炭と善と、

炭治郎からは、いつも優しい音がする。心の柔らかいところをそっと抱きしめられて温められるような、緩やかな血のめぐる音と、様々な思いが、まるで川のせせらぎの様に聞こえて、癒される。

「なに？」

「ん?手? はい....これでいいのか?」

「うん... どうしたんだ、炭治郎?」

炭治郎は、俺の開いた手のひらをゆっくり掴んで、まじまじと見つめる。

「おい...なんだよたんじろ...っ」

そう言って、炭治郎はゆっくりと俺の指を自らの唇に当てて、すんっ、と空気を吸い込んだ。

「それは、炭治郎も一緒だよ。
お前はいつも、優しくて、甘くて、落ち着く音がする...」

「炭治郎、ちょっとだけ、いいかな?」

徐に炭治郎と距離を縮めて、そっとその身体に抱き着くと、炭治郎は慌てながらも、優しく俺の背中を撫でてくれる。

あぁ、やっぱり、炭治郎のことが、俺は...」

炭治郎は、俺が中々言い出せなかった言葉を、いとも簡単に、それも、この上なくまっすぐな音で、伝えてくれた。

「炭治郎、おれのにおい、感じる?」

「俺も、お前の音が大好きだ。いや、その、音だけじゃなくて、炭治郎自身も、だけど...」

女の子相手なら、スラスラと文句が浮かんでくるのに、炭治郎の優しさに包まれていると、中々上手く言葉が出ない。
おかしいな、俺。

「炭治郎...俺の匂いを感じ取れるのは、炭治郎だけだ...だから、」

「もう!なんで先に言っちゃうかなあ!!言わせてよ!!そこは!!」

炭治郎はニッと笑って、俺の頭を撫でた。

「うん...俺、死ぬかも知んないけど」

「おおおおい！！！何やってる!早く行くぞ！！！猪突猛進！！！！」

このまま、ずっとこの音、風景が続くよう、俺は願いながら、足を進めた。