コメント
2件
ライアくんの元々の名前が「りうら」でハイドくんの元々の名前が「ないこ」で2人は昔から知り合っていた、?そして記憶のある桃くんが''任務の時の偽名として''と嘘をついて「りうら」とつけたのか⋯?じゃあ黒くんはなんだろう、、、なんか、、ロマンチックだ(?)
開いていただきありがとうございます! このストーリーは、この連載の第六話となっております。 注意事項等、第一話の冒頭を"必ず"お読みになってから この後へ進んでください。
にげないでよ。
そんな声が聞こえた。 俺より下の方向からする、 闇の中の幼い声。
ねえ、なんでにげちゃうの? なんでかんがえてくれないの?
誰だ、誰だ。 お前は、誰だ。
ねえ、しってるよ。 りうらでしょ?
違う。俺はりうらじゃない。 「赤瀬りうら」は、只の。
只の、偶像だろ?
……。 かなしいね。
泣きそうな声。震えている。 弱虫、泣き虫、意気地なし。 そんなんだから、お前は。
"弱虫!泣き虫!意気地なし!! そんなんだからなぁ!!"
…なんだ、この声。 荒ぶったものを感じるような。 敵意が剥き出しにされたような。
わすれちゃったんだね。
幻滅したような、そんな声。 思わず、否定の声をあげそうになって。
違う。違う。違う。 俺は何も忘れてない。 勘違いしてるだけだろ、お前が。
忘れて、なんか。
"忘れろ"
…違う、俺じゃない。
俺に向けられた、言葉じゃなくて。 夢の中の、弱虫に向けられた言葉。
名前もわからない、あいつ。
りうら、ちがくなんかないよ。
違う、だから俺は。 俺は、「赤瀬りうら」じゃなくて。
あかせ? なぁに、それ。
ぱた、ぱた、と近づいてくる足音。 逃げろ、と自分自身が警告を鳴らすのに、 足は一向に動かなくて。
俺は、「ライア」だ。 「赤瀬りうら」なんか、あいつなんか、
俺は、嫌いだ。
みんな、りうらのこと、 だいすきだからでしょ?
…何、言って。
みんなだいすきだから、 りうらはりうらがきらいなんでしょ。
違う。そんなわけない。 そんなくだらない嫉妬心なんか、 一番最初に捨てただろう。
うそつきは、どろぼうのはじまりなんだよ?
足に、温もりを感じて。 真下から聞こえてくる声は、 気持ち悪いほどに優しかった。
まだりうらは、うそつきじゃないよ。
そう言った声に、 ふふっという笑い声が混じって。
…意識が、引き上げられていく。
"りうら、大丈夫。"
"大丈夫、大丈夫。"
"違く、ないよなぁ。俺たち。"
"……大丈夫、な。"
その自分の声に、はっと目が覚める。 視界に飛び込んでくる「ライア」の文字。 真上を指す短針。 昇りきった太陽。
…ああ、今日は土曜日だ。 いつの間にか床に座って微睡んでいたことに気づき、 俺は少し息をついた。
そんな呟きが、小さく漏れる。 幼く、優しく、どこか不気味な声と、 それを必死に否定する自分自身の声。 …なぜか、しっかり覚えていた。
"弱虫!泣き虫!意気地なし!! そんなんだからなぁ!!"
夢の中で突然蘇った、あの声。 荒い男の声だ。俺は知らない。 同業者の声でもなく、ターゲットでもなく、 でもどこか聞いたことがあるような、そんな声。
…俺にとって、異質な夢だった。
あぁ、寝汗で湿った服が気持ち悪い。 これから、任務の報告に 行かなければいけないのに。 それに、今週新たに発覚したこともまとめないと。 そんな思考がぐるぐる巡って、 急きたてられるような気分に陥って。
何なんだろう、この居心地の悪さは。 何か大切なものが、欠けている感じは。
"わすれちゃったんだね。"
…あの、何かを諦めたような響き。
一体、何を忘れたと言うのだろう。 彼は俺に、何を伝えたかったのだろうか。
"まだりうらは、うそつきじゃないよ。"
…俺が、「ライア」だから?
それなら、嘘つきにならなければ。 完璧な、誰にもバレない嘘を。
"お前に感情が追加されたら、 完璧な嘘つきになれると思うけどね、w"
……そう、彼にだって。
任務の報告をしようと、 俺は立ち上がって準備を始める。 まだ約束の時間より早いが、 さっさと終わらせてしまおう。
…それに。
"うそつきは、どろぼうのはじまりなんだよ?"
"りうら、大丈夫。"
あの、正しさが詰まったような声も。 苦しくなっていく胸も。 逃げようともがく自分も。 全て、掻き消してしまいたくて。
またそんな、逃げるような言葉で。
ドアに、俺は背を向ける。 わざわざ窓を開け、枠に手をかけて、 俺はここを飛び出した。
壁から俺を見つめる大きな瞳に、 知らないふりをしたんだ。
…何かが、壊れるような気がしたから。
全速力で駆けつけたこの場所。 予定より一時間も早く着いてしまって、 俺は少し休もうと階段に腰掛ける。
…何かに、追いかけられているみたいだった。 早く逃げなきゃ、走らなきゃって、 夢の中のような、そんな気分で。
"…にげなきゃ。にげなきゃ。"
あぁ、この声は。この風景は。 "いつも"の、夢だ。
渓谷に消えていった、 顔も名前も分からない夢の中の彼は。 今頃、どうしているだろうか。
鬱蒼とした森で、土に寝そべり、 意識を失った夢の中の少年は。 今頃、どうしているだろうか。
…どうして俺は、この映像を。 毎日のように、夢に見ていたのだろうか。
夢に、見ていた?
当然のように出てきた思考。 まるで、今はもう見ていないような。 違う、俺は。 確かに毎日のように、あの夢を。
"自分を隠すの、得意だから。w"
"りうら、ちがくなんかないよ。"
…毎日、見ていたのに。
その夢が、進んでいく気がする。 俺に近づいてきている。 俺の肩を叩き、手を引いて、 俺を振り向かせようとしている。
"ねえ、なんでにげちゃうの? なんでかんがえてくれないの?"
あの、責め立てるような声。
逃げてなんかない。 考えようとしている。 俺だって、君と向き合おうとしている。
なのに、できないんだ。 何かが俺の思考を阻んで、 俺に「忘れろ」と囁く。 その度に俺は、それに従順に従ってしまう。
思考から逃げなければと、 この場所から逃げなければと、 その度に。
言い訳のような呟きが、 階段に落ちて転がっていく。 それを拾おうともせず、 ただただ理屈を引き摺り出して。
前は、ただの夢として受け入れていたんだ。 考えてもどうにもならないと思った。 只のつまらない何かだと、 信じて疑わなかった。
…けれど、夢は変わった。 一度目は、一人の幼い声と二人の青年の声。 二度目は、その幼い声と、自分だった。
その度に、胸が苦しくなっていく。 隙間が空いているような、 何かが抜け落ちているような、 気持ちが悪い感覚が広がっていく。
逃げたいんだ。 君からじゃなく、この感覚から。
…この、悪夢から。
"忘れろ"
ああ、また声がする。
そうだ、今は。 任務の報告を、しなければいけない。
何かが抜け落ちていく感覚。 さっきまで抱いていた不快なものが、 俺の体から離れて。
まだ、約束の時間では無いが。 別に大した問題ではないだろう。
階段を踏み締め、一歩ずつ登れば。 音も無く視界が上がっていって。
「____、________!!」
「______、_____。」
「_____っ、!!」
声が、する。 確かに、あの広間から。
足が止まり、視界が動きを無くす。 先約があったのだろうか。 それなら俺は、出直さなくてはならない。
別に、急ぎの報告ではないし。 それならまた後でで良い。 取り込み中に邪魔をするのは面倒だ。
そう思い、広間に背を向けたその時。
「りうらはっ……!!」
思わず、振り向いた。 確かに聞こえた、俺の偽名。
その声には、聞き馴染みがあった。
"……りうらー、"
幾つもの何かが込められた、 俺を覗くあの瞳。 屋根の上の風景と、味のしない朝食。
…ニヒルな笑みを浮かべる、 「本当」が分からない彼。
階段を登っていく。 相変わらず音のしない、このカーペット。 頭の中で、彼の表情が揺れている。
どうして今、彼は。
"ねえライア?"
同業者としての偽名でなく、 任務としての偽名を放ったのだろうか。
…そして、どうして。 あんな風に、俺を。
"りうらはっ……!!"
あんなに、荒い声で。 それなのに、温かい声で。 何かよく分からない、感情を持って。 「赤瀬りうら」を呼んだのだろう。
あぁ、また沸き立つ。 何か、黒いもの。
"みんなだいすきだから、 りうらはりうらがきらいなんでしょ。"
…俺は、「赤瀬りうら」じゃない。 あんな人間、嫌いだ。
だから、理解ができないだけだ。 ターゲットが、周りが、 みんながこの偶像に笑いかける訳が。
…理解、できないだけだ。
理解できない。 どうして彼が、そんな顔をするのかも。
初めて呼んだ、彼の偽名。 それなのに、全然合ってないじゃないか。
貴方の動揺が、こちら側に伝わってくるなど。 今までにそんなことは、一度だってなかった。
黙ってないで、答えてくれよ。 目を逸らさず、逃げずに。
"にげないでよ。"
…逃げないでくれ。
その時、確かに口から零れた俺の声は。
「ライア」であるはずの、声は。
あの六畳間に響く、"俺"の声と。 大して変わりはしなかったんだ。
「ライア -その線で⬛︎して-」 第六話