞いていた。

「じゃあなんで俺たちを引き取ったんだよ。いくらなんでも無責任すぎるだろ。」

「うん、ごもっともだね。でもね、三人に私のすべてをささげたいって思ったんだ。私は死ぬと星屑になって散る。その星屑は高く売れるからそのお金で今後も生活していけるし、君たちを大学まで行かせることもできる。」

「そんな……っ。」

「私が死んだあとは優香に任せてあるから安心して。」

「それならいいけどよ……」

するとヒロトがすっと立ち上がる。

「じゃあ、それまでいっぱい思い出作らなきゃ!」

「そうだよ!新しい遊園地とか水族館とか行こうよ!」

「ふふ、そうだね。」

俺はしばらく彼女を見つめた。俺は本当にこの人を信用してもいいのか。いや。考えるのは後だ。俺は二人を守る。つらい思いを二人がしないように。それが俺の生きる目的だから。

 夢を見ていた。俺は獣になっていて、暗く深い森の中を走っていて、どこに向かっているのかもわからなくなって、自分が何者かすらも忘れていて。

あぁ、心地いい。こんなに自由に走ったのはいつぶりだろう。誰にも縛られず、何にも邪魔されず、ただ本能のままに走る。何も考えなくていい。苦しみも、痛みも、すべて忘れられる。

俺はもう、自由なんだ。

そう思った瞬間、崖から落ちて。

「化物」

「気持ち悪い」

そんな言葉が聞こえてきて。

そこで目を覚ました。

もう嫌だ、あんな地獄に落ちるのはもう嫌なんだ。俺は……俺は……オれは……オレは……オレハ……。

イッタイナニモノナンダ。

「あなたは間違いなく人間だよ。それ以上でも、以下でもない。」

優しく抱かれ、ゆらゆらと揺れている。その言葉が脳内でこだまする。

「大丈夫。大丈夫だからね。」

「本当に……?」

「えぇ。本当よ。」

「俺……眠ってもいい?」

「もちろん。」

俺は……人間だ。獣なんかじゃない。化物なんかじゃない。気持ち悪くなんてない。この病気だって、俺の一部なんだ。

俺は、怖いんだ。一人になるのが。一人になった瞬間、心までもが化物になる気がして。

でも、もう恐れなくていい。俺には、ヒロトが、アキラが、この人がいる。

安心して眠りに落ちる瞬間……。

「一体誰が……」

声が震えている。

俺を抱く腕に、ぐっと力が込められるのがわかった。

「一体誰がこんなひどいことを……っ」

玲子の歯を食いしばる音が聞こえた。

俺の髪に顔をうずめ、ぎゅっと抱きしめてくる。

こんな風に、誰かが俺のために怒ってくれたことなんて、あっただろうか。

じんわりと胸の奥が温かくなる。

俺は、その温もりに身を委ねるように、深く息を吐いた。

「……おやすみ。」

玲子がそう囁く。

俺は、安心して眠りに落ちていった。

ヒーローは夜空に散る

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