すべてを終わらせた敦は、やがてポートマフィアを去った。
“ポートマフィアの裏切り者が逃げた。”
そんな声が頭に響くようだった。
あれから二年。
敦は戸籍の内容をいじり、一般市民となんら変わらない生活を送っていた。
いや、一般市民、ではない。
敦は人を救う仕事、
昼の世界と夜の世界、その間を取り仕切る薄暮の武装集団……
武装探偵社に身を潜めていた。
中島敦
赤い着物を着た可愛らしい少女の手を敦は引く。
鏡花は敦が武装探偵社に入社してから、すぐ拾った敦の弟子なのである。
泉鏡花
中島敦
今ちょうど買い物を済ませたところで、今から探偵社に戻るのだ。
平穏な日常。
平和な生活。
人を無闇に殺すことのない、優しい世界。
誰かのため、人のために動けば、人を救える。
大切な誰かを救える。
そんな世界。
殺戮とした虚しい場所じゃない。
敦に合う、優しく豊かな世界だ。
生まれ変わった。
新しく生まれ変わった。
江戸川乱歩
中島敦
探偵社は温かい。変な人たちが多いけれど、居心地が良い。
江戸川乱歩
泉鏡花
江戸川乱歩
泉鏡花
江戸川乱歩
中島敦
泉鏡花
中島敦
どこをどう切り取ったとしても平穏だった。
幸せだった。
ポートマフィアの、黒の時代はもう、敦の頭の中から取れ始めてきていた。
それなのに、それなのに、どうして。
中島敦
探偵社から家に帰るところを狙われた。
かつての部下であり、弟子である、中原と太宰の影に路地裏へと追い詰められ逃げられずにいた。
二人は、相棒、つまりは新双黒になっていたこと以外、なんら変わらないままだった。
太宰治
太宰治
太宰が薄気味悪く笑う。
その横で中原は敦を睨んでいた。
かつて敦さんと、誰よりも敦を慕っていた中原の姿は、そこにはなかった。
あるのは、敦に対し、恨みを募らせる中原の姿だった。
太宰治
太宰治
太宰治
じりじりと距離を詰めてくる太宰から、敦は逃げたくてたまらなかったが、
腕を掴まれている以上、逃げ切れる確率は極めて低い。
太宰の人間失格により、月下獣が作動できない。
今ではきっと、力で勝つことも、できやしないだろう。
太宰治
太宰治
太宰治
太宰の手が敦の頬を掴む。
太宰治
中原中也
中原中也
ぶる、と体が震えた。
これから起こる出来事が、なんとなく、わかった気がしてしまった。
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