ボールは相手コートに転がっている。
雨歌
色々な視線が私の背中に突き刺さるのを感じながら、痛みと悔しさを堪えて立ち上がる。
沙羅
結愛
雨歌
立ち上がった瞬間、足首にズキッ、と痛みが走る。
…転んだ拍子に足を捻ったようだ。
雨歌
沙羅
結愛
雨歌
結愛
沙羅
今にも泣きそうな結愛と険しい顔をする沙羅。
2人を見て、こんなにも優しくて良い友達に恵まれてるんだな、とつくづく思う。
だけどひとまず、彼女達を安心させようと自分のポジションに戻る。
千切 豹馬
汗を滴らせて焦った表情で駆け寄ってきたのは豹馬。
雨歌
千切 豹馬
雨歌
いつも迷惑かけてるし、また迷惑をかけまいといつもの口調で答える。
千切 豹馬
雨歌
何故か彼は呆れた顔で溜息をついた。
いや、私が溜息つきたいんだが…。
千切 豹馬
そう言って私に背を向けて跪いた。
豹馬の広い背中を目前に、”おんぶ”という単語が直ぐに思いついた。
雨歌
千切 豹馬
雨歌
この場に一体どれだけ自分のファンがいると思ってるんだこの赤髪は。
おんぶなんぞされた日には私の命日になりかねない。
千切 豹馬
雨歌
千切 豹馬
雨歌
かなりのガチトーンボイスで言われたため渋々私はおんぶされる。
モブ美
モブ子
雨歌
悲鳴に近い声を背中で受け止めて体育館を後にする。
教室に戻ったら机がないとか、椅子の上に画鋲が乗っているとか本当にやめて欲しい。
豹馬ファンからの仕打ちに怯える私と対照に、これって既成事実?と全く気にしていない様子。
モテる男は心の余裕の量が違うらしい。
この野郎、ほんとにむかつく。
千切 豹馬
雨歌
なんで足捻ったって分かったの?
千切 豹馬
雨歌
私を背負う豹馬はいつものトーンで淡々と話す。
雨歌
千切 豹馬
……………………………好きだし
この少しの沈黙は、彼が照れていることを表していた。
今更照れなくてもいいのに。
千切 豹馬
雨歌
千切 豹馬
雨歌
千切 豹馬
短い相槌を返され、いつの間にか保健室に到着。
千切 豹馬
雨歌
豹馬は水で濡らしたおしぼりを私に渡す。
千切 豹馬
雨歌
豹馬はそう言い残し、体育館に戻っていった。
私の体には、まだ彼の体温が残っていた。
保健室の先生
雨歌
保健室の先生
なんか、闇が深そう。
影のある表情が見えたので、この話について話すのはもうやめた。
保健室の先生
雨歌
保健室の先生
雨歌
保健室の先生
雨歌
恋愛に飢えた成人女性って面倒臭い。
何故私の周りには話を聞けない人が多いのだろうか。
─千切side─
〜〜〜〜♪
4限終了の鈴が鳴る。
挨拶を終えて真っ先に保健室に向かう。
千切 豹馬
独特な匂いに鼻がつん、とする。
雨歌の姿が見えず、デスクに向かっていた先生が俺に気付きこちらを向いた。
保健室の先生
千切 豹馬
保健室の先生
千切 豹馬
保健室の先生
仁科さーん、ボーイフレンドがお迎えに来たわよ〜
戸惑う俺を置き去りにして先生は部屋の奥に歩いて行く。
俺もそれについていった。
保健室の先生
先生の呼び掛けに答えない雨歌に近付いて寝顔を覗き見る。
素直に、綺麗で可愛いと思った。
同時に、こいつがこのままずっと目を開けないと思ってしまった。
千切 豹馬
雨歌に軽くデコピンをする。
雨歌
思わず両頬を摘めば、相変わらず変な声を出して目覚めた雨歌にほっとする。
千切 豹馬
雨歌
とろんとした表情と声に、心臓が凄く煩くなる。
今まで見た寝起きの中でこんな可愛い起き方したことなかっただろ、
雨歌
はい反則。
一発レッドカードで即退場レベル。
爆発しそうな心臓を精一杯のポーカーフェイスで隠した。
千切 豹馬
雨歌
保健室の先生
俺達の会話を聞いていた先生が、さっきと別の意味で怖くなった。