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僕には恋人がいる とても明るくて素敵な女性だ。
彼女はとても美人で、綺麗な黒髪をしているそうだ。
友人からそう聞いただけで 僕は彼女の顔を見たことがない。
彼女の首から上、頭部があるべきそこには いつも様々な形をした何かがある。
出会った時からずっと彼女は 頭からすっぽりと何かを被っていたのだ。
梓
デートの帰り道、並んで歩いていると 恋人の梓は弾むような声で 誕生日の予定を話し始めた。
もうそんな時期だったなぁと改めて思う。
誠
梓
誠
梓
会う度にこんな話をしている。
僕が社会人一年目じゃなければなぁ なんて、その度に思うのだ。
梓は僕よりひとつ年上で、一年前から一人暮らしをしている。
性格もしっかりしていて、安定した仕事に就いていて、これ以上文句の付けようがない彼女だ。
誠
梓
梓
自分の家を目の前にしても 梓は何か言いたげにその場を離れない。
僕も同じ気持ちだったので すぐに察しがついた。
誠
梓
頭部にある無機質な白い物体を眺めても表情は分からないが、僕にとって梓はとても分かりやすいのだ。 声や動作だけで伝わってしまう。
僕といれるだけで こんなに喜んで嬉しそうにしてくれる。 とても可愛いと感じるのは 惚れた弱みだろうか?
誠
梓
2人で照れながら、笑いながら家に入る。
何度目かの梓の家は、相変わらず綺麗に整頓されていて、温かい雰囲気だ。
この空間に梓と2人でいることが とても落ち着く。
梓と付き合い始めたのは3ヶ月前だが 出会ったのは一年前。
あの日、暑い夏の日。 大学の講義が終わり 移動をしようと席を立ち上がった時。
開いた窓から正面入り口が見えて、1人の講師と2人の女性が目に止まった。
何か揉めているのだろうか?
あまりよく顔は見えないが 2人の男女は僕の知り合いでは ないようで少し安心する。
もう1人の女性が隠れてよく見えない。
自分の知り合いが面倒ごとに巻き込まれていないと良いなと願いながら目を凝らしていると、丁度木の影になってはっきり姿が見えなかった1人の女性がその場を逃げるように立ち去った。
友人らしき女性が遅れてその後を追った。
その時に見たものに僕は衝撃が走る。 未だにあの瞬間は忘れられない。
気がつけば何も考えずに 駆け出していた。 人間驚くととんでもない行動に 出るものだ、とその後に改めて思うのだ。
誠
急いで2階から階段を駆け下り、正面入り口を抜けて歩道を走ったので、息を切らしながらも何とか声を掛ける。
友人らしき女性
訝しげにこちらを睨みつけた 先程の友人らしき女性。
そんなことは気にも止めず、あの時僕は 梓と呼ばれて立ち止まり こちらをゆっくりと振り返った女性に 釘付けになっていた。
梓
梓
誠
誠
誠
明らかに周りから浮いている 頭の四角くて無地の白い箱のようなもの。
空洞などは無く、首から上がしっかり 無機質なそれとくっついているのだ。
異様な光景に僕以外は誰も 不思議に思っている様子もない。
確かめずにはいられずに思わず口から飛び出した疑問が、僕と梓の強烈な出会いだった。