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ザーザーと誰かが泣いたように降り注ぐ雨。
それはまるであの時の僕の姿を思い返すよう。
まぶたの奥に見えた白い傘をさして、
雨の中誰かの名を呼んでいた。
「ーーー大丈夫だよ」
白い傘の下で手を握りしめたあの子の顔は、
雨が降り注ぐ六月の梅雨の夜に消えた。
最近、蒸し暑く感じるようになった。
空は曇り、今にも雨が降り注ぐようだった。
右手に白い傘を持って左手にイヤホンが付いたスマホを持って俺は靴の底を擦りながら田んぼ道を歩く。
見えてくるのは田んぼ道を通り抜けて大きな湖だった。
ぼぅーと湖を見ていると、ぽつぽつと音を立てて雨が降ってきた。
だんだんと強くなってくるそれは何処かで誰かが泣いたように降り注ぐ
周りの人は素早く傘を指すは建物の中に入ったりしていた。
でも、俺は傘もささずにその場から離れなかった。
逆に湖へ足を進ませた。
…………と、次の瞬間。
千尋
大きな声とともに、突然後ろから誰かに抱きつかれた。
ふわっと漂ってくる甘い匂い。
背中から伝わってくる温かい体温と、腰周りを覆うようにして掴んでくる力は痛いくらい強かった。
ビックリして湖のほとりまで出ていた足を引っ込める。
振り向くと、そこにはクラスメイトの雨宮千尋がいた。
高校に入学して半年。
誰とも馴れ合うことは無く過ごしている中で、彼女の印象は騒がしく誰にも優しく明るいというイメージがある。
紺色のブレザーに赤いリボン。
スカートから伸びている足は細くて白い。
俺の胸辺りまでしかない身長の彼女はとても小柄だけれど、学校では存在感を放っている。
欠点を見つけるのが難しいほどの可愛らしい顔立ちは男子からも女子からも人気である。
どこにいても目立つ彼女と、教室の隅で一人でいることが多い俺に接点なんてあるはずがなく、むしろ話したことも無い。
それなのに雨宮は今、俺の背中にぴたりと張り付いたまま動こうとせず、雨だけが降り注ぐ。
海斗
表情に出さなくても動揺はしていた。
人に抱きつかれたのは生まれて初めてだったから。
千尋
彼女はさらに俺の身体をきつく抱きしめてきた。
そもそも、クラスメイトに人気者である彼女に名前で呼ばれていることにも驚いていた。
海斗
制服の上からでも分かる華奢な手首。
どう扱っていいのか戸惑いながらも、しがみついていた彼女な身体をそっと引きはがした。
離したあとも抱きつかれていた感触が強く残っていた。
小柄なくせにバカ力だなと思っていると、雨宮は怒ったように声を張り上げてきた。
千尋
さっきまで降っていた雨は止み、あちらこちらに水溜まりを残して消えていた。
千尋
雨宮が子犬のようにキャンキャンと吠えていた。
同級生たちからは才色兼備なんて言われている彼女が、目じりを吊り上げて怒っている。
…………こんな顔もするんだ。
普段は笑ってばっかりだから、意外だった。
というか、なんで俺のために怒っているんだろう。
彼女には全然、毛ほども関係ないというのに。
千尋
久しぶり?
海斗
そう言うと、雨宮は悲しそうな顔をしていた。
ここに来たのは確かに初めてなはずだ。
なのに、何故か忘れているような忘れてないような感じがする。
千尋
海斗
元きた道を戻り、学校へと足を運んだ。
千尋
背後でキャンキャンと雨宮が吠えている。
俺は目もくれず、足を止めず歩いた。
無言のまま自分の席に座り、机に顔を伏せていると、元気な声が飛んできた。
千尋
先程聞いた声にため息をつき、イヤホンを再度つけ直した。
千尋
千尋
イヤホンをしてても聞こえるその声は俺の暗さを余計に引き立たせる。
そのせいもあって、普段俺には目もくれないクラスメイトたちがじろじろと視線を送ってきていた。
千尋
雨宮は目の前で確認するように手をひらひらさせていた。
俺はその行為に苛立ち、手を引き離した
海斗
千尋
彼女が何か言いかけたところで、教室に本鈴が鳴り響いた。
…………よかった。チャイムに助けられた。
授業もおわって、一段落ついて机に顔を伏せようとすれば彼女は話しかけてきた。
移動教室の時もトイレに行く時も彼女は隙があれば話しかけてきた。
海斗
海斗
千尋
海斗
千尋
千尋
千尋
俺が返事を返そうとするとクラスメイトに呼ばれて彼女が行ってしまった。
思い出す?
俺は何を忘れているんだ?
探り探っても一向に思い出すことは無かった。
放課後になると、また雲行きが怪しくなり、ぽつぽつと雨が降り出した。
生徒達は即座に傘を広げて下校して行った。
俺も帰る支度をして、帰ろうとした時聞き覚えのある声に立ち止まった。
千尋
海斗
千尋
何を言い出すかと思えば一緒に帰る?
馴れ馴れしくする訳でもないのにあれほど冷たくしていたのに。
海斗
そう言ってイヤホンを付けて降り注ぐ雨の中を歩いた。
海斗
返事は返って来ず、雨の音だけが響く。
濡れた制服を干し、手元にあったスケッチブックと絵の具がたくさん入ったバッグを持ち出して家の鍵を閉めようとした。
…………と、その時。
千尋
持っていたバッグが落ちそうになった。
俺しか知らない近道を通って帰ってきたはずなのに何故ここに彼女がいるのか。
海斗
千尋
表情に出さずも内心は驚いている。
と、同時に何故お願いがあるなら学校で言わなかったと、怒りと面倒くささがふれあがる。
海斗
千尋
「内地」俺がその言葉を発したとき、彼女は驚いた顔に悲しみが混じった表情をした。
千尋
俺は傘をさして、隣の建物に入った。後ろからは相変わらずニコニコした顔でいる雨宮もいる。
海斗
千尋
そう言って渡されたものはガラスの中にふわふわと赤い炎がついていた。
その炎は傘の下でついていた。
海斗
千尋
海斗
千尋
一瞬時が止まったように感じた。
面白半分で言ってるのかそれとも俺をからかって言っているのかわからない。
海斗
千尋
海斗
千尋
海斗
もし、ここで俺がこの火を消したらどうなる
それでもし、本当に彼女が死んだら………
海斗
そう言って、木製の椅子に座り、スケッチブックを開き淡々と絵の具を付けて筆を走らせる。
千尋
海斗
海斗
千尋
海斗
海斗
千尋
千尋
海斗
彼女が去っていくのを見て再び筆を走らせる。
ふと、手元が暗くなっていることに気付き、目線を窓に向けると外は真っ暗で先程まで降っていた雨は止んでいた。
海斗
お爺
その声で空間が明るくなり、背後から手が伸びてくる
お爺
海斗
お爺
お爺
軽く頷いて片付けられるものは片付けてその場をあとにした。
雨宮から預かってるガラスの中に入った火も忘れずに。
その夜、懐かしい夢を見た
男の子と女の子が雨の中一本の傘をさして湖のほとりを歩いている。
ただ、男の子は全身に赤い液体が飛び散っていて、女の子の方は男の子の手をずっと握りしめていた。
それはまるで、男の子の震えを取り除いているように。
女の子が何かを言いかけるその時に俺は目が覚める。
海斗
学校に行く支度しているとチャイム音がなった。
海斗
愚痴を零しながら玄関のドアを開けるとそこにはニコニコした顔でおはようと言う雨宮がいた。
千尋
俺は彼女を無視して白い傘を手に取り学校へ足を進ませた。
隣にはニコニコとこちらをチラチラと見ながら歩く雨宮がいる。
もう勘弁して欲しいと思っていても口に出さない。出したとしてもほっといてはくれないと最近やっと気づいた。
海斗
千尋
海斗
気づいたら聞いていた。
自分でもなんでこんなことを聞いたのか驚いている。
千尋
知りたいと言われたらわからない。
知りたいと思う自分もいれば、この先踏み込んでは行けないと思う自分もいる。
千尋
千尋
「大丈夫」その言葉を聞いたら何故かストンと心が落ち着いたようだった。
千尋
彼女はそう言い残して友達の輪に入って行った。
何時もと同じように授業を受け放課後にほとんどの人が帰ったあとに支度をして学校を出る。
相変わらず隣にはニコニコした雨宮がいる。
千尋
千尋
海斗
そのあと別れ俺は服を着替え隣の建物に行きひたすら筆を走らせた。
視線を上げると外は真っ暗になっていたので外に行く準備をして湖に向かった。
湖に辿り着くと変わらない風景に白い服を着た雨宮が立っていた。
千尋
海斗
千尋
海斗
千尋
海斗
グラッと世界が変わる
最後に見えたのは涙を流す雨宮の顔だった。
冷たい水が全身を包み、眠っていた何かが蘇る。
海斗
お父さん
お母さん
海斗
お父さん
海斗
お母さん
これは………
俺のお母さんとお父さん?
海斗
お父さん
海斗
お母さん
お父さん
思い出した
この日俺の誕生日で、出かけに行ったんだ
傘が欲しいってずっと思ってたんだ
確か、この後ーーー
海斗
海斗
お父さん
お母さん
海斗
お母さん
お母さん
海斗
海斗
千尋まま
海斗
千尋
海斗
千尋
そうだ
目の前でお母さんとお父さんが事故にあってそれで俺は千尋にーーー
またグラッと世界が変わった。
千尋
海斗
千尋
海斗
千尋
千尋
海斗
千尋
海斗
千尋
海斗
千尋
ストンと傘が落ちる。
さっきまで晴れていた夜空は曇り空になり雨が降っていた。
海斗
千尋
海斗
千尋
そう言って差し出された雨宮の手を握ると、その手は冷たかった。
まぶたを閉じると、まぶたの先に映るは雨宮から預かってたガラスのランプが見える。
その中の火は小さく今にも消えそうだった。
海斗
千尋
海斗
千尋
千尋
海斗
千尋
海斗
千尋
海斗
千尋
海斗
千尋
千尋
海斗
海斗
千尋
千尋
千尋
千尋
千尋
彼女はだんだんと透明になって行った。
海斗
千尋
海斗
海斗
海斗
千尋
千尋
千尋
そっと消えそうな手を合わせる。
千尋
千尋
そっと引き寄せ消えそうな雨宮の薄い唇に口を合わせ
海斗
海斗
海斗
そう言って頷いてくれた千尋は雨とともに消えていった
上を見上げると空は満天の星空で湖に満天の星空が写った。
薬の匂いが鼻にツンと来る。
真っ白な天井が広がる部屋は夢に見た満天の星空ではなかった。
腹に重みがあると気付き目線を下げると俺の手を握りながら眠っている爺さんがいた。
外は夢で見た季節とは異なり、シンシンと白い雪が降っていた。
確か、彼女は白色が好きだったな。
何時も白いワンピースを来ては白い傘を持ち歩いていた。
あの時触れた手は冷たかったけど触れたあの唇はほんのりと温もりを感じた。
海斗
海斗
ありがとう
千尋
この後俺は目覚めた爺さんに泣きながら微笑んでこっぴどく叱られた。
感情の激しい爺さんだったけど夢でも現実世界でも見守っててくれていた。
そして、彼女から預かってたガラスのランプは現実世界でも火は小さく消えそうだったけど俺はその火は一生消えないと思った。
彼女の火は
俺の心と記憶に
光と温もりを与えてくれた