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あの子は行方不明なんかじゃないのに。 どうしてみんな、そんなふうに大騒ぎするんだろ。 居場所なら、僕がいちばん知ってるのに。 昔からそうだったでしょ。 あいつが迷ったとき、泣きそうなとき、壊れそうなとき―― 最初に気づくのはいつも僕。だって、他に友達がいないから。 僕しか、いないから。 だから今回だって、当然のように僕が見つけた。それだけの話。 だって、当然でしょ。僕は親友だから。 あいつは安全だよ。 僕と一緒にいる限りは。 外に出したら、きっとまたつまずいて、傷ついて、誰かに変なこと言われて、 …また泣きそうになるんでしょ? そんなの、見てられない。 きみがまた、あんなことにならないように。……また、僕のせいで傷つかないように。今回は頑張るから。 ただ、あの子が心配なんだよ。 ずっと。ずっとずっと!胸の奥が締めつけられるみたいで、何かあったらって考えるだけで息が苦しくなるくらいで、……だから。ここにいてくれればいいんだよ。███。 僕の近くにいてくれれば、それだけで君の嫌な想いは全部解決するから。させるから! お願いだから、消えないでくれ。 もしまた君がどこかへ行ってしまったら、 僕はどうすればいいのかわからない。 考えるだけで震えそう。胸がざわざわして、心臓が落ち着かなくて、頭が勝手に最悪の想像ばかりするの。 だから、もう離れないでほしい。もう二度と、僕から離れたりしないように。 そのために、真っ白な綿で包んであげたんだ。 やわらかいものに触れていれば、安心できるだろうと思って。 あいつは繊細で、すぐに傷ついて、すぐに折れそうになるから、 こうして守ってあげるしかない。 もし僕が手を離したら、君は―――きっと崩れてしまう。 それが怖いんだ。 僕が守らなきゃ、誰が守るんだろう。 そんな不安が、ずっと頭から離れなくて。 だからね、ここがいい。███。 静かで、誰にも邪魔されなくて、 僕の声だけが届く場所。…君が眠るとき、まだここにいる!って安心できるんだ。 ……嫌でも、お願いだからいて欲しい。これが僕にとっては最善の選択のつもり。 君が、また壊れないように。 2回目は失敗しないように。 この与えられたチャンスを、無駄にしないように。 Good night. ███。 ***
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Aの証言。 12時前まで一緒に居たんです。あの子と。 特別なことはしていません。ただ、他愛もない話をして、 いつもみたいに小さなことで笑って。…本当に、いつも通りでした。 「ちょっと外の空気吸ってくる」って、あの子が言って。五分だけ、って念を押すみたいにして離れていったから、僕も別に気にする必要はないと思ったんです。 でも戻ったら、床に小さく血が落ちていて。量はほんのわずかで、でも見れば分かる赤で。 なのに倒れた跡も、引きずられた形跡もなくて、 ―――まるで“そこに立っていた誰かだけが消えた”みたいに、 周囲はきれいなままでした。 さすがに驚きました。だってあの子、急にどこかへ行くような子じゃなかったから。なんというか……自分から離れていく姿が想像しづらい、そんな子で。 誰かが運んだのか、連れ去ったのか、それとも本人が歩いていったのか。 どれも確証はありません。 ただ、三つ目だったら一番まだ“いいかな”とは思います。自分で動いたなら、理由も痕跡も残しづらいでしょうし…… それは、まあ、悪いことじゃない。だって、消えていないってことでしょ?…… 見つけたら……そうですね。 コーラでも買ってやろうかな。 あいつ、炭酸が得意じゃないのに、飲みきろうとして眉をしかめるのが、何となく印象に残るんですよ。 (近くの自販機に駆け寄ると、会話は終了した。)
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Bの証言。 刺された? そんなこと、あるわけありませんよ。だって、キラーならともかく、サバイバーがサバイバーを殺すなんて…… 利点がないじゃないですか。疑うにしても、もっと現実的な線があるでしょう。 ……まあ、私なら別、ですけれど。……え?あっ、誤解しないでくださいね? 私が“活用できる”という話と、“やる”という話はまったく違いますから。スポーン様は、そういう無差別な殺しを好まれないのです。 だから私はしません。導きがあれば、また別ですが……私も、好むわけじゃありませんし。 スポーン様に誓ってしません! …ああ、その血のことですか? 別に珍しくもないでしょう。薬の副作用とか、体質とか、そういうもので血が出ることだってありますよ。 何でもかんでも刺されたの何だのと結びつけるのは、少し……考えが短絡的だと思います。 (ビニール袋をごそごそと漁る音) ほら、これです。私も飲んでいる薬でしてね。 ちょっと強いんですけど、慣れれば平気になりますよ。たまに鼻から血が出たりしますけど、それも仕様みたいなもので。 ほら、こうして見せれば分かるでしょう? 本当に、疑うほどのことではありません。 ……力になれましたでしょうかね? スポーン様も、無用な混乱はお嫌いですから。 ……早く、終わってくれればいいのですが。
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Cの証言。 うーん? 俺なら放送室に居たぜ。あそこ、確か監視カメラも付いてたはずだろ? ……まあ、その、俺はチキンを食っててさ。 みんなの前で食うとまた「仕事中に食べるな」って怒られるから、バレない場所で食おうと思って、あそこに隠れたんだよ。 えっ、機械?いやいや、触ってねえって! 手ベッタベタにして画面触ったりしてないからな!? ほら、信じてくれって。こんなんでも一応ちゃんと気を遣ってんだって、俺なりに。 (苦笑) …………あー、それよりさ。自分から誰かに着いてった可能性はねえのか? アイツ、やけに懐きやすいだろ。 ほら、まるで何も知らないガキみたいにさ……外で何が危険かも分かってない、経験ってもんを誰かに奪われたみてえな雰囲気っていうか。なあ。 ……勘ってやつ? (少しの沈黙)…… ……危なっかしくて、見てられないんだ。
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Dの証言。 私……? いや、その……まさか私が疑われるとは思わなくて……い、いえ、責めているわけじゃないんです。 ただ本当に驚いただけで……。 えっと……私は部屋で本を読んでいました。ずっと、これを。なんども読み返していました。 (少し血が滲んだ、真っ赤な絵本を差し出す) クールキッド。 あの子との思い出の品でしてね。 どうにも手放せなくて、毎日読んでしまうんです。 あっ、いや……すみません、つい喋りすぎました。…こんな時に思い出話なんて、ね。空気を読んでいませんでした。 血、……血のことですよね。 これは……そう、転んだり、紙で指を切ったり、そういうこともありますし……。 大した意味は……ない、かも。たぶん。ええ、たぶん……。 でも、あの子は今朝から見ていないんですよね? そうなると……可能性は、もっと……危険な方に向いてしまう……のかもしれません。
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███666の証言。
ああ、俺なら大丈夫だよ。落ち着いてるし、ちゃんと話すから。 連れ去られたってやつだろ?……うん、間違いない。あの子に腕を掴まれて、 そのまま連れていかれたんだ。痛かったとか、乱暴だったとか、そういうんじゃない。 ただ、必死に、まるで溺れかけてるみたいな顔で呼ばれたからさ。 断れないでしょ。親友の頼みだし。 "助けてくれ"とも"お願い"とも違うんだ。 言葉にできないけど……あれは、どう言えばいいんだろうな。 たとえば、何度も同じ悪夢を見て、ようやく誰かにすがりついたみたいな―――そんな顔だった。 ああ、そう。あんなふうに人の腕を掴むやつじゃなかったはずなんだけど。まあ、なんかあったんだろ。 場所は……細かくは言えないけど、静かなところ。 あの子、周りを何度も見回してたよ。誰かに見つかるのを嫌がってる、っていうより、 "また同じことになる"のを警戒してるような……そんな動きだった。 妙に慣れてるっていうのかな。 初めてじゃないみたいな感じがした。 で、様子だけど……やっぱり変。 俺が言ってないことまで知ってた。 「君のストレスが溜まった時の癖は危なっかしい」とかさ。 「そこに行ったら怖い人がいる」とか。 ……初めて行く場所なんだよ。絶対。 ふたりで行こうって決めた、初めて行くって場所に行った時の話だ。 なんか全部“経験済み”みたいに言うんだよ。 まるで俺のことを前から知ってるみたいでさ。 それだけじゃなくて、あいつ……時々、俺の顔を見て表情が止まるんだ。 懐かしいってわけでも、困ってるわけでもなくて、 ただ、複雑な顔。 どういう意味かは知らないけど。 別に嫌な感じじゃなかったよ。ただ、不思議だっただけだ。 ……まあ、連れ去られたって言っても、そこまで悪くはなかったさ。 ずっとそばにいたし、声もかけてくれたし。 避けようとしてる感じは全然なかったしな。むしろ、俺が勝手にきえないように気を配ってるっていうか…… あいつなりに気をつかってたんだと思う。 でも、そうだな……なんであんなに俺を気にしてたんだろうな。 俺が黙るとすぐ不安そうに覗き込んでくるし、ちょっと離れようとしただけで、慌てたみたいに腕を掴み直して……あいつらしくないっていうか。 後で理由がわかるのかなって思ってたけど…… はは、まあ確かに俺も鈍いしな。 ……ああ、もう十分だろ? これ以上は同じことの繰り返しだよ。 聞いても、たぶん変わらない。 だからさ、悪いけど、もう出てってくれないか。 …………… ヌーブが帰ってきちゃう。