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3プッシュ
リビングは、昨日からずっと静かで、嫌な空気が流れている
俺とうりは、約束をしたあの日から一言も喋っていない
なんなら、昨日から目すら合わせていない
キッチンの方からは、のあさんたちが小声で話している声が聞こえる
のあ
るな
…普段と俺とうりの雰囲気が違うから
俺たちのせいで、みんなにまで気を使わせている
…わかってる。わかってるけど
どうすればいいのか分からない
ただ俺は、自分の手元をじっと見ていることしかできなかった
そこに、じゃぱぱがひょいとリビングに顔を出した
じゃぱぱ
じゃぱぱ
いつもの、なんてことない一言
でも、その場の全員が俺とうりを見た
るな
のあ
のあ
のあさんは笑っていたけど、その目は「きっかけ」を作ろうとしているのがバレバレだった
ゆあんくん
うりは何も言わずに玄関に向かって歩いている
ゆあんくん
断ろうとした瞬間に、のあさんの手が俺の背中に触れた
そのまま、ぐいっと押される
のあ
ゆあんくん
のあ
断る隙もなかった
そのまま俺は、うりがいる玄関へと向かうしかなかった
バタンッ
じゃぱぱ
のあ
のあ
ふと、のあは窓を見る
窓の外では今にも泣き出しそうな灰色の雲が、さらにその色を濃くしていた
コンビニの自動ドアが開いた瞬間、ぶわっと湿った風が吹き込んできた
予報にもなかった土砂降りの雨だ
俺とうりは、逃げるみたいに狭い軒下で足を止めた
うり
うり
隣でうりが小さく毒づく
俺は何も言えないまま、ただ雨を見つめていた
うり
ゆあんくん
すぐ隣にいるのに、肩が触れそうな距離なのに
俺たちの間には、一昨日あいつが引いた境界線がくっきりと残ってる
ビニール袋の中、じゃぱぱに頼まれたコーラが、カチカチと冷たい音を立てた
ゆあんくん
ゆあんくん
一昨日のことが、ずっと頭から離れない
約束した「もう触れない」っていう誓い
それが呪いみたいに俺にまとわりついて、喉の奥で言葉が泥みたいに詰まる
話しかける勇気なんて、俺には一ミリも残ってなかった
その時
空を真っ白に塗りつぶすような雷鳴が響いた
ドォォォォン!!
うり
空を引き裂くような轟音
うりの肩が跳ねてスマホを落としそうになるのを、視界の端でとらえる
そしてあいつは、耳を塞いで、その場に蹲った
ゆあんくん
配信で見せるような強気なうりなんて、どこにもいない
小刻みに震えてるあいつは、今にも壊れそうに見えた
ファンとして何年も見てきたはずなのに
こんなに弱りきったうりは、俺の知らない「ただの人間」だった
うり
うり
呼吸が苦しそうで、何かに怯えてる
……助けたい。今すぐに触れたい
でも、俺が触れたら、あいつはまたあの「迷子のような目」をするんじゃないか
俺の手は、あいつを助ける手じゃなくて、追い詰める手なんじゃないか
ゆあんくん
自分の不甲斐なさに吐き気がした
あんなにも好きなやつが、推しが。 こんなに怯えてるのに、俺は一歩も動けない
その時だった
ギュッ
ゆあんくん
俺のパーカーの裾を、うりの手が、力任せに掴んでいた
指先が真っ白になるくらい、強く、強く、縋るように
うり
雨の音に消されそうな、小さな声
けど、俺を拒絶した時のうりじゃない
見上げたその瞳は、ただの、縋るような子供の目だった
その瞬間、俺の右手は、無意識にあいつの肩へ伸びていた
でも
ゆあんくん
一昨日の、あの氷みたいに冷たい「やめて」っていう声が、頭の中で何度も響く
今俺が触れたら、こいつはまた傷つくかもしれない
俺の手は、あいつを助けるためのものじゃない
そう思うと、伸ばした指先が、あいつの数センチ手前で震えて止まった
うり
うりは俺の胸に顔を埋めるようにして、さらに強く俺の服を握りしめる
耳を塞ぐことも忘れて、ガタガタと震えながら
ゆあんくん
ゆあんくん
触れることも、抱きしめることもできないまま、俺はただ、震える声を絞り出した
一昨日からの「約束」が、俺の腕を後ろから縛り付けているみたいで
助けたいのに、触れられない
自分の不甲斐なさに、奥歯を噛み締める
うり
うり
うりが、掠れた声で呟いた
俺の服を掴む手に、さらに力がこもる
ゆあんくん
ゆあんくん
雨の音はさらに激しくなって、世界には俺とうりしかいないみたいだ
うりの震えが、俺の服を通して、直接心臓に伝わってくる
あんなに遠かったあいつが、今は俺のすぐ目の前で、俺の裾を必死に掴んでいる
俺は、ただただ自分の情けなさに泣きたくなりながら、震えるうりのそばに、傘にもなれないまま立ち尽くしていた
コメント
2件
書き方めっちゃ好きです~! 続きまじで気になります😍💭