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第1話 - あ

2023年03月27日

#恋愛

結城真矢

サキト

スズカを出せ！

アリス

サキトさん？

サキト

いるだろ？出せよ！

アリス

いないわよ。

～数分後～

スズカ

助けて！

スズカ

近くの公園にいてるの。この後、携帯の電源切るから、

スズカ

お願い！

～翌日～

アリス

しばらくサキトさんと距離を取るのに

アリス

ビジネスホテルを潜伏場所にして、

アリス

落ち着いた？

スズカ

もう大丈夫よ。姉さん。

アリス

びっくりするじゃないの。

アリス

助けてなんて、連絡してくるんだもの。

スズカ

気が動転してて・・・

アリス

昨日はごめんね。

アリス

話を聞いてあげる時間が取れなくて。

スズカ

すぐに来てくれて、ありがとう。

アリス

何かあったの？

スズカ

姉さんに言ってなかったことがあるの。

スズカ

それが・・・

スズカ

私、DV被害を受けているの。

アリス

何ですって！

アリス

まさか、サキトさんがあなたを殴ってるっていうの？

スズカ

そうなの。

スズカ

この一年ずっと耐えてきたけど、

スズカ

もう、我慢の限界なの。

アリス

まさか、そんな・・・

アリス

今まで、まったく気づかなかったわ。

アリス

爽やかな、好青年だとずっと思ってたのに・・・

スズカ

一年前までは、ずっと優しい人だったの。

スズカ

それが、急に豹変してしまって・・・

アリス

とにかく、サキトさんにつけられた痣を写真に撮っておきましょう。

アリス

何かあった時の、証拠になるもの。

～数日後～

アリス

あなたの身体の痣を見て、

アリス

驚いたわ。

アリス

顔や見えるところには痣をつけずに、

アリス

古い痣からつい最近の痣まで、全身痣だらけじゃない。

アリス

やることが、卑劣ね！

スズカ

毎日、サキトが私を殴るの。

スズカ

最初はストレスがあるからだと思っていたの。これは一時的なもので、

スズカ

少ししたら、また優しいサキトに戻ってくれると、

スズカ

信じていたの・・・

アリス

どうして、ずっと我慢してたの？

スズカ

それが、普段は優しいんだけど、

スズカ

何かの拍子にスイッチが入ったかのように、

スズカ

私に暴力を振るうの。

スズカ

そんな風だから、そのうちずっと優しいサキトでいてくれると、

スズカ

期待してしまっていたの。

アリス

どうしてもっと早くそのことを言ってくれなかったの？

スズカ

サキトを愛していたから、言えなかったの・・・

スズカ

私は彼が銀行員できっちりした人だと、ずっと思ってた。

スズカ

だから、想像もつかなかったの。

スズカ

職種で人を決めつけていた私も悪かったんだわ。

アリス

どうしてあなたが悪いなんて思うの？

アリス

悪いのはあなたを殴っても何とも思わない、

アリス

サキトさんが悪いんだから。

スズカ

会社では私たちが同棲しているのは、内緒にしてるの。

スズカ

オフィスラブは禁止という訳ではないけど、

スズカ

歓迎されてはいないわ。

アリス

そうなんだ・・・

スズカ

同僚に私の話を友達と仮定して、相談してみたの。

スズカ

でも、そんな話誰にも信用されなくて。

スズカ

サキトは女性に手をあげるような人だなんて、

スズカ

思ってもみないみたいなの。

アリス

あなたは結婚してる訳じゃないんだし、

アリス

付き合いなんて、止めたらいいじゃない。

スズカ

私もそう思って何回も逃げたわ。

スズカ

でも、その度に連れ戻されたの。

スズカ

私、どうすればいいのか？

スズカ

頼れるのは、姉さんだけなの。

アリス

まさかあなたがＤＶ被害だなんて・・・

アリス

絶対に許せないわ！

アリス

でも、まさかこんなことになってるなんて・・・

スズカ

サキトは以前、趣味でボクシングを２年やっていたの。

スズカ

試合には出なかったらしいけど、

スズカ

何かと言って、それを自慢しているの。

アリス

えっ、そんな事って・・・

スズカ

まさか、私が殴られるなんて、考えてもいなくて・・・

アリス

それはあたりまえよ！

アリス

女性に手をあげるなんて、人間のクズだわ！

アリス

分かっていたら、あなただってそんな男となんかと付き合わないでしょう？

アリス

私が大事に育てたスズカに、なんてことしてくれるのよ！

スズカ

もう私、サキトに愛情なんて全く感じないわ。

スズカ

それに、こんな生活からは逃れたいの。

スズカ

お願い。姉さん助けて！

アリス

私にいい考えがあるの。

アリス

あなたは辛くても、一度家に帰りなさい。

スズカ

そんな、姉さん酷い！

アリス

あなたの話を聞いていると、一筋縄にはいかないわ。

アリス

あと一カ月我慢しなさい。

アリス

そうしたら、上手く別れられる方法があるから。

スズカ

分かったわ。お姉さんを信じるわ。

アリス

あと、電気屋に行って、カメラを２台買ってきて欲しいの。

スズカ

分かったわ。

～一カ月後～

スズカ

姉さんと約束した一カ月が過ぎたから、家を出てもいいわよね？

アリス

もう、大丈夫よ。

アリス

かくまってあげるわ。

アリス

今度は私の家にしばらく潜伏していればいいわ。

アリス

ところで、私が指示したことを、

アリス

守ってくれた？

スズカ

ええ。もちろん。

スズカ

この一カ月、姉さんの言う通りに準備してきたわ。

アリス

それじゃ、これからが肝心だから、

アリス

失敗しないようにね！

アリス

それと、私とのライン上での会話を全部消しておくのよ。

スズカ

ありがとう。姉さん、感謝してるわ。

～翌日～

サキト

スズカを出せよ。義姉さんの家にいるんだろ？

アリス

ここには、いないわよ。

サキト

スズカは義姉さんとのライン上での会話を、

サキト

全部削除していますよ。

サキト

そんなことをするなんて、まったく

サキト

義姉さんがかくまってるって、言っているようなものだね。

アリス

何度でも言うけど、スズカはここにはいないわ。

サキト

嘘つけよ！ここにいるのは、

サキト

分かってるんだよ。

サキト

スズカの携帯にGPSをつけているんだ。

アリス

どうして、そんなことを？

サキト

GPSは、スズカのしつけのためさ。

アリス

しつけって、どういうこと？

サキト

俺はスズカのことを愛しているから、

サキト

どこに行っても分かるようにしているんですよ。

サキト

ちゃんと、家に帰るように、しつけるんです。

サキト

俺はボクシングを習っていたから、殴るといっても加減ができるんです。

アリス

そんなことして、愛だなんて言えるの？

サキト

愛しているから、こんなにも執着しているんです。

サキト

それに、素行が悪ければ、しつけるのは当然です。

サキト

飼い犬に首輪をつけるのと、同じ行為ですよ。

アリス

そんなこと、許される訳ないでしょ！

アリス

人を殴って従わせるなんて、最低な行いだわ！

サキト

ボクシングをしていたから、俺は強いんです。

サキト

生意気言ってると、スズカは大変な目に遭いますよ！

アリス

まぁ、落ち着きなさいよ。

アリス

スズカがいるかどうか、確かめにきたらいいじゃない。

サキト

スズカがいるのに逃がしたら、義姉さんとはいえ承知しませんよ！

～数分後～

アリス

スズカ、サキトさんが家に来るから、しばらく帰っちゃだめだよ！

スズカ

姉さんそんなとしたら、サキトが何をするかわからないじゃない！

スズカ

危ないわ！

アリス

これは作戦のうちの一つなのよ。

アリス

失敗したら、上手くいかなくなってしまうわ。

アリス

だから、あなたも私に調子を合わせて。

アリス

分かったわね？

スズカ

だからと言って、姉さんが犠牲になることないじゃない！

スズカ

サキトは、女性だからといって手加減しないわ。

スズカ

重いパンチで殴ってくるの。

スズカ

一回パンチが入ると、痛くて動けなくなるわ。

スズカ

だからお願い！決して、サキトが怒るようなことは言わないで！

アリス

分かったわ。注意するわ。

スズカ

なんであんな奴を好きになったのかしら。

スズカ

最低な奴。人間のクズだわ！

アリス

スズカ、しばらく携帯の電源は切っておくのよ。

アリス

サキトがGPSを使って、あなたを探しているから。

～数時間後～

アリス

どう？スズカは見つかった？

サキト

まだだよ！

アリス

あんたが私を殴った動画を撮ったわ。

アリス

あんたの悪行はこの動画が、サクッとマルッとお見通し！

サキト

へ？

サキト

動画を使って、どうするんだ？

サキト

俺を改心させようってことか？

アリス

私も、あなたがそんなに簡単に改心するとは、

アリス

思ってもいないわ。

サキト

それじゃ、その動画を使って、

サキト

俺を強請ろうというのか？

サキト

お堅い銀行勤めだから、

サキト

ちょっとしたことでも、首になったりするものだから、

サキト

簡単に言うことをきくとでも、思ってるのか？

アリス

それに近いことかもしれないわね。

サキト

もったいぶって、俺を怒らせるつもりか？

サキト

そんなことして、

サキト

もう一度、俺のパンチをくらいたいのか？

アリス

ところで、私の携帯は今、グループチャットになってるの。

アリス

だから、今の話は全部スズカも見てるってことよ。

サキト

それが何だって言うんだよ！

サキト

スズカは俺が見つけて、しつけてやるんだからな！

スズカ

サキト、姉さんをどうしようっていうの？

サキト

スズカ、こそこそ隠れてないで、出て来いよ！

スズカ

誰があんたのところに戻るもんですか！

サキト

そんなこと言って、また俺のパンチをくらいたいんだな？

アリス

やっぱり、まったく自分のしてることが分かっていないのね。

アリス

私はあんたが私を殴っている動画を、警察に送ると言っているのよ。

サキト

警察？なんのことを言ってるんだ？

サキト

俺のやっていることが、そこまで酷いということか？

アリス

さっきから、そうだと言ってるじゃないの！

アリス

あんたって、そんなんで銀行のエリート社員なの？

アリス

呆れてものも言えないわ。

サキト

警察のお世話にだけはなりたくないんだ。

サキト

どうか、今回のことは水に流してくれないか？

サキト

謝るよ。俺が悪かったよ。

サキト

動画は警察に送らないでくれよ。

サキト

俺が下手に出て、謝ってやってるじゃないか。

アリス

あんた、それが謝ってるつもりなの？

アリス

まぁ、ちゃんとした人が女性に手をあげるなんて、

アリス

考えられないでしょうからね。

サキト

どこに動画があるんだ？

サキト

俺に渡せよ！

アリス

やっぱり、少しも自分が悪いことしてるって、

アリス

分かっていないのね。

サキト

俺は昔少年院に入ったことがあって、成人して同じことをしたら、

サキト

今度は実刑になるって聞いたんだ。

サキト

だから、警察だけには呼ばれる訳にはいかないんだ。

アリス

それは、あんたの都合でしょ！

アリス

スズカはあんたの暴力に一年間も我慢したのよ！

サキト

俺が悪かったよ。

サキト

お願いだから、警察には言わないでくれよ！

アリス

あんたが私を殴った動画と、

アリス

スズカを一カ月間殴っている動画を、

アリス

警察に送ったわ。

アリス

もう、申し開きはできないよ！

サキト

スズカに言って、取り下げてもらうんだ。

サキト

きっと、スズカは俺を許してくれるはずだ。

サキト

おれは、スズカを探しにいくよ！

～後日談～

アリス

スズカがサキトを許すことはなく、サキトは警察に捕まった。

アリス

傷害罪と脅迫罪で書類送検となった。

アリス

サキトはスズカに示談にしてくれと、

アリス

スズカに泣いてすがったけれど、

アリス

耐えに耐えた１年間のことがあったので、

アリス

サキトのことを突き放し、

アリス

罪を償って欲しいと、サキトに伝えた。

アリス

サキトは今回のことで、反省がみられず

アリス

不貞腐れているような態度をしていた。

アリス

おまけに、サキトは素行が悪く、

アリス

とてもじゃないけど、情状酌量の余地はなかった。

アリス

そして、刑期は延長となった。

アリス

銀行は今回のことで、解雇処分になった。

アリス

スズカはこれを機会に、

アリス

銀行を退職して、デザインスクールに通った。

アリス

そして、私と同じWEBデザイナーになり、

アリス

心機一転、私とスズカはシンガポールで永住することにした。

アリス

その後、私たちは売れっ子になった。

アリス

天国にいる父と母は、きっと安心していることだろう。

アリス

私たちは日本を離れることになったけれども、

アリス

住めば都で、楽しく暮らしている。

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結城真矢

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