【18:00p.m.】
「ラーメン屋。よっちゃん裏路地」
東郷 狛治
…さぁ!集まってくれたのは他でもない…あの事件の話さ
東郷 狛治
って言っても、一人しか招いてないんだけども…
林 武尊
すいません…何故遺体のある場所に…
東郷 狛治
あぁ…なくなった友が隣に居るのは辛いかい?
狛治は宙ぶらりんになったままの、ブルシートに包まれた大熊の遺体を撫でる
林 武尊
は…はぁ…でも、この事件の真相が分かったんですか?
東郷 狛治
そう、大熊の親友であった君を呼ばないわけがないだろう?真相は口で伝えて上げなと
林 武尊
…気遣い感謝いたします
克希 梅花
えぇ…お辛いでしょうけど、少し付き合ってもらいますね
東郷 狛治
単刀直入に、結論から言うけど…
東郷 狛治
犯人は君だ。林くん
林 武尊
…なんでですか?
東郷 狛治
まず最初の違和感として、現場にチャッチィトンカチ以外に証拠がなかったこと…これが最大の違和感であり、最大の証拠だった
克希 梅花
警察は”何一つ”現場から物質が確認されなかったと述べています
青龍院 風純
ただそこはラーメン屋…油も何も検出されないのは逆におかしな話だ
東郷 狛治
通りで、油の匂いがしないのも分かる。
東郷 狛治
それに、血も確認されなかったことはさらに分からなかったね。まぁ頭から上が見えないから…だろうけど
林 武尊
…でも!死因は服毒自殺なんじゃ…
東郷 狛治
いや?証拠のトンカチに血がついてたけどさ、あれは明らかに大熊の血だよな〜
東郷 狛治
それにあのトンカチは株式会社岬本で使っているトンカチだ
東郷 狛治
まぁ理由がどうであれ、君が犯人という説明しかつかないよね
克希 梅花
それともう1つの疑問…ラーメンの伸び具合と、タバコの吸殻…でしたよね?
克希 梅花
ただこのラーメンはなんで…?
青龍院 風純
…ラーメンの伸び具合に関しては、俺は分からない
東郷 狛治
そうだね。順を追って説明しようか
東郷 狛治
まずラーメンの伸び具合…あの3人が店を出たタイミングがよく分かるものだ
東郷 狛治
まず林と近藤が先に出て…大熊が後を追うように出た…というのは?
林 武尊
いえ…僕は1人で外にタバコを吸いに行きました
東郷 狛治
それじゃあラーメンの伸び具合に説明がつかない。同じ丼に盛られたラーメンはそれは凄い量だろう
東郷 狛治
店主は、大熊はほぼ全て食べきっていた状況で、林と近藤のラーメンは丼いっぱいに伸びていた…
東郷 狛治
あの大きさの丼だと、相当長い時間外にいたのは明白…伸びていない麺も、あの良野と食べ切るのも大変だろう
克希 梅花
…あぁ!そういうこと
青龍院 風純
…は?
東郷 狛治
つまり…近藤だけアリバイが分からなかったけど、近藤と林はほぼ同じタイミングで外に出た…
東郷 狛治
そして、大熊はかなり経ってから後を追うように外に出たんだろ
克希 梅花
つまり…そのラーメンで時間の差が分かると…!
東郷 狛治
そゆことよ!
林 武尊
タバコの吸殻というのは?
青龍院 風純
林は当時3本も吸っていたと言っていたが、これは真実…でも吸いきっていなかった
林 武尊
…何を言っているんです?
東郷 狛治
灰皿からパクってきたんだよ。発見してから店は閉まってるから、最後に吸ったのはお前しかいねぇんじゃねぇかなって思って…
東郷 狛治
で、調べたらこれだよ
克希 梅花
1本目はほとんど吸っていて、2本目は半分も消えていない状態で火を消してあります…
青龍院 風純
で、中途半端に吸っておいて三本目に入るのはおかしい
東郷 狛治
だから、2本目に入った最中…なにかあったんだろうな
東郷 狛治
三本目も全然…燃えていなかったし、だから相当長い間、なにかあったんだな?
林 武尊
…それは途中で噎せて、少し休んでいたんです。喉が直った後に三本目を吸っていたから…
東郷 狛治
…まぁなんでそこで店に戻らなかったのかが謎ってことは置いとくか
克希 梅花
そして、この事件は貴方じゃ無ければ絶対に成しえない条件がありますよね
林 武尊
…そんなのあるわけ
東郷 狛治
…ほう?それは一体なんだと思う
克希 梅花
あの連続殺人事件の模倣、そして…あの現場の綺麗さと、凶器…ですかね?
林 武尊
……
青龍院 風純
この事件はあの連続事件にとても酷似していた。ぶら下がった遺体に、何一つない血痕…とかか
東郷 狛治
おぉ!殆ど正解だ!
東郷 狛治
さっすが俺の可愛い記録…
克希 梅花
調子に乗らないでください
青龍院 風純
黙れオタク
東郷 狛治
うわ…流石に泣けるわ…
東郷 狛治
俺可哀想に…!
青龍院 風純
……
林 武尊
え?一体なん…
東郷 狛治
まぁそんなことは置いといて!
克希 梅花
なんなんですかさっきのくだり…
東郷 狛治
ん〜ちなみに、その事件の犯人のやり方は変なものだったが、林…君はかなりあの事件を誤認してたようだなぁ
青龍院 風純
そうか、そもそもあの事件は俺たちの事務所の管轄内で行われたことは無いし、凶器も置いてあるというケースはなかった…
林 武尊
…それは偶然じゃないんですか
東郷 狛治
あの事件は「ホークアイズ」の管轄内でのみ起きていた事件だし、あれは服毒自殺だ。凶器を置くような犯人でもなければ、今回が異例なんて考えずらい
克希 梅花
それに殺害方法が外傷であるなら、血で汚染されているはず…だけど、その跡がない…てことは…
東郷 狛治
そ、そんな現場を作れるのは…お前しかいない
東郷 狛治
何故なら清掃担当のお前は…アルカリ性の洗剤を持っていたからだ
林 武尊
…!
東郷 狛治
なんとまぁ慎重だなぁ…アルカリ性の洗剤でないと、人間の皮脂や油とかを落とせないからさ
青龍院 風純
…それで血液や指紋の痕跡を洗い流した…と
東郷 狛治
それと、決定的な情報が凶器だ
林 武尊
凶器…?
林 武尊
だから…服毒自殺じゃ…!
東郷 狛治
凶器はあのトンカチ…ではなかった。
東郷 狛治
凶器は大熊が所有していたハンマー…殺人をするには充分な大きさだったよあれ
東郷 狛治
ほれ、実物
林 武尊
……
東郷 狛治
まだ遺品処理ができていない間に一旦隠して、また別の日に捨てようとしたのかねぇ…凶器を暴くのは簡単だったさ
克希 梅花
確かに…前に言っていた通り、あのハンマーじゃ殺人なんてとてもじゃないですが無理ですよね
青龍院 風純
あと血痕の付き方…か
林 武尊
でも…頭を狙ったなんて確証はない!
東郷 狛治
これは推測さ
東郷 狛治
これから警察に届け出たらそのうち分かるよ
東郷 狛治
あとは…
狛治がライターを取り出し、大熊の換気扇に突っ込んでいる部分を熱する
東郷 狛治
お…きたんじゃない?これ!
東郷 狛治
やっぱビンゴだな
克希 梅花
え…
東郷 狛治
この頭の怪我を見ても…言えるかいそんなん
林 武尊
……
東郷 狛治
それにあの換気扇の宙ぶらりんの状態…あれはガラスや鉄に対応する接着剤を使ったんだろうなぁ
東郷 狛治
君の体格で大熊を持ち上げるのは少し大変だが可能だ
東郷 狛治
単純に首辺りを接着剤で固めたんだろうなぁ…炙ったら直ぐに落ちる
青龍院 風純
…だからコイツに清掃用の道具を見させて貰っていたわけか
東郷 狛治
そ!勘がいいねぇウチの記録者は!
東郷 狛治
…で、これらを並べ立てても…君じゃないと言えるわけ?
林 武尊
……
東郷 狛治
…聞き取り調査で、近藤はそんな簡単にメンタルブレイクするような奴じゃなかった
東郷 狛治
ラーメンの伸び具合だったり、タバコの燃えたあと…これらを踏まえれば、近藤は巻き込まれたんだろうねぇ
東郷 狛治
君は…「近藤は俺よりも大熊と仲がよかった」と言っていたよな
東郷 狛治
そして…近藤と君は旧友…てことはまぁ、怨みしかなくね?
克希 梅花
…友を奪われた怨み…ということね
東郷 狛治
林は恐らく、近藤と一緒にタバコを吸いに行かないか誘ったんじゃないかなぁ…タバコの新しい吸殻はもう1個あったし
東郷 狛治
それで、大熊には事前にラーメンを食べ終わったら、裏路地に来てくれないかと言ったと思うんだわな
青龍院 風純
もしくは携帯か…
東郷 狛治
まぁ携帯だよな。だってそうじゃないと、伝えてあったんなら林と一緒に行ってるだろうし
東郷 狛治
そして、林は近藤を連れて裏路地へ…
東郷 狛治
そこで林が殺害したんじゃね?
東郷 狛治
君が…大熊を妬んで近藤に、大熊を56す所を見せつけたんだろう…きっとさ
克希 梅花
そんな…ありえるんですか!?
林 武尊
…そうだ…そんなの!なんの根拠にもならないじゃないかよ!
東郷 狛治
…ふぅん
青龍院 風純
…忘れるな。コイツは推測の天才だ
克希 梅花
あ…
東郷 狛治
そう…もう一度言うけども、これは推測だ
東郷 狛治
推測というのは根拠は無い…根拠を探す上での建前ってやつよ
東郷 狛治
これから周辺の人間の情報を洗っていけば、直ぐに怨恨だということは分かるだろうし?
東郷 狛治
それに…まぁメンタルが回復した近藤に聞けば一発だろうねぇ
東郷 狛治
…で、これを聞いてもなにか言いたいことがあるの?林
林 武尊
……
林 武尊
…ネストの探偵って…凄いですね
林 武尊
まさか、動悸も洗い出すなんて
東郷 狛治
…じゃあ、俺の言っていたことは概ね大正解ってことでおけ?
林 武尊
はい…ほとんどあっています
克希 梅花
…なんでこんなことしたんですか?
克希 梅花
私達がこの事件を解決しきらなかったとしても…きっと近いうちにバレていたはずです
克希 梅花
殺害可能なのはあなただけということが…痛恨でしたね
青龍院 風純
お前もこの事件が近いうちにバレると気づいていたはずだ…なのにこうも…
林 武尊
…殆ど、衝動的な犯行でした
林 武尊
大熊は…僕よりも劣っていました
林 武尊
不器用で…頭も悪くて…いつも僕を越えられなかったのに…ここに来て急に俺を超えてきました
林 武尊
きっと…僕はそれを疑問に思い、そして妬んでいたんでしょうね
林 武尊
事件までは全然気づかなかったです…
林 武尊
近藤とタバコを吸いに行った時…近藤はこう言ったんです
林 武尊
「大熊さんは凄いな…まさか林を超えて、なんならここの人気者…絶対に大熊さんの後を追う…」って
東郷 狛治
…そこでアンタの線が切れたのか
林 武尊
…似たような発言は毎回ありました。
林 武尊
ですが…近藤でさえも僕を超えて、大熊と同じラインに立てば…僕は一人っきりです
林 武尊
そして、近藤は昔はいつも僕を頼りにしていて尊敬してくれていました…
林 武尊
大熊は…僕のものをどんどん掻っ攫っていく…
克希 梅花
それに気づいてしまって…歯止めが効かなくなったんですね
克希 梅花
衝動的にそのような感情を一気に覚えてしまえば…溢れて一線を超えてしまいます
林 武尊
…はい。僕も当時のあまり記憶がありません
林 武尊
ですが…気づけば大熊を呼んでいて、怒鳴り散らかして…挙句の果てには大熊の使用していたハンマー奪って…
青龍院 風純
…その時近藤はどうした
林 武尊
…叫び声も挙げず、終始堕落したような顔をしていて…大熊さん、大熊さんと言うばかりでした
林 武尊
腰も抜けていて、証拠隠滅が終わった頃にはフラフラになりながら帰ったんです
東郷 狛治
…アンタは、多分近藤に罪を擦り付けようとしたんだろ?
東郷 狛治
でも…しっかりした近藤がメンタルを壊すのは想定外だったんだなぁ
林 武尊
はい…そうでしたね。
林 武尊
ただ…これを言ったのは覚えています
林 武尊
「近藤、大熊、今度はお前らが奪われる番だ」って…
林 武尊
僕は…なんてことを…!
林 武尊
僕…あんな感情知らなくて…戸惑って…!
青龍院 風純
…愚かだな
青龍院 風純
お前は奪われていない…1番与えられていたのはお前だったはずなのに
林 武尊
…え?
克希 梅花
すいません…この人は少し詩人らしさがありましてね…
克希 梅花
つまり…貴方は奪われていないのかもしれません
克希 梅花
きっと逆に…大熊さんや近藤さんに与えられていた方が多いと思うんです
克希 梅花
これを…奪われたのか与えられたのかと解釈するのは…あなた次第ですけどね。
林 武尊
つまり…僕は見方を間違っていた…?
東郷 狛治
…きっと、大熊は分かっていたと思うんだ
東郷 狛治
君に恨まれていたということをさ
林 武尊
…アイツ鈍感なのに…
東郷 狛治
いや?争った形跡が現場にはなかった…きっと死を悟って、お前が何を思って自分を56すのかというのを…分かっていたんじゃないかね
東郷 狛治
そうじゃないと…こんな安らかな顔で4んだりしない
東郷 狛治
お前を信じていたんだな…大熊は
林 武尊
うっ…なんで…なんでだよ…!
東郷 狛治
……