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テラーノベルの小説コンテスト 第4回テノコン 2025年1月10日〜3月31日まで

ボールは相手コートに転がっている。

雨歌

………(あぁもう、なんで今なの…)

色々な視線が私の背中に突き刺さるのを感じながら、痛みと悔しさを堪えて立ち上がる。

沙羅

雨歌!

結愛

大丈夫!?

雨歌

うん、大丈夫

立ち上がった瞬間、足首にズキッ、と痛みが走る。

…転んだ拍子に足を捻ったようだ。

雨歌

…試合続けよ!

沙羅

何言ってんの!?保健室行こ!

結愛

そうだよ!派手に転けたじゃん!

雨歌

んーん、大丈夫。たいしたことないから

結愛

でも…

沙羅

………、

今にも泣きそうな結愛と険しい顔をする沙羅。

2人を見て、こんなにも優しくて良い友達に恵まれてるんだな、とつくづく思う。

だけどひとまず、彼女達を安心させようと自分のポジションに戻る。

千切 豹馬

雨歌!大丈夫か?

汗を滴らせて焦った表情で駆け寄ってきたのは豹馬。

雨歌

大丈夫だってば、このくらいたいしたことないって〜

千切 豹馬

嘘つけ

雨歌

嘘じゃないし!ちょっと膝擦れただけだもん

いつも迷惑かけてるし、また迷惑をかけまいといつもの口調で答える。

千切 豹馬

はぁ…

雨歌

??

何故か彼は呆れた顔で溜息をついた。

いや、私が溜息つきたいんだが…。

千切 豹馬

ほら、乗って

そう言って私に背を向けて跪いた。

豹馬の広い背中を目前に、”おんぶ”という単語が直ぐに思いついた。

雨歌

いやいや、さすがに無理があるでしょ

千切 豹馬

いいから

雨歌

ほんとに大丈夫だってば!

この場に一体どれだけ自分のファンがいると思ってるんだこの赤髪は。

おんぶなんぞされた日には私の命日になりかねない。

千切 豹馬

早く乗れ

雨歌

いいって!

千切 豹馬

…いいから乗れ

雨歌

…ひゃい

かなりのガチトーンボイスで言われたため渋々私はおんぶされる。

モブ美

ちょっと、何よあれ!

モブ子

千切くんと仁科さんって付き合ってたの!?

雨歌

(…ほら、言わんこっちゃない)

悲鳴に近い声を背中で受け止めて体育館を後にする。

教室に戻ったら机がないとか、椅子の上に画鋲が乗っているとか本当にやめて欲しい。

豹馬ファンからの仕打ちに怯える私と対照に、これって既成事実?と全く気にしていない様子。

モテる男は心の余裕の量が違うらしい。

この野郎、ほんとにむかつく。

千切 豹馬

歩けるなら重症じゃないだろうけど、一応冷やしとけよ

雨歌

うん…
なんで足捻ったって分かったの?

千切 豹馬

なんでって、雨歌が立ち上がった時に一瞬顔歪ませてたから

雨歌

(…やっぱりこいつには敵わないな)

私を背負う豹馬はいつものトーンで淡々と話す。

雨歌

…よく見てるんだね、私のこと

千切 豹馬

そりゃ幼馴染だし、
……………………………好きだし

この少しの沈黙は、彼が照れていることを表していた。

今更照れなくてもいいのに。

千切 豹馬

ていうか昔から思ってたんだけど、雨歌って意外とドジだよな

雨歌

何よいきなり失礼な!

千切 豹馬

あんな何もないところで躓かないだろ、バレーやってたし尚更

雨歌

………ブランクだよ、ブランク

千切 豹馬

…ふーん、

短い相槌を返され、いつの間にか保健室に到着。

千切 豹馬

これで足冷やしとけよ

雨歌

うん、ありがと

豹馬は水で濡らしたおしぼりを私に渡す。

千切 豹馬

じゃ、授業終わったら迎えに来るから

雨歌

…ん

豹馬はそう言い残し、体育館に戻っていった。

私の体には、まだ彼の体温が残っていた。

保健室の先生

いいわね、若いって

雨歌

でも先生まだ20代だよね?

保健室の先生

好きな人も恋人もいない20代はただの地獄よ〜

なんか、闇が深そう。

影のある表情が見えたので、この話について話すのはもうやめた。

保健室の先生

付き合ってどれくらいなの?

雨歌

…え

保健室の先生

さっきの彼よ!

雨歌

付き合ってないですけど…

保健室の先生

嘘つかなくてもいいのに〜。どこが好きなの?どっちから告白したの?

雨歌

いやだから…

恋愛に飢えた成人女性って面倒臭い。

何故私の周りには話を聞けない人が多いのだろうか。

─千切side─

〜〜〜〜♪

4限終了の鈴が鳴る。

挨拶を終えて真っ先に保健室に向かう。

千切 豹馬

失礼します

独特な匂いに鼻がつん、とする。

雨歌の姿が見えず、デスクに向かっていた先生が俺に気付きこちらを向いた。

保健室の先生

あら、仁科さんのボーイフレンド

千切 豹馬

えっ

保健室の先生

あら、違うの?

千切 豹馬

…そうだったらいいんですけどね

保健室の先生

あら、片想い?
仁科さーん、ボーイフレンドがお迎えに来たわよ〜

戸惑う俺を置き去りにして先生は部屋の奥に歩いて行く。

俺もそれについていった。

保健室の先生

おーい、仁科さん、って…ぐっすりね〜

先生の呼び掛けに答えない雨歌に近付いて寝顔を覗き見る。

素直に、綺麗で可愛いと思った。

同時に、こいつがこのままずっと目を開けないと思ってしまった。

千切 豹馬

おい、起きろ

雨歌に軽くデコピンをする。

雨歌

ん………

思わず両頬を摘めば、相変わらず変な声を出して目覚めた雨歌にほっとする。

千切 豹馬

授業終わったぞ

雨歌

…ぅん……

とろんとした表情と声に、心臓が凄く煩くなる。

今まで見た寝起きの中でこんな可愛い起き方したことなかっただろ、

雨歌

ひょぅ、ま…?

はい反則。

一発レッドカードで即退場レベル。

爆発しそうな心臓を精一杯のポーカーフェイスで隠した。

千切 豹馬

先生に迷惑かかるから早く教室戻るぞ

雨歌

んー…

保健室の先生

やっぱり若いっていいわね〜

俺達の会話を聞いていた先生が、さっきと別の意味で怖くなった。

夢を”追いかける”彼と夢を”諦めた”私。

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130

コメント

4

ユーザー

やっぱり貴女の言葉使い好きだわ 雨歌ちゃん無事そうでよかった ε-(´∀`;)ホッ

ユーザー

最高すぎる…!今回ばかりは保健の先生と全くの同意見です。 続き楽しみにしてます!

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