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高校を無事卒業し、無事大学に入学した僕はバイト探しに精を出した サークルには入ってないし、遊ぶ友達もそんなにいないから、長時間労働でもかまわない。夜遅くの仕事でも苦ではない 求人サイトや知り合いの口コミから探した末にたどり着いたのが、ここら辺では最大の歓楽街、国分町にある高級クラブ 「アルファルド」だった。
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店のママ兼オーナーと面接した翌日、ありがたいことに採用の電話を貰って、国分町が無数のネオンで真昼みたいに輝く金曜の夜に初出勤した カチコチに緊張する僕に、魅力的な笑顔で迎えてくれたのが先輩アルバイトのジンヒョンだった アルファルドは八回建てのビルの地下まるまるワンフロアを借り切る大きな店で、ウイスキー色のドアを開けると、シャンパンゴールドのシャンデリアのきらめきが客を迎える フロアの奥には少し高くなったステージがあって、そこに置かれたグランドピアノでは、ピアニストがシャンソンやジャズのバラードナンバーを奏でる
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僕より年上のジンヒョンは仕事が抜群にできる人で、僕の教育係に任命された 今まで新聞配達という地味なバイトしかしたことが無い僕は最初は失敗続きでよく落ち込んだ
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僕より少し先にこのバイトを始めたジミニヒョンもジンヒョンと一緒に僕を支えてくれている
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そんな感じで毎日を過ごしていき、やっと仕事に慣れて来た僕 いつもと同じように開店前の準備をしていたある日のこと この日は雨が降ったりやんだりを繰り返していたので店の外の廊下も掃除しておくことにした 濡れた床を念入りにモップで拭いて、そろそろ戻っても大丈夫かなとドアを開けたら「いえ」というジンヒョンの声が聞こえた 人当たりのいいジンヒョンにしては強い口調だった そっと覗いてみるとジンヒョンとオーナーが向き合っていた
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普段のオーナーは非常にエレガントな人だが、いざとなると有無を言わせない迫力がある さすがのジンヒョンも口をつぐんで、苦い表情で頷くと更衣室の方に消えた 何か良くないことが起きたらしいとはわかった モップを片付けながらチラチラと更衣室の方を伺っていると、数分でジンヒョンが戻ってきた
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アルファルドの奥にあるステージには、立派なグランドピアノが置いてある。 そこでは音大でピアノを専攻していたという若い女性が、毎晩アルファルドに似合う上品なバラードを弾いていた ただ、僕は彼女と喋ったことがない 挨拶はしてくれるのだが、それ以上話しかけるとちらっと面倒そうな顔になるのだ。 それは僕だけじゃなく、オーナーを除くスタッフ全般にそうだった
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ご機嫌斜めのジンヒョンは目つきが冷えびえとして、若干怖い 。
jk
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開店直前の忙しい時期だったからジンヒョンも僕もとりあえず仕事に戻った 雨の夜でもアルファルドにはいつも通りにお客様がぞくぞくと訪れる 開店して30分ほどの頃だったと思う 雨のせいで出入口付近が滑りやすくなっていたので、手が空いた隙にモップで大理石の床を拭いていると、ウイスキー色のドアが押し開けられた 僕は反射的に自分にできる最高の笑顔で振り向いて、
jk
しゃいませ、と声がしぼんだのは、そこにたっていた人に見覚えがあったからだ 見た瞬間に頭の中に思い浮かんだのは一人 、 僕が今でも忘れられずにいる キムテヒョン 。 彼だった 外で濡れてしまったらしく、色素の薄い髪に霧吹きをシュッとやったような水滴をのせたその人は、貴族の息子とか、どこかの国の王子とか、そう言う役がハマりそうな綺麗な顔をしていた 。 9年前、突然居なくなった彼もあんな綺麗な顔をしていた でも、きっと彼に似ているだけで全くの別人だ 。 僕はそう自分に言い聞かせていた 一方ドアの前に立っている彼は、玄関のシャンデリアを「綺麗だなぁ」と言う顔で見あげていた それからやっと僕に気づいて「あ」と目をまるくすると、
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jk
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jk
少しお待ち下さいと、彼の傘を預かりつつ、急いでジンヒョンに連絡を入れた 。
jn
またシャンデリアを見上げていた彼は、ジンヒョンの声にゆるりと顔を戻した
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jn
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jn
ジンヒョンは後頭部を抑える彼の腕を引き更衣室へ早足に向かっていった ほんとに別人で、僕が忘れられずにいる彼ではないのか、そんなことを考えながら突っ立っていると、常連の団体が来店したので仕事に戻った お客様を席に案内して、水割りを作っている最中に、先程の彼がステージに上がった。 白のワイシャツに光沢のある黒のベスト、深緑のネクタイ 衣装と髪型を整えた彼は、びっくりするくらいステージ映えした 。
客
いつも上品な和服を着てくる老紳士に水割りを渡す時、そんなふうに声をかけられて、僕はとっさに「はい」と笑顔で頷いた 。 ふわりと鍵盤に指を置いた彼は、呼吸をするように自然に弾き始めた 水晶の粒のように澄んだ音色がゆったりと旋律を奏でると、あちらこちらの席でお客様が言葉を切り、ピアノに目を向けるのがわかった
客
紳士が静かに囁いた 会話も酒も忘れたようにステージを、見つめる人が大勢いた。 それだけ心をふるわせる、どこまでも透き通った演奏だった 彼はその夜、有名どころのバラードナンバーを10曲以上弾いた
jk
12時になると学生の僕とジンヒョンは上がりになる 。 着替えを終えてスタッフに挨拶したあと、通用口に向かうと、眠そうな彼がドアの横の壁にもたれていた とことんつまらない言葉しか出てこない僕に、彼は優しく口を開いた
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そう言ってふわりと笑う彼は、やっぱり僕が忘れられずにいる彼とそっくりだった 。
jk
疲れていることを承知の上で聞いてみた 確認したいことが沢山あったからだ
jk
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そう言って先にドアから出ていく彼の背中を僕は追いかけるようについて行った ――― ♡ ――― いいねとフォローしてくれると嬉しいです !