麻里奈
さ、ついたよ
ユイト
結構立派なとこ住んでるんだね
麻里奈
外観だけだよ、部屋は二人じゃちょっと狭いくらい
ユイト
だとしても家がない俺にとっては贅沢だよ
麻里奈
ほら、あがって
ユイト
おじゃまします
麻里奈
どうぞ〜
麻里奈
…まずタオル持ってくるね、ちょっと待ってて
ユイト
うん、ありがと
麻里奈
(結局勢いに身を任せて連れて来ちゃったけど大丈夫かな〜…)
麻里奈
(年下とはいえ男の子だし…いや、変に意識しないようにすればきっと大丈夫…!)
麻里奈
お待たせ、はい、タオル
ユイト
はぁ〜あったかい…
麻里奈
ずっと雨の中にいたら冷えるよね
ユイト
ね、シャワー借りてもいい?
ユイト
マリちゃんの後でもいいからさ
麻里奈
私はそんなに濡れてないし、ユイトくん先にあびてきなよ
麻里奈
乾燥機も使っていいから
ユイト
ほんと何から何までありがとうね
ユイト
俺、マジで家事とか得意だからさ
ユイト
期待しててよ
麻里奈
はいはい、わかったからシャワー浴びてよ
麻里奈
家に置く人が風邪ひいちゃったら色々こっちも困るから
ユイト
はいはい
ユイト
マリちゃん辛辣だわ〜
麻里奈
相変わらず馴れ馴れしい…
ユイト
へへ
ユイト
だって一緒にいて楽しいから
麻里奈
…
麻里奈
(意識、しない…)
ユイト
ん?どうした?
麻里奈
あ、ううん、なんでも
麻里奈
ちょっと考え事してた、だけ
麻里奈
ほら、これ以上突っ立ってたら風邪引くからさっさと浴びてきて!
ユイト
わっ、背中押すなって
麻里奈
いいからいいから!
私は彼の背中をお風呂場まで押しこむと、どっと疲れが押し寄せた気がした。
麻里奈
(…思えば自分以外の人をここに連れてきたの、初めてかも)
麻里奈
(…なんで自分はあんなことをしたんだろ)
しばらく考えてみても、答えは見つかりそうになかったので、部屋着に着替えて、コーヒーを淹れることにした。
麻里奈
(もうお昼過ぎてるんだ)
麻里奈
(…ユイトくんもお腹、空いてるのかな)
家出をしている状態なら、ご飯を食べていない可能性もある。そう思った私は軽食を作ることにした。
麻里奈
(家事ならなんでもする、って言ってたけど…まぁ別にこれぐらいしてもいいよね)
部屋にトントントン、と包丁によるリズムが刻まれる音が響く。フライパンを温めたあと、鶏肉を焼いてソースをからめる。あとはもうパンを焼いて挟むだけだ。
麻里奈
(あの時、仕事忙しくて家事する暇ないみたいなこと言ったけど…実際家事するの嫌いじゃないしなぁ…)
麻里奈
変な嘘、ついちゃったかも
ユイト
何が嘘なの?
麻里奈
…へ?!
ユイト
へへ、お風呂いただきました
麻里奈
いや、えっ、ちょっと…!
ユイト
何、そんな顔赤くして
シャワーを浴びたばかりの彼は、あろうことかタオル一枚の上半身裸というスタイルだった。
麻里奈
(なんでその格好で女の前に出られるの…!?)
ユイト
ん?どうした?
麻里奈
どうしたって、なんで当然のように出てこれたの!
ユイト
えーだって、乾燥機まだもうちょっとかかりそうだったから
麻里奈
だったら向こうで待ってた方がいいんじゃ…
ユイト
んーいや、ほらさ
ユイト
お風呂上がったらなんかジュージュー焼いてる音聞こえたから
ユイト
せっかく俺が家事するって言ってんのにマリちゃん何してんの!って思って来ちゃった♪
麻里奈
来ちゃった♪って…
麻里奈
別に、お腹すいたから作ってただけで…
ユイト
二人分も?
麻里奈
…
ユイト
もしかして結構食べる人?
ユイト
こんな細いのに…へぇ、意外だわ
麻里奈
…っ!?
ユイト
あれ、マリちゃん顔赤い
ユイト
ねぇマリちゃんってさ…
麻里奈
(…ま、まずい)
近づいてくる彼の肌色、体温、腰に回された手、頭の中がぐるぐるする。心臓の音も早くなるのがすぐにわかった。
ユイト
痛っ!!
気づいたら彼をビンタしていた。一瞬私もなにしてんだ、と呆然としたがすぐに持ち直した。
麻里奈
自分のこと大事にできるの自分しかいないんだから!軽率にそんなことしないで!
ユイト
…
麻里奈
…あ、えっと…ごめん、もしかして痛かった?
ユイト
…いや、音はしたけどそんなに痛くないし
ユイト
俺も、ごめん
ユイト
だいたいこんな風にしとけば喜ばれるかなって思ってたから
麻里奈
…
麻里奈
今まで、こうしてたの?
ユイト
…そう
麻里奈
ふーん…
麻里奈
喜ばせたいって思うなら、服着て大人しくしてること
ユイト
はいはい
ユイト
…待って、家事は俺がするって言ってんじゃん!
ユイト
もしかしてマリちゃんがついてた嘘って家事のこと?
麻里奈
なっ…
ユイト
お風呂場見ればわかった
ユイト
ちゃんと隅々まで掃除してあったし、家事ちゃんとしてるじゃんって思った
麻里奈
…あはは、そうだね
麻里奈
ユイトくん鋭い
ユイト
…それでも、俺を置いてくれんの?
麻里奈
そう、だよ
ユイト
…そっか
ユイト
それならいいや
麻里奈
いいんだ?
ユイト
うん
ユイト
でも家事はするから
ユイト
じゃないと俺拾ってもらった意味ないし
麻里奈
そっか
麻里奈
…じゃあ少し、お願いしよっかな?
ユイト
よっしゃ
ユイト
…少しとは言わず、全部でもいいのに
麻里奈
そんなの申し訳ないよ
ユイト
…俺がここにいる理由、ちゃんと作りたいんだよ
麻里奈
…
麻里奈
とりあえず、私の家にいたいなら
麻里奈
まずは服着てくれない?
すると、タイミングよくピーッと乾燥機から音が鳴った。
麻里奈
ほら、着替え終わったらまたこっち来てね
麻里奈
私お腹空いてるから、一緒にご飯食べよ
ユイト
うん
麻里奈
これは家主命令だから
ユイト
命令なの?
麻里奈
そう、ちゃんと上下関係作った方がいいって今わかったから
麻里奈
じゃないとまたあんなことしちゃうでしょ?
ユイト
はいはい
ユイト
じゃ、着替えてくるわ
麻里奈
うん、いってらっしゃい