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αとβ それが交わることは科学的にありえない。 その運命に抗おうとすることこそ最も不毛なことであるのだろう。
だが、この男は昔から常識など通じなかった。 それがこいつの長所であり、俺を悩ませる要因でもあった。
俺
まるでよそ見をするなというように強い痛みを与えられる。
この部屋には二人の男がいた。
一人がもう一人に覆い被さり、項を執拗を噛んでいる。
だが、片方がいくらフェロモンを塗りたくっても、もう片方がそれを感知することはなかった。
俺がこの状況に遭遇したら思わず失笑してしまうだろう。
クソ川
覆い被さられているのが俺で、噛んでいるのが俺の幼馴染でなければ。
がりっ ぴちゃ じゅるる
粘着質な水音が部屋に木霊する。 思わず耳を塞ぎたくなるが、手を抑えられていてそうにもいかない。
ここで勘違いしてほしくないのは、この行為に情などないということだ。 べつに好きで噛ませているわけではない。
ただ、あのときのこいつがあまりに悲惨だったから、仕方なくおれてやっただけだ。
ばたんッッッ
過酷な部活を乗り越えて帰ってきた直後、及川は勢いよくドアを開けて俺の部屋に入ってきた。
俺
俺
クソ川
及川は入って早々に俺の肩を掴んで押し倒そうとしてきた。
俺は咄嗟に肘をついて耐える。
俺
そう言って視線を上げれば、そこに普段の癪に障る顔はなく、酷い有様をしている及川がいた。
いつもの希望を見据えた目は光を宿しておらず、目元は赤く腫れていた。
そのただならぬ空気に息を呑むと、及川はゆっくりと口を開けた。
クソ川
クソ川
俺
俺は何を言われたかわからず呆然とした。
そこを畳み掛けるように言葉の散弾を撒き散らす。
クソ川
クソ川
クソ川
散弾がやみ、一瞬の静寂が訪れる。 やがて、噴水のように思考が溢れ出した。
俺
俺
俺
そいつの傍若な振る舞いに怒りがこみあげてきたが、幼馴染故に理解してしまう。
その言葉は、表面上は高圧的だが、実際は及川の渾身の叫びなのだと。
そのとき、脳裏にあの頃の記憶が映しだされた。
岩泉
岩泉
及川
嗚呼、そうだった。 あのときのあいつもこんな顔をしながら強がっていた。
そして俺は、悲痛な叫びを押し殺すあいつを見て、その度にいたたまれない気持ちになっていた、と思い出す。
そうして、気付けば俺は首を縦に振ってしまっていた。
花巻
俺
花巻
そう言って花巻は自身の項を指した。
俺
そこには、湿布が貼られていた。
花巻
松川
俺
松川
あれから、例の行為はずっと続いている。 あいつを許していくうち、俺の中にあるわだかまりは増大していった。
俺
及川は、俺のことが好きなのだろうか。男であり、ただのβである俺が。
わからない。 幼馴染であるのに、及川の思考回路が読めない。
俺
ずく
俺
思わず腹を抑える。
1番わからないのは、この身体である。
この痕が深くなるうち、下腹部が疼くようになってしまったのだ。
まるであるはずもない器官が俺に主張してきているようで、気味が悪かった。
クソ川
クソ川
俺
クソ川
クソ川
俺
取り留めのない会話をしながら帰路につく。
はたから見れば普通の男友達だが、家に着けば、俺達は明らかに友達の範疇を超えた行為をする。
そして、明日になればその行為を湿布の下に隠して、何事も無かったかのように振る舞うのだろう。
クソ川
俺
及川と別れ、帰路が静かになる。
俺
俺
なんとなく、いつまでもこのままでいれば俺達はきっと駄目になる気がする。
ーーだから俺は今日、この関係に終止符を打つと決めた。
もう、はっきりさせよう。 俺たちがなんなのか。
決意を固めながら俺は自室のドアを開けた。
部屋に入れば、床に堂々と置かれている物に違和感を覚える。
俺
俺
エナメルバッグを煩雑に置き、ユニフォームを手に取った。
どくん
俺
急に衝撃が脊椎を走り、膝から崩れ落ちる。
動悸が激しくなり、大量の汗が噴き出る。熱い血液がどくどくと全身を巡っている。
俺
俺
そして、下腹部が尋常ではないほどに疼いてくる。
どろ
俺
俺
急速に身体がつくりかえられていく。
俺
自分の身体が自分のものではなくなる感覚に、ひどく恐怖した。
俺
Ωみたいじゃないか
きっかけは、ある昼休みのときのことだった。
俺
岩ちゃんの教室に行こうと思い、廊下を歩く。
岩ちゃん
すると、中庭に岩ちゃんがいるのが見えた。 何故そんな場所にいるのかと、俺は窓から声を掛けようとした。
女子生徒
優しそうな高い声にぎょっとする。
身を乗り出せば、もう一人女の子がいることに気付いた。
俺
喉を震えさせて出たそれは、自分が驚くほど低かった。
その2人は、気恥ずかしそうに頬を赤らめていたのだ。
その状況を、考えたくなかった。
だが、その思いに相反して鼓動は激しく鳴り、身体は急速に冷えていく。
俺
急に、俺達を結んでいる糸が解れる気がした。
繕わなければ。
もっと強固なもので。 二度と離れられないように。
ぐちぐちと、卑猥な音が部屋に響く。
体温が上がり息が熱くなる反面、俺の心はずっと冷えたままだった。
俺
俺のユニフォームに、これほどかというほどのフェロモンをかける。
あいつは、こんなに強いフェロモンだって感知することはできない。
だから、気付いてくれるように俺の想いを濃く染み込ませてやる。
俺
俺
俺
俺
………がちゃ
家に上がれば、1階に人気はなかった。
それもそのはずだ。 だって、俺が岩ちゃんの親と俺の親が出掛けるように仕向けたんだから。
階段をゆっくりと上っていく。
1段、2段とあの部屋に近づくにつれ、顔が強張っていくのがわかる。
俺
失敗してしまったのだろうか。 やはり、ネットの情報だけでは不確実だったのか。
俺
気付かれないよう、静かにドアの前に立つ。
息を殺して、そのドアノブに手を伸ばした。
…………ぐちゅ、………ぴちゃ……
俺
手がぴたりと止まる。
顔に熱が集中する。 血液は滞りなく巡っているのに、心臓は必要以上に血液を送った。
慎重にドアを開ける。
すると、微かにフェロモンが香った。
もうそれだけで鼻血が出そうだ。
部屋を見渡せば、岩ちゃんは何処にもいなかった。
だが、代わりにこんもり山なりになったベッドと、その周りに脱ぎ散らかっているジャージがあった。
暴走する本能を必死に抑えつけ、ゆっくりと近づき布団を剥ぐ。
岩ちゃん
そこには、俺のユニフォームを抱いて、見たこともない扇情的な顔をした岩ちゃんがいた。
岩ちゃん
潤んだ瞳に貫かれ、無意識に口角が上がる。 今鏡を見たら気持ち悪いことになっているだろう。
俺
岩ちゃん
なにも履いていない下半身に指を這わせる。
岩ちゃん
俺
岩ちゃん
俺
俺
岩ちゃん
その目が、迷いに揺れる。 そして、すこし力強い光を宿しはじめていた。
まだ理性が残っているのかと内心舌打ちする。
あともう一押し
俺
俺
岩ちゃん
俺
俺
俺
まさに頭を殴られたというような顔をする。 お前は昔からわかりやすいよな
俺
俺
岩ちゃん
そう言ってやれば、その目から力強い光は完全に消え失せ、再び濁りはじめた。
ああ、
ーーー堕ちた
岩ちゃん
岩ちゃん
喉から手が出るほどほしかったその言葉に、俺は震えるほど狂喜した。
俺
やっぱり、お前は俺がいなきゃ駄目なんだよね。
俺
ベッドを軋ませながら、岩ちゃんに覆い被さる。
俺
ネクタイを緩め、シャツのボタンを外す。
俺
この部屋には男が二人いた。
一人がもう一人の膝に乗り、激しく揺れている。
そして、壊れそうな勢いのあるスプリング音と、接合部から漏れ出る水音が響く。
岩泉
及川
岩泉
岩泉
及川
及川
及川
上がる腰を抑え、最奥まで突き上げる。
岩泉
及川
絶頂に達する度うねるそこに射精を促され、その男も果てる。
そこはその液を一滴も残さず搾取するように強く吸い付く。
及川
岩泉
男は再び律動をはじめ、それと同時に口を塞がれた。
岩泉
及川
深く長く続くそれに、段々脳が酸素を欲する。
その男の肩に添えられた手に力を入れ、押し返そうとする。
だが、いつもの馬鹿みたいに強い力には到底及ばず、その男を微塵も動かせなかった。
岩泉
及川
糸を伝いながら艷やかな唇が離れる。
及川
そのすぐ直後、項を一層強く噛まれた。
瞬間、ひどく甘い痺れが背筋を走る。
岩泉
及川
二人はまた絶頂に追い込まれる。
二人には、それが何度目なのか、どのくらいの時間が経っているのかすらも、もうわからなかった。
及川
異様に膨らんだ腹を撫でる。
岩泉
律動していなくても、快楽の波はもうとまらなかった。
及川
及川
及川
その言葉に何かが壊され、熱いものが頬を伝う。
岩泉
及川
顔にあわない、打撲しまくって太くなった指が涙を拭う。
岩泉
及川
及川
段々瞼が重くなり、ゆっくりと閉じられていく。
及川
及川
それが、世界が暗転する最後に聞いた言葉だった。
214
れな
1
れな
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