sakura
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赤くんが教えてくれた桃くんの搬送先は、僕が通っているところと同じ病院だった
愛ちゃんを抱きかかえて病院の玄関に向かうと、自動ドアのガラスの向こうに僕たちの到着を待ってくれている彼の姿を見つけた
青
一般の診察時間をとっくに終えた病院のロビーは薄暗く、緊急事態なんだということを否が応でも突きつけられる
赤
僕の腕から愛ちゃんを引き取り、赤くんは大股で歩き始めた
赤
俺達も……。
ということは、他にも駆けつけている人がいるんだ
歩き続けた先に、処置室と、駆けつけているほかの人物の姿があった
部員
青
記憶に引っかかったその人の格好を見て、ピンとくる
間違いない、赤くんにテーピングをする時部室にいた人だ
その向こうには、男バスの顧問と教頭先生の姿もある
僕が取り乱したら愛ちゃんが不安になる
そう思っていたけど、赤くんの手に愛ちゃんが渡って一気に力が抜けた
青
へたりこんだ床の冷たさを感じた瞬間、もう二度と立ち上がれないような感覚に襲われた
赤
青
赤
赤
青
普段は冷静な桃くんが、そんなことをするなんて
あまりの衝撃に、言葉を失う
雨が降りしきる中……桃くんは走ったんだ
練習で疲れてるはずなのに、傘をさして、信号を見落とすほど無我夢中で
その道の先にはきっと、僕の住むアパートがあった
青
赤
青
青
青
部員
部員
青
部員
部員
部員
部員
この場にいる全員が、話に静かに耳を傾ける
部員
部員
切れ切れに話す部員の声は、誤魔化しようのないくらい揺れていた
部員
青
部員
部員
赤
赤
赤
赤
青
その時、遠くからバタバタと慌ただしい足音が近づいて来ていることに気づいた
愛ちゃん
振り返ると桃くんのお母さんとお父さんがスーツ姿ですぐそこに立っていた
桃くんのお母さん
お母さんが赤くんの手から愛ちゃんを受け取り、ぎゅうっと抱きしめた
桃くんのお父さん
お父さんが先生から状況の説明を受けている間、なんとか立ち上がった僕にお母さんが向き直った
そして、涙を流しながら、愛ちゃんにしたのと同じように僕を強く抱きしめたんだ
桃くんのお母さん
事故にあった桃くんのことが何よりも心配なはずなのに、彼の容態を聞くよりも先に僕に気を向けてくれた
青
涙ながらに首を振ると、お母さんは僕を抱きしめる力をそっと強めた
部員
先輩が声をあげた
処置室の方を向くと、固く閉ざされた扉が開いていた
中から濃紺のスクラブを着た先生が出てくる
赤
医師
医師
医師
先生の言葉にほっと息を着く
元通りにってことは、またコートを駆け回れるってことだ
形は違うけど、桃くんが僕と同じように涙をのむことにならなくてよかった
医師
医師
間髪入れずに返事をしたのは、いまだ涙を流したままのお母さんだった
医師
愛ちゃんを抱いたお母さんとお父さんは僕たちに深々と頭を下げてから、救急病棟に連れられて行った
赤
差し出されたミルクティーを受け取りながら小さく頷く
ロビーの椅子に座る僕の隣に、赤くんは息を吐きながら座った
赤
赤
これには僕も首を縦にふった
事故の様子なんて分からない状況の中で、何度もその考えを思い浮かべては必死に振り払ったんだ
視界の端で膝の上に作られた赤くんの拳が震えていて、友達を失いそうになった彼の恐怖が伝わってくる
青
赤
どれくらい無言でいただろう
その沈黙を最初に破ったのは僕だった
青
青
赤
青
青
近しい人がこの世からいなくなるって恐怖を、身をもって体感した
身が擦り切れるような思いだった
こんな思いは二度としたくないと思った
だけど
青
青
赤
桃くんの事故を、こんなふうに自分に結びつけるべきではないのかもしれない
でも、一瞬ではあるものの残される側の立場に立って……考えてしまったんだ
青
受け取ったペットボトルを包む両の手に、ぎゅっと力を込めた
赤
赤くんの声に苛立ちが含まれる
青
赤
青
赤
突然荒げられた赤くんの声に、肩が跳ねる
赤
青
赤
赤
優しく赤くんが微笑むから、今日何度目かの涙が溢れてきた
赤
青
赤
静かな声に2人の笑い声が響く
そして、僕の涙が止まる頃
赤くんが、ふっと目を細めた
赤
赤
赤くんの言葉に、僕はもう迷わない
青
最後の瞬間まで、桃くんと
僕の返事聞いて、赤くんが満足気に頷く
赤
朝、雨はやんでいた
頭に鈍い痛みを感じながらも何とか支度を済ませ、冷蔵庫の中に入れてあったそれをカバンに押し込んでから家を出た
橙
病院のロビーで僕を見つけた橙くんが駆け寄ってきた。次いで紫くんと黄くんも
紫
青
青
紫
黄
青
青
3人がハッと表情を曇らせた
赤くんと桃くんが大会に出ることになっていたのを、3人も知っている
紫
間を置いていった紫くんに、僕達はそろって頷いた
桃
桃
橙
桃
橙くんに支えられてゆっくり体を起こした桃くんの両腕は何ヶ所も処置がされている
多分先生が言ってたかすり傷だ
後日手術すると言っていた左足は、固定されたうえに高い位置で吊るされていて、目を背けてしまいたくなるほど痛々しかった
黄
桃
桃
桃
笑顔を崩さない桃くんはいつもより饒舌だ
みんな気づいていたとは思うけど、誰もそのことについては触れなかった
当たり障りのない会話をして15分ほど経過したころ
橙
不意に橙くんが切り出した
話すのが大好きな橙くん。
桃くんの疲れを考慮しての事だろうと、すぐに分かった
黄
紫
言い置いてカーテンの外に出ていくみんなの後に続こうと体を翻したとき、服の裾が引かれた
青
桃
きゅうっと胸がなる
桃くんの言葉を聞いた橙くん達が、カーテンの外からニヤニヤと笑った
橙
紫
青
青
桃
桃
青
桃
青
桃
桃
桃
返事する間もなく、桃くんが言葉を続ける
桃
桃
青
青
下手すぎるよ、桃くん
その笑顔が仮面だって、すぐに分かる
青
桃
やっとの思いで紡いだ言葉に、桃くんの笑顔が固まった
刹那、その顔かくしゃっと歪む
桃
青
桃
唇を強く噛んでいるその姿は、弱々しい
仮面が、壊れた
桃
ガーゼのあてがわれた手が、ぎゅっとシーツを掴む
やり場のない感情を抱えて、それでも涙を見せないことが、ことさら切ない
青
僕は、椅子から立ち上がって桃くんを抱きしめた
桃
青
包むから
桃くんがそうしてくれたように
僕の全てで、桃くんのことを包み込むから
青
桃
ふっと空気を震わせて、桃くんが言う
桃
青
桃
青
予想外の切り返しに桃くんを抱きしめながらむくれていると、彼の手が遠慮がちに僕の背中に回された
桃
青
桃
青
現実と向き合って、前に進もうとしてる桃くんは強い
僕はきっと、桃くんのそんなところに憧れたんだ
青
椅子に座り直してから桃くんのに差し出したのは、愛ちゃんと一緒に作ったハンバーグ
青
桃
目を輝かせたまま、桃くんがまじまじとハンバーグを眺める
青
青
桃
青
青
桃
桃
青
桃
じりじりと睨み合い、やがて堪えきれなくなってお互いに吹き出した
桃
青
ひとしきり笑ってから、桃くんは再び視線をハンバーグに向けた
桃
青
青
桃
幸せだ、と思った
桃くんのそばに僕がいて、なにげないことで笑ったり、胸を高鳴らせたりできる
赤くんが言ってたみたいに、僕が望むように、当たり前のかけがえのない時間が、最後まで続いていくといいなぁ
桃
桃
桃
青
桃
青
青
桃
桃
桃くんの言葉に、今度は僕が固まった
でもすぐにハッとして、平然とした態度をとる
青
心配なことも色々あるけど、予定をずらさずに済むならこれほどありがたいことはない
先送りになってしまうと約束そのものを果たせる確率が下がってしまう
青
桃
青
桃
青
青
僕の気持ちを読んだのか、桃くんが口を開く
桃
桃
青
青
桃
青
青
桃
青
青
桃
青
青
青
そんな考えを巡らせながらも、僕は心を踊らせていた
sakura
sakura
sakura
sakura
コメント
8件
神っす
投稿頻度高くて嬉しい限りです!!関係ないとは思うけど青くんがバスケが強いという事がいつバレるんだろう?wもしくはバレない?
更新頻度高くて嬉しいです…。 続き楽しみにしてます〜😭